3,食糧。
この地では、日が昇ることはないらしい。これでは作物はまともに育たず、餓死者が多く出るのではないか。だがセーラの説明では、食糧を手に入れる方法はあるらしい。
農園と呼ばれる場所が近くにあり、そこに行けば、無償で食糧を分けてもらえるそうだ。
この世界で、無料で食糧を配っている善良な人間がいるらしい。そんな聖人がいるはずもないので、何か裏があるのだろう。
セーラが恐る恐ると尋ねてくる。
「ところで先ほどの話は、本気ではありませんよね?」
「先ほどの話?」
「〈混沌の館〉に行く、という話です。観光目的で」
観光目的は本気ではないが、そもそも〈混沌の館〉に向かうという発想が、セーラにとっては耐え難いものらしい。
「いや本気じゃないよ。そんなところに、なぜ好き好んでいきたがる?」
セーラは大きく安堵の溜息をついた。
「良かったです。恩人様であるあなたを、あんな場所まで案内したくはありませんでした」
セーラを安心させたのは良かったが、さてではどこに向かうか。ひとまずの目的地は〈混沌の館〉ではあるが、セーラの案内は望めそうにない。
となると、ここは消去法になる。
「農園に行ってみよう。長旅に備えて食糧を調達したい」
農園までの道のりも簡単ではなかった。
荒地は進むだけで厄介で、時おり巨大な芋虫のような怪物がはい回っている。この蟲たちは、大きさにみあった脳味噌もあるらしく、知能があるそうだ。
セーラが、混沌の信徒より怖がっていることからしても、ろくなものではないのだろう。
今回、幸運だったのは、高い丘からはるか下方を見下ろしたときに、蟲を見つけたことだ。シアも、人間サイズの蟲と戦うのは冗談ではないという気分だったので、迂回した。
こうして農園にたどり着く。農園といっても、石造りの大きな建物で、野菜畑などは見当たらなかった。
農園の労働者らしき者たちを何人か見かけたが。
セーラは何度も来ているようで、迷わず建物の入口に向かう。
「無断で入っていいのか?」
「あ、はい。どういうわけか、この農園の主のかたは、姿をあらわしたくないようです。そして飢えた者には、無償で食糧を分けてくださいます。ですが、さすがに武器は持ち込まないほうがいいかもですね」
シアはうなずいた。入口の近くに、槍を立てかける。
どう考えても怪しいが。しかし、この世界は異常なので、案外、親切のかたまりのような異常者も存在するのかもしれない。
または、
「こちらです、シア様」
建物内をしばらく進んでから、セーラが閉ざされた扉を示す。
「この先に、野菜や果物、パンや肉類などが置かれていて、わたしたち市民は好きなときに持ちだすことができるのです。少なくともわたしたちが飢え死にせずに済むのは、この農園のかたのおかげなのです」
「なるほど。親切なことだな」
シアが扉を見据えていると、セーラが困った様子になる。
「あの、シア様? 食糧を手に入れたいのでしたら、この先の部屋にありますが?」
この先の部屋内には、殺気を放っている人間が潜んでいる。
ようは待ち伏せだ。人数は、四人か。
シアは右手で、セーラの喉をつかむ。
あと少しで喉を引きちぎって殺せる程度に力をこめて。同時にこれでは悲鳴もあげられない。死に物狂いで足をばたつかせるセーラの身体を壁に叩きつけて、耳元で静かに言った。
「喉から手を離してやる。殺されたくなかったら悲鳴はあげるな? 恩人さまとして、それくらいの要求はしていいだろう。分かったな?」
息ができず苦しそうにセーラがうなずく。
シアが手を離すと、セーラはその場でうずくまって、せき込んだ。
「そこで待っていろ。逃げたら、殺すぞ」
シアは部屋に入り、待ち伏せの襲撃を受けた。
男が三人、女が一人。男たちは剣と斧で武装、女は魔術師で魔杖を装備している。この女魔術師が、最も厄介か。
まず振り下ろされてきた大剣を避けて、その男の喉を殴る。気管を潰したところで大剣を奪い、別の男に向かって一閃。腰部で真っ二つにする。
女魔術師が火炎弾を放ってきたが、シアはいま真っ二つにした男の『上半身』を盾がわりにする。
さらに燃えた『上半身』を、女魔術師に投げつける。
火が燃え移り叫ぶ女魔術師の胸部を蹴飛ばして殺す。
最後の男が斧を投げ捨て、降参するように両手を上げた。その頭頂部に大剣を振り下ろし、頭部を半分ほど裂く。
全員始末したところで、周囲を見回した。
念のため、食糧がないことを確認。
部屋を出ると、ちゃんとセーラは待っていた。
「誰の指示なのか、話してもらおうか」
だがどのタイミングで指示は出されていたのか?
シアはセーラと常に一緒にいたはずだが……助けてから。
「迂闊だったな。おれに助けられるところから芝居だったのか」




