24,舌先三寸。
レナが説明する。
「私の《解毒》には、他人が侵されている毒状態も解除することが可能だ。しかし、そのためにはいくつか手順がある。まず私自身が許可することが重要だが、貴様にも血を流してもらわねばならない」
「血を流す?」
レナはゆっくりとダガーの刃と、自身の指先を示して。
「貴様の血液を、この指先に浸す必要がある。そうすることで『毒物を解析』できる」
「解析の必要はないはずだ。すでに同じ毒汚染を、お前も受けているのだから。そっちは解毒済みのようだが」
できるだけ平静を装いつつも、シアは自身の体調が急激に悪化しているのを自覚していた。それが思考に澱みをもたらしていることも。
「手順として必要、と言っただろ? いいか、シア。私としても、貴様にはまだ死なれては困る。だから信じることだ。右腕を差し出せ。軽く切るだけだ」
「いいだろう」
シアは頷き、右腕を差し出した。
瞬間、ダガーが一閃。
シアの右腕を深く斬り裂こうとする──だがその刃は、不可視の《鎧》によって弾かれる。発動条件の祈りは、はじめに亜人たちが現れたとき、すでに唱え始めておいた。
「お前……裏切ったか」
「思いのほか、騙されやすい人間だったな。この展開で、私の【恩恵】が《解毒》というだけで出来過ぎている。それにプラスして、『他人も解毒できる』という付加効果があると、本気で信じたのか?」
レナは身を翻し、小屋の窓から外へと跳び出す。
その背を、《弓射》で射貫こうかとも思ったが、シアはその考えを取り下げた。
いまは目先の復讐ではなく、生き残ることが重要だ。
レナと入れ違うようにして、汚染亜人たちが数体飛び込んでくる。シアは力の入らぬブロードソードの一撃で、まず一体目の脳天をかち割る。
二体目を蹴飛ばして距離を取ってから、この亜人たちが、汚染を受けながらも行動していることを、改めて疑問に思った。
それはなぜか? 亜人たちにも、汚染への耐性があるのではないか?
それが【恩恵】によるものならば、どうなる?
すべての亜人が同じ【恩恵】に属しているとするならば、それは何者かが、亜人たちにその【恩恵】を付与したということだ。
先ほど頭をかち割った亜人の胴体を裂き、心臓を引きずり出した。腐敗した臭いがする。渋々ながら食らう。
汚染亜人が有する【恩恵】。
《汚染耐性》。
能力内容は、赤魔汚染のみに耐性を持つことができる。
なんという限定的な──将来性のない【恩恵】。だが、いまはこの赤魔汚染による毒状態を解毒することが最優先だ。いよいよ視界がかすみ、力が入らなくなってきている。
このままでは、時間がない。
シアは急いで、魔術《追尾》に、聖技《汚染耐性》を上書きする。
刹那。汚染によって毒されていた身体が回復する。
飛びかかってきた汚染亜人の一体を、反射的に斬り伏せる。小屋から飛び出し、赤魔汚染の上を駆け抜けて、亜人の包囲を突破した。
突破先では、レナがセーラに何やら説明しているところだった。
セーラの視線がシアに向けられ、喜びの表情で駆けてくる。
「良かった、シア様! 無事でしたか!」
それから小声になって聞いてきた。
「レナから聞きました。小屋の中で敵襲を受け、自分を犠牲にレナを先に行かせたと。本当なのですか?」
セーラが、レナの話を疑っているのは明らかだ。
シアが『自己犠牲』とは縁遠い性格と、すでにセーラは知っている。
シアは薄く笑った。
「──ああ、そうだ。だが自己犠牲のつもりはなかった。この通り、おれは無事だからな。レナを逃がし、おれも自力で脱出した」
「とにかく、みな無事だったのは何よりですね」
「ああ……」
シアの結論はシンプルなものだった。
ここでレナを殺しても、得られる【恩恵】は《解毒》に過ぎない。
ならば、まだ生かしておいたほうが良い。




