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4,事情。

 

「ち、違います! 事情を聞いてください! 殺さないでください!」


「いいだろう、話せ」


 シアには、はじめからセーラを殺すつもりはなかった。『裏切っていた』ことが判明した以上は、ある意味、セーラはすでに信用が置ける。矛盾してはいるが。


 セーラが必死になって話したところ、はじめにシアに助けられたのは、計画でもなんでもなかった。

 その後、しばらくしてこの農園の主のことを思い出し、シアを連れていかねばと使命感を抱いたのだという。


「なぜ農園の主が、おれを捜している?」


 女神ラーズのヘマによって、すでにこの〈第肆世界〉に入ったことを、妹に気取られていたのだろうか。

 しかしシアの懸念は、ひとまずは杞憂だった。


「あの、シア様を探しているわけではありません。その、まずこの農園の主というのは、実は領主さまなのです。そして領主さまは、わたしたち領民に『よそものを見つけたら連れてこい』と命じられています。それで……従わないと、わたしたちは酷い目にあいます」


「いいか、おれは言い訳がましい人間は嫌いだ。それに、おまえの領主さまとやらは、結局、混沌の信徒たちから守ってくれなかっただろ。そんな領主に忠義を尽くすのは、バカバカしいと思わないのか」


「でも、あの、はい……」


「だが領主のところに案内してくれたのは、良かった」


 領主が『よそもの』を探していたのが気になる。単純に、自分の領土によそ者が入ることを嫌っただけかもしれない。

 だがそれは〈理の王〉からの命令ではないのか。

 すなわち、シアの妹であるリーアが、自分を殺すため女神が刺客を送り込んでくると見越して、網を張っていたのでは?


「領主には聞きたいことがある。どこにいるんだ?」


「……えっと。ごめんなさい。分かりません」


「仕方ない。行くぞ」


 先ほどまでは農園の労働者を見かけていたが、騒ぎを聞きつけたか逃げてしまった。

 だがシアを殺すため、領主が手下を向かわせているかもしれない。ならばその手下から、領主の居所を聞けばいい。ただし、ここに留まっていて数で囲まれると、さすがに厄介だ。


 セーラがきょとんとした顔をする。


「えっと。わたしも、ついていくのですか?」


「おまえはおれの道案内だろ? それに、領主に見つかったら、おまえも殺されるぞ」


「そんな!」


 どうもこのセーラという小娘は、頭の回転が遅いらしい。

 シアは槍脚を左に持ち、右手でセーラの襟首をつかむ。引きずるようにして移動しながら、説明してやる。


「領主は、待ち伏せが失敗に終わったのはなぜか、と考えるだろう。事実は、おれが部屋の外から、待ち伏せの奴らの殺気を感じ取ったからだが」


「そんなことが可能なのですか?」


「そういう反応を領主もしたならば、別の結論に至るだろうな。つまり、おまえが待ち伏せのことを、おれに密告していたと。とすれば、おまえをできるだけ残酷な方法で殺したくなるんじゃないか?」


 ようやく状況を理解した様子で、セーラの顔が蒼白となる。


 風切り音。


 シアは頭部を傾けて、最小限の動きで、飛んできた矢を回避した。

 しかし回避したはずの矢が軌道を変え、Uターンして、再度シアに向かって飛んでくる。

 槍脚で叩き落すと、さすがに矢も動きを止めた。


「誘導魔術か。標的にされたらしい」


 ぞっとした様子で、セーラが矢を見下ろす。


「ですが、シア様は見事に叩き落しました」


「ああ。だから次は、一斉に飛んでくるだろうな」


 案の定、どこからともなく、無数の矢が飛んでくる。それら無数の矢は、通路の角を曲がって向かってくる。誘導魔術の追尾のための目印を、すでに付けられていたようだ。


 シアはセーラを引きずるようにして、後退する。この数の矢を、この槍脚ですべて叩き落すのは難しそうだ。

 ()()()()()を取り戻せていれば、やりようもあったが……ないものを嘆いても仕方ない。


「そうだな。仕方ない」


 道案内を失うのは残念だが……。

 シアは、盾にするつもりでセーラを抱き上げ、飛来する無数の矢に向けた。


 セーラが悲鳴をあげる。断末魔の……

 ところが矢群は空中でとまり、床に落ちだした。


 セーラがほっと胸を撫でおろす。


「よ、良かった。わたしには当たらないこと、ご存じだったのですね、シア様」


「興味深いな」


 なぜ、セーラを避けたのか。

 この矢に誘導魔術をかけている者は、セーラを殺したくない、というわけか。


「なら、おまえにも別の使い道があるな」


「……はい?」

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