9,殺し方。
〈混沌の館〉は、もとは城塞都市のひとつだった。
城塞都市アーク。
しかし混沌の信徒たちの襲撃により陥落。都市の市民たちがどうなったのかは分からないという。
「なぜ城塞都市が根城なのに〈館〉なのか、説明しますね。それは、はじめは本当に館だったんです。あっちの森林の奥に、その不気味な館はありました。城塞都市アークは、〈混沌の館〉を警戒していたんです。それなのに、あるとき、たった一晩で落されたと聞きます」
城塞都市アークの城壁は、〈混沌の館〉の信徒たちを阻むことはできなかった、ということか。
すると正攻法ではなかったのだろう、とシアは考える。
「都市アーク内に、〈混沌の館〉の者を手引きした輩がいるのか。または」
「はい?」
「アーク内に通じる、抜け道のようなものがあるのかもしれない」
城塞都市アークの周囲を探索すると、やがて古井戸を見つけた。古井戸の底には水がなく、かわりに横穴に通じている。
まずシアが古井戸に飛び降りて、セーラを受け止めた。
セーラはネズミの死骸を踏んで短く悲鳴をあげてから、横穴の入口を見やる。
「この横穴、都市内に繋がっているのでしょうか?」
「もとは都市内から外への非常用の脱出のための天然洞窟だったようだな。それを逆手に取られるとは、バカバカしい」
洞窟の向こうから、青く光る物体が近づいてくる。セーラが小声で、
「幽霊じゃないですか???」
「幽体を殺す術はないので、それだと困るな」
だが正体は、混沌の信徒の一族〈槍脚〉の一体だった。その〈槍脚〉が腰にさげているのが、光る石。暗い洞窟で松明がわりにしているようだ。
「やはり見張りがいたのか」
「なぜ気づかれたのでしょう? あ、もしかして、わたしがさっき悲鳴をあげたせいですか?」
シアは肩をゆすってから、見張りの〈槍脚〉と対峙する。〈槍脚〉は洞窟内へ一瞬顔を向け、奇声を発した。仲間を呼んだのかもしれない。
シアはブロードソードを鞘から抜く。この〈槍脚〉は、曲剣を装備していた。槍状の脚と連携して、高いところから曲剣で斬りかけてくる。
長らく死んでいたせいで、剣の腕もさびていた。
いくらか苦戦してから、〈槍脚〉の手から曲剣を弾き落し、脚の片方を斬る。
仰向けに倒れた〈槍脚〉の胸部を踏みつける。
それからセーラを見やって、
「そこの曲剣を拾ってくれ。混沌の信徒に情愛があるのか、確かめてみよう」
この先に、見張りの〈槍脚〉の仲間がいるのならば。
このまま進むのは、待ち伏せをくらいに行くようなものだ。おびき出すしかない。
曲剣の切っ先を、踏みつけている〈槍脚〉の胴体に突き刺す。ただし殺すまでは深く刺し込まない。じわじわと押し込み、憐れな悲鳴をあげさせる。
その柄を、セーラに預けた。
「殺さない程度に加減するんだ」
「はぁ。わたし、こういうのは初めてなので、上手くできるか心配です」
と言いつつ、セーラは熱心に、〈槍脚〉に悲鳴を上げさせはじめた。考えてみると、セーラの家族は〈槍脚〉の一族に虐殺されているのだから、ここで復讐心が芽生えたのもうなずける。
シアは洞窟内の影に潜み、何か動きがないかを見守った。
やがて洞窟の先から、三体の〈槍脚〉が慌てた様子で駆けてくる。仲間を助けるため、有利な場所から自ら出てきたというわけだ。
泣ける話だ。混沌の信徒たちにも、仲間への情愛がある。
ゆえに殺しやすい。
〈槍脚〉たちが、こちらが隠れているところを通り過ぎるのを、シアは待つ。
それから、彼らの背後に音もなく進み出、まず一体目の〈槍脚〉の槍の両足を切断。動けなくする。
このときすでに〈追尾〉魔術で、洞窟内に転がっていた岩を発射。二体目の後頭部にぶち当て殺す。
三体目はさすがに奇襲に気付き、振り返って応戦しようとする。だがシアはそれを許さず、ブロードソードを投擲。この放たれた一撃を、三体目の〈槍脚〉は身軽に跳んで回避した。
「見事な躱しだ。しかし、あいにくだったな」
投擲したブロードソードにも、〈追尾〉がかけてある。
よって三体目の〈槍脚〉の背後で反転し、背後から突き刺した。
最後に、一体目の槍脚──両足を両断した者──にトドメを刺す。
「セーラ。いつまで、そいつに悲鳴をあげさせているんだ。ラクにしてやれ」
「え、ああそうですね」
曲剣をじわじわと刺し込こまれ、いまも最初の槍脚は悲鳴を上げていたわけだ。
セーラはいったん押し込んでいた曲剣の刃を、引き抜く。それから、ゆっくりと槍脚の首を切断した。
「人を殺したのは、生まれて初めてです」
シアは肩をすくめた。
「おめでとう。これが最後じゃないさ」




