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26/39

26,従順。

 

 しばらく進むと、赤魔汚染に浸食されていない領域に出た。

『この一線から』というように、明確に『浸食しない一線』というものがあるようだ。つまり意図的に汚染されていない。


 そこには集落ができており、やせ細った人々が生活していた。みな飢えているようだ。無理もない。こんなところに押し込められていて、まともな食べ物にありつけるとは思えない。


 シアたちに気付くと、集落の人たちが、集まってきた。


 現実的な判断として、レナは自分たちの食糧を隠そうとした。

 一方、セーラはその場の善意にかられて、食べ物を飢えた市民に分け与えだす。


 その光景を眺めながら、シアは奇妙なことを思った。セーラの内面には冷血さと寛大さが同居している。案外、それこそ王の素質なのでは、と。


 しばらくはそれで良かったが、やがて別の勢力が現れる。赤魔汚染の向こうから、20人ほどの、赤い鎧を装着した男たち。飢えとは無縁の、健康そうな身体をしている。


 分かりやすく、〈赤の使徒〉の配下だろう。そして、この集落の人々を支配している。集落の人たちは怯えた様子で、逃げ出した。


〈赤の使徒〉の兵たちがこちらに来る前に、シアはブロードソードを、集落の外へと投げた。

〈赤の使徒〉たちに取り囲まれたとき、連中の視界の外にブロードソードは『逃がした』状態となる。隊長格が剣を抜いて、脅してきた。


「よそ者が。ただちに降伏しろ」


 シアはセーラの耳元で囁いた。


「レナに抵抗しないように指示しろ。ここで戦いとなったら、集落の人たちも巻き込まれるぞ」


「あいにく、わたしはそこまで善良ではありませんよ。……ですが、シア様の指示なら仕方ありません」


 セーラが、抵抗するなという指示を、レナに出す。レナはレナで、セーラの指示だから仕方ないという様子で、頷いた。


 シアは敵意がないことを示すように、両手を上げた。それから声を震わして言う。


「おれたちは、ただ通りかかっただけだ。あなたたちと問題を起こすつもりはない」


 少し演技過剰だったかと心配したが、〈赤の使徒〉の兵は、弱者を甚振るのに慣れているようで、演技にも気づかなかった。


 隊長は汚い歯をむきだして笑いながら、剣を鞘におさめた。


「ただの腰抜けか。おい。そこの食糧は、〈赤の使徒〉さまのものだ。われわれが頂戴しよう」


「分かりました。すべてを差しだします」


「そっちの女どももだ」


 セーラとレナを隊長が指さす。兵たちが好色そうにニヤニヤ笑っている。

 シアは従順にうなずいた。


「もちろんです」


 連れていかれるさい、セーラが小声で素早く文句を言ってくる。


「シア様、わたしのことを駒に使うのは、やめて欲しいですね」


 シアは肩をすくめた。〈赤の使徒〉の兵は手際よく、押収した食糧とセーラとレナを連れて、立ち去った。


 ただし、五人の兵だけは隊長の命令で残った。

 この集落からまだ略奪できるものがあるか探すためらしい。さっそく集落のボロ屋のひとつに入り、荒しだす。


 すっかり『空気』扱いとなったシアは、先ほど遠くへと投げたブロードソードを拾いに行く。

 戻ってくると、集落の人が前に進み出てきて、気の毒そうに言った。


「〈赤の使徒〉は、ああやって全てを奪うんだ。あなたも、お連れのかたは残念でした」


「ありがとう。ところで、ここに火はあるかな。火を燃やしておいてほしい」


 五人の兵が荒している家に入る。何をダラダラしているのかと思えば、そこの女を犯すのに忙しかったようだ。旦那らしき男が、そばで殴り倒されている。


 シアがとくに足音も殺さずに入ると、順番待ちしていた兵たちが、一斉にこちらを向いた。


「てめぇ、一体なにを──」


 シアは素早く姿勢を下げ、ブロードソードを一閃。ひとまず順番待ち四人の両足を、膝のところで両断。

 それからレイプ中の男が、こちらに気付くのを待つ。女から離れてもらわないと。


「な、なんだ、てめぇは、おい、おれの部下に何をしやがった!!」


「そう、離れてくれると助かる。女の足まで切らずに済むからな」


 再度ブロードソードを一閃させ、その男の両足も、膝のところで両断した。


 それから呆然としている集落の男たちの手を借りて、五人の兵たちの止血をした。両ひざの切断面を焼くことで。

 そうして失血死から救ったところで、五人の兵たちをそれぞれ椅子に座らせる。


 血の気が引き、がたがたと震えている五人の兵たち。それを眺めてから、シアは分かりやすく話した。


「さっきは人数が多すぎた。一人でも取りこぼし、〈赤の使徒〉に警告され、用心されたら困りものだからな。さて、おれは紳士的に尋ねよう。〈赤の使徒〉とは何者で、どこにいて、どのような能力を持っている?」


 リーダー格が、謎の気合を出して怒鳴る。


「な、なにも、話すんじゃねぇぞ!!」


 シアは溜息をついて、そのリーダー格のもとに向かい、その顔面にブロードソードの柄頭を振り下ろした。

 五回ほど振り下ろし終えたころには、顔面は陥没していたが、まだ息はあり、気道からひゅーひゅーという空気音だけがしていた。


 シアはほかの捕虜たちに顔を向けて、珍しく微笑んだ。


「さて。無理はしないほうが、身体にいいぞ?」


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