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25,使徒。

 

 汚染亜人たちの包囲を突破してから、走って距離を稼いだ。


 ひとまず安全と見たところで、シアたちは徒歩に切り替える。


 さて、とシアは考えた。


 魔術《追尾》に上書きして得た、聖技《汚染耐性》。

 どう評価するか?

『耐性』といっても全ての汚染や毒物などではなく、赤魔のみ。とすると、赤魔汚染のない地域では、使いどころのないゴミ【恩恵】。


 だが目先の利益を追求していくのも、ひとつの《奪う》戦略ではある。

 つまり、この一帯は赤魔汚染にすっかり侵されている。そして、接触汚染もある以上、いつまた汚染を受けるか分からない。

 だが《汚染耐性》を持っている以上、その心配をしながら戦うことはないわけだ。

《追尾》を捨てる価値はあったかもしれない。


「レナには《解毒》がある。となると、危ないのはセーラ、お前だな」


「え、何がですか?」


「赤魔汚染だ。まず、この液体に直接触れるのは論外。さらに、そこから現れる汚染亜人の血を浴びるのも、汚染原因となる。とにかく、その曲剣も、この汚染亜人どもには使わないことだな」


「はぁ。了解です」


 セーラの身を案じつつも、シアは不可解な気持ちになる。そもそも戦力としても道案内としても機能していないセーラを、なぜ同行させているのだろう、と。

 気が狂わないように、話し相手が欲しいのかもしれない。


 レナが歩み寄ってきたので、シアは意図的に、腰に差しているブロードソードの柄から、手を離した。


「レナ。お互いに裏切ったのだから、ここはそれで手打ちとしよう」


「ああ、構わない」


 互いに笑みを浮かべて、シアとレナは『仲直り』の握手をした。

 だが内心では、同じことを考えている。

 つまり、一度裏切ったのだから、何度だって裏切ってくるだろうと。


 問題は、裏切られる前に裏切って、相手を殺すべきか否か。少なくとも、まだ互いに利用価値がある。戦力という価値がある以上は、まだ生かしておくべきだろう。

 そして相手も同じ結論に達していると分かるから、まだ『背中から刺されることはない』と、ひとまず確信が持てるわけだ。利害が一致している以上は。


 セーラは、この和解の握手を眺めながら、何が起きたかだいたい察したようだ。


「そういえば、亜人たちが再出現しませんね?」


 周囲には赤魔汚染が、毒沼のように広がっている。だがセーラの指摘通り、そこから汚染亜人たちが現れる気配はない。


 シアは一考してから言った。


「ここで少し、情報を得るとしよう」


 小屋からセーラが背負って救出した盲目の老人。いまは混沌の信徒の一体、ヤリが担いでいた。

 ヤリが槍脚を曲げて、老人を下す。


「さてご老人。ここら一帯、何が起きているんだ? 赤魔汚染とは、どこから来た?」


 老人は声のするほうへと、シアへと顔を向けた。


「知らんのか? 〈赤の使徒〉が降臨し、我々を導いてくださる。少しの代償と引き換えに」


 この大陸からは秩序が失われ、国家も法も消えた。そのかわりに、混沌のあるじや、この〈赤の使徒〉とやらのような者が、支配の空白に入り込んだのだろう。


「あなたは何を差し出したんだ?」


 すると老人は、濁った死んだ眼球を、両手で引き抜いた。眼球の裏側には、蟹の脚のようなものが這えていて、動いている。


「まずわしは視力を差し出した。だが足りなかったのじゃ。だから仕方なく、わしは、アレを差し出した。一人の息子を。だがこれで、ほかの家族は、安全だ」


 セーラは小声で、シアに尋ねた。


「ほかの家族と言っていますが、小屋にはこのご老人しかいませんでしたよ?」


 シアは、蟹の脚のようなものが蠢く、老人の眼球を見つめた。

 ひとつの疑問──この眼球は、〈赤の使徒〉に情報を流しているのではないか?


 ブロードソードを引き抜いて、老人の両手首を切り落とす。地面に落ちた二つの眼球が、まさしく蟹のように這っていこうとするので、踏みつぶした。


 両手を切り落とされ悲鳴をあげる老人を気の毒そうに眺めながら、セーラが難詰する口調で言った。


「両手を切り落とす必要性、ありました?」


「家族を売り渡すような人間だぞ。生かしておく必要があるか?」


「…………とくには」


 セーラは曲剣を鞘から抜いて、神への祈りを捧げてから、老人の首を刎ねた。

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