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35,宣戦布告。

 

 それから五日が経過した。


 シアは、ログ伯爵の新たな下僕として溶け込みつつ、城塞都市ドガルの貴族社会における上下関係を観察した。

 セーラがはじめに懸念を示したように、ログ伯爵は、貴族社会の底辺貴族だった。


 もうひとつ注意するべき点。


 ログ伯爵は、自分の街区民 (いわば領民)を、想像よりも虐げていた。とくに性欲関係では。気にいった女は、見境なく犯す。

 あるとき、まだ14歳くらいの子を犯そうとしたとき、その弟が止めに入った。

 ログ伯爵は、その弟が瀕死になるまで蹴り続けた。が、誰も止めようともしなかった。ログ伯爵にも私設軍はあり、少しでもにらまれれば、もっと大勢が犠牲になる、ということだろう。


 ポイントは、ここまでされていても、街区民から『反乱勢力』のようなものが生まれていないということ。これはすっかり、支配されることに慣らされている。


 それと、貴族が食糧と水を握っていることも大きい。逆らえば、飢え死にするしかない、というわけだ。


「思うに、この段階でも、貴族を皆殺しにしたら、解放者という扱いをされそうですよ? 人々は貴族に逆らうような気力はなくとも、憎しみはたぎらせているのでは?」


 と、五日目の夜、ログ伯爵邸の地下室で、セーラが指摘した。ここには、いまはシアとセーラ二人しかいない。


 確かに、とシアは思う。

 はじめの計画では──ログ伯爵を使って、貴族たちをコントロール。さらに平民を虐めさせることで、人々の憎しみを集める。そんな貴族を皆殺しにすることで、平民たちの心をつかむ。そしてセーラの国の民とする──というものだった。

 だが、いまや『皆殺し』から入っても問題ないのかもしれない。逆らう気力はなくとも、憎悪は溜めているはずだ。


「そうだな。だが、ログ伯爵を〈城主〉にする理由は、ほかにもある」


〈城主〉というのが、この城塞都市の貴族社会のトップの名称だ。

 どうやらこの〈城主〉になった者は、『城塞都市ドガルの秘密』を知ることができるようなのだ。


「『秘密』というのが気になる。つまらないものかもしれない。だが、もしかすると〈理の王〉関連かもしれない。だからログ伯爵を〈城主〉の座につけることで、『都市ドガルの秘密』を聞き出す」


「現〈城主〉をつかまえて、尋問して聞きだせばいいのでは?」


「それも考えた。しかし〈理の王〉関連の秘密の場合、何かしら策が講じられているかもしれない。たとえば『秘密』をもらそうとした〈城主〉は、頭部が爆発する、とかな。まぁ、なんでも考えられる」


 そこで、この夜からさっそく行動することにした。

 いきなり〈城主〉を殺しても意味はない。ログ伯爵が底辺貴族のうちは。だからログ伯爵のライバル貴族たちを一人ずつ消していく必要がある。


 まずはボート伯爵。ログ伯爵とは『竹馬の友』らしく、先日は、一緒になって平民の女をレイプしていた。


 ボート伯爵の邸宅を目指す途中、セーラが不思議そうに言う。


「そういえば、わたし、ログ伯爵に犯されていないんですよね」


「どういたしまして」


「は?」


「お前が性病持ちであることを『ご主人様』にお伝えしておいたからな」


「…………………え、これ、わたしに感謝させようとしています???」


 ボート伯爵邸に忍び込み、まずは護衛を音もなく殺す。それから寝室に向かう。乱交騒ぎを終え、爆睡しているボート伯爵を拉致。猿轡をかまし、両手足を縛って、運び出した。


「急げセーラ、夜間のうちに終わらせるぞ」


「なら、わたしに、ボート伯爵を、担がせないでくださいよ。この人、重いんですよ?」


 静かに寝静まった広場。この広場は、ボート伯爵の支配している街区内にある。

 そこの中央に、古い彫像がたっていた。ボート伯爵を、この彫像に逆さ吊りにする。


 つづいてボート伯爵の気管を潰して、叫べないようにする。それから猿轡を外す。最後に、逆さ吊りにされている、ボート伯爵の首を、半分ほど切断した。これで生首がつながっているので、この死体が誰なのか、一目で分かる。


「おっと忘れるところだった」


 城塞都市ドガルの貴族家には、固有の紋章がある。

 シアたちの『ご主人様』であるログ伯爵家にも、固有の紋章があった。


 このログ伯爵家の紋章の入った旗を、ボート伯爵の死体に、五寸釘で打ち付けた。


 これはメッセージだ。

 ログ伯爵家が、ボート伯爵を殺した、という。

 同時に、ほかの貴族家への宣戦布告でもある。


 シアは満足して言った。


「さぁ、貴族戦争の始まりだ」

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