23,善悪。
汚染された亜人は、意外なことに連携を取りながら襲撃してきた。同時に、仲間の概念がないのか、味方が殺されてもその死体を踏み越えてやってくる。
シアはブロードソードで、三体の汚染亜人をまとめて切り裂く。このとき噴き出した亜人の血を浴びた肌が、硫酸を浴びたように焼けた。
「亜人の血を浴びるな」
弓をかまえ聖技《弓射》を発動。エネルギー矢は正面に飛ばし、かつ前方に向かって散弾するよう設定。
さらに視界内におさめた亜人たちに魔術《追尾》をかけておくことで、散らばったエネルギー矢は、それぞれの敵個体を貫いていく。
これで『道』ができるが、亜人たちは赤魔汚染から、次から次へと這い上がってくる。
「セーラ、先へ行け」
老人をおぶったセーラがうなずき、走って『道』を行く。それに続こうとするも、『道』の両側から汚染亜人たちが押し寄せてくる。
セーラを援護するため、シアはそれらの亜人たちをブロードソードで両断していく。
だがふいに、身体の内部が燃えるように熱くなる。血が煮えるように。眩暈がして、屋内へと避難した。危うくブロードソードを落としそうになる。
状態異常。毒に侵されたか。
「この赤魔汚染には、空気感染があるのか? いや、接触感染か。汚染された亜人の血を皮膚に浴びたことで、おれたちも汚染する」
この汚染による、これからの症状は読めない。肉体が腐るのか、気だけ狂うのか。
ふと見やると、二本のダガーを武器とするレナも、肌に亜人の返り血を浴びていた。
「レナ。どうやら、おれたちの旅はここで終わりのようだ」
「いいや。それは貴様だけだ、『よそ者』どの。私の【恩恵】をまだ話していなかったな。私の【恩恵】は、《解毒》。できすぎた展開だが、『毒性攻撃の全てから我が身を守る』という能力だ。ゆえに、私は汚染に身体が侵されることはない」
「そうか……ならば、お前は生き延び、あとのことは頼む。セーラを守ってやれ」
あえて身体の力を抜く。そこから思い切りブロードソードを一閃させた。レナの腰部を両断し、息の根を止めるつもりで。
だがレナはこの奇襲を予想していたようで、紙一重で回避する。
「なんのつもりだ、貴様?」
「《解毒》か。確かに、出来過ぎた展開だが。その【恩恵】、おれがもらおう」
「正気か? 自分が生き延びるために、私を殺そうとするとは」
ありきたりな非難を受けたので、シアはひとまず回答しておく。
「善悪は、生き延びてから考えるとしよう。それにお前の【恩恵】は、いまこそ生き延びることができるが、これから先に、戦力として当てにはならない。よって、どうせいつかこの先、お前は死ぬことになる。それが今というだけのことだ」
「シア。貴様と殺しあっても構わないが、もうひとつ解決策がある」
「おれが解毒できる策か?」
「そうだ」
シアは素早く一考。ここで《解毒》を得るためには、《弓射》《追尾》《鎧》のどれかに上書きするしかない。
しかし《解毒》は限定的な回復であるため、ほかの【恩恵】に上書きするのは気が進まない。むろん上書きせずに、いま解毒できるならば、だが。
「聞こう」




