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2,観光。

 

 槍脚たちは仲間が殺されたことに気付き、一か所に集まりだした。


 シアは自身の一時的な装備品となった槍を素早く検分する。

 こうしてみると、一見はただの槍だ。根本のところが肉断面でない限りは。

 つまりこの槍脚は、この異形の種の人体の一部でありながら、表面は金属ということか。だが内面には肉や骨、血管がある。


「不気味なことこのうえない」


 なんら利益のない結論に達したころ、ほかの槍脚の種族たちが逃げていくのが見えた。いや逃走を装って仲間を呼ぶか、またはこちらを大きく取り囲むつもりかもしれない。

 ここで意味のわからない異形の種族たちと交戦するつもりもなかったので、シアは早々に立ち去ることにした。


 視線を転ずると、血と泥で汚れた、灰色の髪の少女と目があう。いまシアが殺した槍脚種から逃げていた子供で、とりあえず命を助けたことになる。


「あの、ありがとうございます……」


 と、感謝と恐れの眼差しで見られる。


 シアは槍を地面に立てて、好みより長いな、と思う。射程はあるが取り回しが面倒だ。そこでさらに半分ほどで、柄を引きちぎった。

 柄といっても、ようは『脚』でもあったため、固まった血がどろりと落ちた。少女が不気味そうにその光景を眺めている。死体損壊の趣味でもあると思われたのかもしれない。


「怪我は?」

 とシアは尋ねた。


「え?」


 少女がきょとんとした顔をしたので、負傷していないことが分かる。彼女の全身を汚している血は、他人のものということだ。

 が、はじめてしまった会話なので、とりあえず終わらせたほうがいいだろう。


「血で汚れていたから」


「これは……父と母の血だと思います。わたしを助けるため、身をていして……あいつらに」


「そうか。それは気の毒だったね」


 同情心をかきあつめたかったが、集めるほどもなかった。だが同情している演技くらいはお手の物だ。


 この少女は、セーラという名だった。ありきたりゆえに覚えやすく忘れやすい名前。


 この少女を助けたことには少なからず打算もあった。この〈第肆世界〉は、シアがまったく馴染みのない世界。とりあえず道案内を確保することはマイナスではないだろう。


「セーラ。ここは危険だ。どこか安全な場所に心当たりは?」


「この世界に安全な場所なんてあるのですか?」


 セーラは道案内として不十分かもしれないな、とシアは思った。

 だが案外、いまの言葉にこそ、この〈第肆世界〉の本質がこめられているのかもしれない。


「とりあえずここから離れよう」


 セーラが両親の遺体を連れ帰りと言ったらどうしようかと思ったが、杞憂だった。

 この世界では、家族が殺され、その死体を野ざらしにせねばならないことも、よくあることなのだろう。


 足早に離れながら、シアは尋ねた。


「先ほどの槍脚をした異形のものたちはなんなんだ?」


「混沌の信徒のことですか? 彼らのことを知らないなんて、シアさまはよほど遠くから来られたのですね」


 シアは苦笑をかくした。

 遠いといえば、異なる世界──いや、そもそも死後の世界から来たのだから、遠いのだろう。

 もちろんそんなことを、このセーラに話すつもりはなかったが。


「確かに。彼らの槍脚は先天的な奇形なのか?」


「分かりません。混沌の館という場所があります。館といっても、実際は元城塞都市なのですが。そこから、混沌の信徒たちはやってくるそうです。先ほどの槍脚をもった者たちは、『市民殺し』たちとも言われます。おそらく、わたしたちのようなものを殺すのに特化しているから、だと思いますが」


「その言い方だと、混沌の信徒の異形の形態は、複数あるようだね?」


「はい。わたしは『市民殺し』しか見たことはありませんが。父は、まったく異なる形態の信徒を見たことがある、と言っていました」


 殺された両親のことに意識がいったためだろう、セーラがすすり泣きだした。

 シアは軽く抱きしめてあげた。これの目的は慰めることもあり、同時に泣くために歩みを止めてほしくなかったからだ。


 とぼとぼと歩きながら、この少女は、だいたい妹と同じ年くらいだと思った。

 といっても、シアが妹に殺されたときの年齢、という意味だが。


「セーラ。〈理の王〉のことを知っているか? この世界を支配している、と聞いたことがあるが?」


 涙をぬぐってからこちらを見上げた表情で、シアはセーラが何も知らないことを察した。


「〈理の王〉、ですか? ごめんなさい、はじめて聞きました。ですが、この地を統治していた領主さまは、長らく姿を現していません」


 幸先がいいことだ、とシアは皮肉っぽく思う。

 さて、どこに行くべきか。


 混沌の信徒は、複数の形態を持つらしい。

 その形態は、カスタマイズされているようではないか?

 つまり〈混沌の館〉の主には、奇形種を製造する技術がある。そのスキルを、どこから得たのか? 魔術ではないだろう。もっと異なる系統のものだ。


 女神ラーズは、〈理の王〉について、もうひとつ言っていた。

 ──「人知を超越したスキルを授ける力がある」と。


「セーラ。〈混沌の館〉は、どこにある?」


「あの、なぜです?」


「観光名所らしいから」


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