28,惨殺。
シアは、《汚染耐性》の効力を確かめるため、捕虜たちで実験していた。
集落の外にある赤魔汚染に、縛った捕虜たちを浸けておいたのだ。
結果。仰向けに放置しておいた者は生きており、うつ伏せは死亡。ただし死因は、ただの窒息。
《汚染耐性》が、赤魔汚染には絶対的に耐性をつけさせることが分かった。
集落を発つ前に、生き残った捕虜をブロードソードで刺し殺しておく。生かしておいても、どうせ集落の人たちの復讐の対象にされるだけだろう。よってこれが慈善行為。
〈赤の使徒〉の館に向かう道中は、いままでよりも赤魔汚染がひどく、これは耐性がなければ突破は不可能。セーラやレナは運搬されたようなので、問題なさそうだが。
しばらくして、貴族の元住まいだったという館が見えてくる。腐った樹木の陰から様子をうかがい、巡回警備などが徹底されているのを確認する。
これだと強行突破は難しそうだ。少なくとも、突破はできても、〈赤の使徒〉に警戒されてしまう。〈赤の使徒〉がどの程度のものか分からない以上は、まず奇襲を確実にしたい。
監視をしていると、やがて隊長の姿が現れる。隊長は巡回警備中の兵たちを確認しにきたようだ。
シアは一考してから、呟いた。
「さて、トーマスどの。役立ってくれるか?」
素早く動き、赤魔汚染の池の中、ぽつんとある大岩の上に、トーマスの生首をのせた。それから、もとの樹木の陰に戻り、身を隠す。
やがて──館のほうで、隊長が何かに気付いた様子で、トーマスの生首を見やる。
距離にして、300メートルほど。
まだ『生首のようなものがある』程度しか、見えていないだろう。興味をもった様子で、隊長が歩いて近づく。
ある地点で、『もしやあの生首は????』という恐怖をまじえたもしやになる。そこで隊長は小走りになり、ついには『この生首は弟のトーマスだ!!!』という確信に至る。
そして、地獄の苦しみの形相で固まっている弟の生首を、ひしと抱きしめた。
「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!! 誰だぁぁぁ、誰の仕業だぁぁぁぁ!!」
半狂乱となった隊長の身を案じ、巡回中の兵士たちも小走りでやってきた。そして、隊長を中心にして、集まりだす。
「た、隊長、どうされたので?」
「見ろぉぉぉ、これをぉぉぉぉ!! 弟だぁぁぁぁ!! おれの弟がぁぁぁぁ!!」
シアは樹木の陰から出る。隊長のまわりにいた兵の何人かが、こちらに気付いた。
「な、なんだ、てめぇは──」
魔術《追尾》を上書きで消してしまったので、聖技《弓射》の精密射撃は難しくなった。そこで、このように敵を一か所に集めてから、エネルギー矢を放ち、散弾させる。
ほとんどが、これで片付いた。
生き残った者は、ブロードソードで手早く斬り殺していく。とくに狙ったわけではなかったが、最後に残ったのは、隊長だった。
「貴様!!」
ロングソードを抜き放ち、斬りかかってくる。しばし斬り結び、シアは称賛した。
「いい腕だな。普通に戦っていたら、苦戦しそうだ」
「貴様は、一体──」
「あんたの弟の首を生きたまま切断した男だよ。あんたの弟は、断末魔の叫びで、あんたを呼んでいたんだがなぁ」
「き、貴様ぁぁぁぁあ!!」
あまりに雑な斬撃。激憤のあまり、理性を失った一撃だ。
そんなものを食らうシアではなく、簡単に躱し、かつ反撃の一撃で、隊長の首を刎ねた。
「怒りで腕を鈍らせるとはな」
全員死んでいることを確認する。最後に、トーマスの生首に一礼した。
「協力に感謝する」
館に向かうと、まだ殺しそびれていた巡回兵が、慌てた様子で走ってくる。ズボンを履きながら。さてはトイレ中に、先ほどの隊長の怒号を聞き、慌てて出てきたようだ。
「い、一体、何事なんだ!?」
「お前が、おれに殺されるんだよ」
「は?」
ブロードソードを一閃させ、その兵の胴体を両断した。
そうして、シアは館に入っていった。




