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「あいつを追放したのが間違ってたと思うんだよ、やっぱり」

 と、のたまう勇者に対する仲間たちの視線は厳しい。それはそうだ、彼らの共通認識はこの男がそれを言いだした瞬間に整っていたのだから。

「いまさら何言ってんだよ! 死ね馬鹿クソが、ぶち殺すぞ」

 賢者はそれまでの冷静で温和な口調をぶち壊して罵る。たぶん彼女が一番怒っている。

「私はあの時言ったよね、『まず間違いなくいつか後悔するけど、いいの?』って」

 聖女の口調も辛辣だ。神眼が危うい輝きを放っている。たぶん彼女が一番恐ろしい。

「死にたくなかったらあの子の前を歩くなって、僕が言ってたの聞こえてた?」

 斥候の彼も容赦ない。その長耳に拾えない機微を捉えていたあの子ことを、彼はとても買っていた。たぶん彼が一番愛してる。

「お、俺もそう思う! お前が悪い! あいつは俺に優しくしてくれた!」

 愚鈍にして純情な盾持ちが、思うままに叫ぶ。こいつは一番のアホだ。でも悪くはない。たぶん彼は一番のお人好しなのだ。たとえそれまで勇者に追従していたとしても。

「――解ってる。今にしてみれば、あの時の俺が馬鹿でクソで間違ってたって。でも、でも〝あの時点で〟それが間違った選択だなんて俺に判るわけないだろう? な?」

 彼ら五人組のパーティーは現在苦境の最中にある。モナカではない。ガチでヤバい状況だ。勇者が軽い気持ちで受領したS級クエストの失敗により、王都が失陥の危機にあるのだ。


「切腹しろ、今。その首を持って彼に復帰を願って来る」

 斥候のサーシャにボンクラを容赦する気分はない。早く殺しておくべきだったと後悔している。

「がッ、クソっ。――こいつの消し炭を持っていったら、彼は許してくれるの?」

 魔法陣を背景に混乱している賢者であるアリサは、女子としての語尾を取り戻そうと急いでいる。

「……神は言いました。『汝、跪くものを赦せ』と。でも私は嫌!」

 危機を前に、聖女ヘンリエッタは揺るがない。勇者に従う運命に抗うと決めた。



 かと言って、彼女らの願いが間に合うのかと言えば、無理寄りの無理だ。勇者が追放した〝識眼使い〟の村は遥か遠いのだから。



「乗客に日本人はいませんでした、か」

 青年の独り言ちに応えるものはいない。天を仰ぐこの転生者に優しくない世界はいつまでも、ただ優しくない。持って生まれた素質はなく、前世の知識は朧げで役に立たない。望んでも強くなれない戒めをこの世界に与えられ、俯いて生きるしかないと。


 しかし彼こそが夢抱いて王都に旅立ち、失望を抱えて帰還した小さな人である。

「やっぱ駄目だったか。まあ、俺じゃ、な」

 立身出世を求めて都会に出て、己の卑小さに気付く暇もなく存在を否定され、返す言葉もなく、すごすごと田舎に戻って来たヌケサクという評価を肯定する者は、実のところ彼自身のみである。

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