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38,素材。

 


 貴族社会には噂がつきものだ。

 シアが調べたところ、貴族たちには多いらしい。【恩恵】持ちが。


 シアは、それらの者たちを『素材リスト』として、一覧に書いていた。

 さて、どこから手をつけたものか?


 片っ端から殺し、心臓を食らえば、どのような【恩恵】かが分かる。

 だが、それは無計画すぎる。一度に所持できる【恩恵】は三つであり、かつ『三つの恩恵の相互効果』を無視はできない。


 たとえば、『凍結』の能力と、『風』の能力は相互効果が高い。

 あわせれば敵を凍り付ける風を出すことができる。だが先に『風』だけ見ても、たいした【恩恵】ではない、と削除してしまうだろう。削除して、あとあと『凍結』の【恩恵】に出会っても、後の祭り。


【恩恵】をストックできないのが、《奪う》の弱いところだ。だから、できるだけ事前に情報を集め、素材リストの者たちがどのような【恩恵】を持っているのか、心臓を抉り出す前に知っておきたいわけだ。


 このリスト作成を、シアは厨房で行っていた。

 セーラが軽い足取りでやってきて、重たい口調で報告してきた。


「ケド公爵の娘さんが死にました」


 ケド公爵の娘は、すでに拉致済み。例の計画は、セーラに指揮を任せていた。

 その上で、この報告だ。いまのところ、まだケド公爵の娘は殺す予定がなかったのだが。


「そうか。なぜ死んだ?」


 ケド公爵の娘は、素材リストにはない。

 セーラは、パンにハムとチーズをのせて、食べ始めた。しばらくして思い出したように言う。


「ショック死ですよ。信じられます? ケド公爵の娘は、離れを持っていましてね。そこには大量の拷問器具と、多数の犠牲者がいたわけです。攫っていた市民を痛めつけて楽しんでいたんですよ。そんな女なのに、ちょっと舌をペンチで切っただけで、ショック死です」


「まぁ、そういうものだろう。計画は進めておけ。婚約者が死んだことは明かさず、当初の予定どおり『舌』を、アール男爵家の当主に送ってみろ。〈調停人〉に、な」


〈調停人〉は、素材リストに名がある。これは重要なことだ。


「思ったんですけど、切り取った『舌』だけで、誰の『舌』か分かるものですかね?」


 シアは眉間をもんだ。


「分かったらキモイな」


 翌日。シアが、ブロードソードを磨いていると、セーラが軽やかな足取りでやってきた。


「アール男爵から返事がありましたよ。あの舌が、ケド公爵の娘の舌だと分かったらしいですね。一応、手紙もつけておきましたけど。『こちら、あなたの婚約者の舌でございます』と。それで返事の内容ですが、婚約者を無事に取り返したい、そのためならばどんなことでもする──という内容です。すでに舌はないわけですがね、舌は」


「興味深い話じゃないか。貴族にも人の血が流れているらしい」


「平然とした顔をして、そんなことを呟いているシア様こそ、人の血が流れているのか不安になりますね」


「とりあえず、アール男爵、すなわち〈調停人〉の【恩恵】が何か、聞いてみろ」


 確かに、すでに舌を切り取られているのに、『無事に取り戻せる』算段があるのだとしたら。

 アール男爵の【恩恵】は、回復系ではないのか? だとしたら、大当たりだが。


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