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39,交換。

 

 第参世界〈ノース〉にいたころも、大量の【恩恵】を集めたものだ。

 その経験から、シアは確信を持って言えた。


 回復系の【恩恵】はレアだということを。


 いまのところ、アール男爵が回復【恩恵】持ちだと決まったわけではない。

 ただ反応からして、ケド公爵の娘の舌を再接続できる、ような匂わせをしただけで。


「ところでシア様。肝心のケド公爵の娘は、死んでいるんですけどね。この死体、まだ処分していないんですが、肉を切り分けて焼いてみますか? それでアール男爵に、ステーキですよ、と言ってご馳走させてみますか?」


「お前は、たまに正気を失っているんじゃないか、と心配になることがある。とっとと死体は処理しろ。朝から蠅を見ると思ったら、同じ邸内に死体が放置されていたからか」


「はい、はい。さっきのは冗談ですよ、冗談です」


 拗ねた表情を浮かべて、セーラが立ち去った。


 そんなセーラと入れ違いに、下僕仲間の一人が、嬉しそうな顔でやって来た。

 この様子から、何か有益な情報を仕入れたようだ。

 ここ最近は、ログ公爵邸の中心は、シアとセーラになっていた。雇われていた傭兵や下僕たちも、いまはシアとセーラに、すべての報告を行う。


「シアさん。【恩恵】?というもののことで、ちょっとした情報がありました。お役に立てるといいのですが」


「話てくれ。どんな話でも、大歓迎だ」


「へい。ガドルガ辺境伯という貴族のかたがいましてね。同じ城塞都市に住んでいて辺境伯もなにもあったものではありませんが、まぁ昔の名残なのでしょう。で、この辺境伯邸の下僕が言うに、よく貴族の者たちが、ガドルガ辺境伯の邸を訪ねているそうです」


「その辺境伯の邸が、社交場になっているわけか」


「ええ。ですが、それだけではないんです。その下僕が言うには、やってくる貴族たちは、みな不思議な力を持っている、とか。おそらく、それがシアさんの言っていた【恩恵】とやらのことなのでしょう」


「なるほど。ガドルガ辺境伯は、【恩恵】持ちたちをよく集めているのか」


「それともうひとつありまして。ガドルガ辺境伯邸にやってくる貴族ですが、必ず二人ずつで来るそうなんです。あるとき、ある二人の貴族の会話を、偶然、下僕は耳にしました。こんな会話だったとか。『少しの間。お前の能力を借りるだけだろ』『この貸しはでかいぞ』『おれの能力は、その間、お前のものなんだ』『お前の雑魚能力など、いるもんか』『そういうなよ』と。どういうことか、あっしには分かりませんが」


「……そうか、助かった。ありがとう」


 この情報が意味するところは、ガドルガ辺境伯もまた【恩恵】持ちであり、

 その【恩恵】は、他人の【恩恵】を『交換』できる、ということではないか?


※※※


 アール男爵こと〈調停人〉を、ログ公爵邸に呼び出すことにした。

 婚約者を無事に取り返したかったら、一人で来い、と。


 当日。20代の男が、双剣を装備したまま、荒々しい足取りでやってきた。その後ろから、一人の若い女が、付き従っている。フードで顔を隠していた。


「ログ公爵! この卑怯者が! さぁ、来てやったぞ! 僕の婚約者を返してもらおう!」


 今回の誘拐も、主犯はログ公爵ということなっている。

 そんなログ公爵は、疲れきった顔で、相手を出迎える。そしてシアが事前に指示したとおりに言った。


「お、おれは、その、いいか、〈調停人〉。まずは、貴様の【恩恵】を見せるんだ。そうしたら、貴様の婚約者を返してやる」


 そのやり取りを、シアはセーラとともに、隠れて観察していた。

〈調停人〉の後ろに控えている女を見やりながら、


「一人で来い、と言ったんだがな」


「見たところ、護衛という感じでもありませんがね?」


「ふむ。何か引っかかるな」


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