大司教は魔王になりルードを攻撃しました
「ルード、助けに来てくれてありがとう」
私は顔を上げてルードを見上げた。
「当然だろう」
私の言葉に応えるルードは何故か明後日の方を見ているんたけど……
何でだろう?
ダンッ!
その時だ。
壊れた倉庫を突き破って、大司教が顔を出した。
「おのれ、ルードの小僧! 貴様、よくも私をこのような倉庫に放り込んでくれたな!」
がれきを弾き飛ばして大司教は立ち上がった。
「化け物め。まだ死んでいないのか?」
ルードは私を後ろに庇って前に出てくれた。
「もう、許さん! 俺様の本気を見せてやるわ」
なんか、大司教の周りにおどろおどろしい黒い塊が漂いだしていた。
「バルトルト、貴様、黒死竜でもその体に飼っているのか?」
ルードが言い出したんだけど、黒死竜って、確か、世界最強の魔物だったはずだ。
そんなのが大司教に憑依していたら、いくら、ルードでも勝てない。
私はぎょっとした。
「はっはっはっは! 黒死竜か、そんな柔な者では無いわ!」
大司教はそう高笑いしたのだ。
「何を言っている。黒死竜以上の強敵などいる訳なかろう?」
ルードの言うとおりだと思う。
私もそれ以上強い奴がいるなど聞いたことは無かった。
「ふんっ、こんな無知な者が皇子にいるなど帝国ももう終わりだな」
大司教は馬鹿にしきった声でルードを見下してくれるんだけど……黒死竜以上の魔物なんていたっけ?
「判った、黒龍だ」
私がポロリと言った。
「何で黒龍なんだ?」
ルードが聞いてきた。
「だって黒死竜って死んでいるんでしょ。生きている竜の方が強いかなと思って」
私が言うと、
「クラウ、違うぞ。魔物はゾンビの方が強いんだ。特に黒死竜は呪いを体に纏っているからな。黒龍の10倍は強い」
「えっ、そうなの? じゃあ、あの大司教の偽物が嘘を言ったの?」
私は大司教を指さした。
「な、何が大司教の偽物じゃ。俺様はこのミネルヴァ教教会を取り纏める大司教に違いないわ」
「でも、神様じゃなくて魔物を信仰しているじゃない。そんなの破門されてしかるべきだわ。だから偽物なのよ」
「おのれ、貴様、言わせておけば良い気になりおって、我が真の姿見て畏れてももう遅いぞ」
そう叫ぶと偽の大司教は杖を空に指したのだ。
その杖に向かっておどろおどろしい何かがどんどん集まってきた。
「出でよ、聖女よ」
そして、大司教が叫ぶと校舎のガラスがパリンと割れて、後ろ手に縛られた聖女が宙に浮いて現れた。
それはあっという間に、大司教の下に運ばれた。
「大司教様。助けに来て頂けると思っていました」
聖女が縄を解かれて大司教に抱きついていた。
「おお、聖女よ。捕まるとは仕方が無い奴じゃの」
「あの女が悪いのです」
そう言うと私を指さしてくれた。
「そうじゃな。あの女ももう終わりじゃ」
「うれしい。大司教様。さっさとやって下さい。いや、それよりもじわじわといたぶってやった方が良いかもしれませんね」
聖女は喜々として言ってくれた。
何を言ってくれるのよ! あなたそれども聖女なの?
私は聖女に怒鳴りそうになった。
「そうじゃな。そのためにはその方の力が必要なのじゃ」
「私ですか? あの女を殺すためなら何でもやります」
聖女はやる気満々で言ってくれた。
私は舌打ちしたくなった。
こんなんだったらさっき思いっきり殴り倒してやれば良かった。
「そうか、そうか、何でもしてくれるか」
大司教はうれしそうに言った。
「俺様が強くなるにはその方の生き血がいるのじゃよ」
「はい?」
聖女はきょとんとした。
「見るな」
私はルードの体で視線を遮られた。
「ギャー」
その聖女の悲鳴が聞こえた。
「大司教様。何故」
聖女の苦しそうな声がした。
「はっはっはっは。聖女など俺様には必要ないが、闇落ちした聖女はあの方の復活に必要なのじゃよ」
大司教の声が響いて、
「イヤーーーーー」
聖女の断末魔のような声が響いた。
そして、真っ黒な巨大な渦が出来て、その中に周りの魔物が次々に飲み込まれていった。
私はルードに押し倒されてその渦から避けた。
黒い稲妻が空から落ちてきて、周りを次々に襲う。
爆風が吹き荒れて、周りは真っ暗になった。
「「「ギャーーーー」」」
魔物達の悲鳴が学園内に響いた。
どれくらい経ったろうか。
ほんの1分も経っていないはずだが、私にはとても長い時間に感じられた。
黒い、もやが晴れてきた。
そして、その地には黒い影が見えた。
そこには黒い男がいた。
闇の集合体のような男が。
周りにはシスターも司祭もたくさんいた魔物も全てきれいさっぱりいなかった。
全部その黒い男に吸収されたみたいだった。
「わっはっはっはっ。ついに俺様は復活したぞ」
その声は大司教そのままだったが。
見た感じ全然強くは感じられなかった。
「ま、魔王だ」
ルードの声がした。その声は震えていた。
私はぎょっとした。
この世の終わりに現れると言われる魔王がそこにいたのだ。
私が唖然としたときだ。
魔王はこちらを見てくれた。目が爛々と光っている。
「まずは貴様らを生け贄にしてやろう」
魔王はにやりと笑ってくれた。
「逃げろ!」
私はルードに押されていた。
ズカーーーーーン
魔王の手から火が走り、それはルードの背中に命中したのだ。
ルードが血しぶきを上げて吹っ飛んでいく様が私の目にはスローモーションのように見えたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
大司教が魔王になりました。
絶体絶命のクラウとルードの運命やいかに
続きは明日です。








