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6,領主。

 

 シアは、アレクの死体のそばに転がっていた大量の矢を、〈追尾〉魔術で浮遊させてみた。


 便利な機能として、『そこに大量にある矢』という認識だけで、浮遊可能。

 しかも浮遊させたことで、『大量の矢』の正確な数まで表示された。

 48本。


 アレクに教えてもらったルートで、農園館の先へと進み、最深部へ向かう。

 その途中では中庭を通り、八角の塔を横切っている。


 最深部は広々としたホールで、中央に長テーブルがあり、豪勢な食事が並んでいた。そこに長身の男が食事している。


「彼が領主か?」


 とシアに尋ねられたセーラは、困った顔をした。


「領主さまとお会いしたことがありません。遠くから見たことも」


 しかし、この荒れ果てた世界で、あんなに美味しそうな料理を独り占めしているのだから、領主なのだろう。


 シアはゆっくりと領主に近づく。セーラは、領主から離れたところに置かれている料理を素早くとって、食べだした。


 領主はナイフとフォークを置き、シアを見返す。


「遠いところからのお客さんか」


 シアは一考した。『遠いところ』とは、別世界という意味だろうか、と。

 つまるところ、この領主は、どまでシアの正体に気付いているのか。


「領主。おれに用があるようだな」


 近くに葡萄酒の瓶があったので、シアは手にとって何口か飲んだ。乾いていた喉が潤う。これに先んじて毒が仕込まれていたら、そのときは仕方ない。しかし、そこまで手の込んだトラップはなかったようだ。


 領主は不愉快そうに眉根を寄せる。


「いや、君を招いた覚えはないな。そちらの汚い娘とともに、退場してもらおうか」


 シアは、ちらっとセーラを見やる。自分でも興味深いことに、セーラを侮辱されたので、少しばかり腹が立ったようだ。


「あなたの市民だ。保護するべき市民」


「私は私なりに、彼らを助けている。だが彼らは私との、唯一の決まりを破った。君のような、〈平地〉の外から来た者を呼び込むとはな。呪いに汚染されていたらどうする?」


〈平地〉というのは、この領主の領土のことか。となると、さすがにシアが『別の世界から女神の指令で来た』とまでは知らないようだ。


「さぁね。では、単刀直入に聞こうか。なぜよそ者を殺そうとしていている? 〈理の王〉に命令されたのか?」


「〈理の王〉だと? ……君は一体、何が狙いだ? まぁいい。君のような下賤なものと、これ以上、話すことは何もないからな」


 領主が動く前に、〈追尾〉で10本ほどの矢を投擲。領主の全身に命中させる。複数の矢に刺し貫かれた領主が、ばたりと倒れる。


 セーラがパンを齧りながら、淡々と言った。


「簡単に倒せましたね」


 瞬間。領主の肉体が内側から裂けて、脱皮するようにして、内部が現れる。血まみれの悪鬼の姿で、緑色の炎を纏っている。


 セーラが叫んだ。


「化け物! 領主は、混沌の信徒だったんですね!」


「それとはまた別系統の気もするが。おそらく、地獄の種族」


 悪鬼形態の領主が、甲高い声を発した。


「薄汚い人間どもが八つ裂きにしてくれる!」


 領主の両腕から、緑色の火炎が放たれる。この火炎に、どのような特殊効果が付与されているかは分からない。しかし回避したほうが無難なのは、間違いない。


 シアはセーラを抱きかかえ、後退。

 同時に矢を飛ばすが、緑の火炎の渦に巻き込まれて溶けていく。


「ど、どうしますか、シアさん??」


「この農園館の中庭に、八角の塔があったのを見たか。あれはなんの塔なんだろうな。食糧庫か何かかもしれない」


「いま、そんなことを気にしている暇がありますか?」


 中庭の光景を脳裏に思い出す。中庭で横切ったとき、試しに塔に〈追尾〉の印をつけておいた。

 いま、〈追尾〉魔術によって、八角の塔は大地より持ちあがる。巨大な矢として。


「伏せろ」


「はい?」


 セーラに覆いかぶさるようにして、その場に伏せる。その頭上を、〈追尾〉で飛んできた八角塔が通過。悪鬼形態の領主にぶちあたり、その肉を貫いた。


 断末魔の悲鳴とともに、崩れる。

 シアは槍脚を手に領主のもとに駆け寄るが、すでに息絶えていた。ただ念のため、首に穂先を突き刺しておくが。


「この〈追尾〉という魔術。想像以上に使えるようだな」


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