16,形態。
城内は、狭い通路が入り組んだ造りになっていた。おかげで敵兵に囲まれる心配はせずに済む。
前方に現れる〈槍脚〉兵たちを手早く殺しながら、シアは進んだ。
ぴたりと背後にくっ付くセーラが、疑問を口にする。
「混沌の主の姿形について、何か情報がありますか? この分だと、わたしたちはそうと知らずに、混沌の主を殺しちゃうかもしれませんよ」
「いや、その心配はない。見分け方は分かっている」
通路の前方から、巨大な黒い物体が這ってくる。自勢力の〈槍脚〉兵たちを踏みつぶしながら。それは建物のように大きな蛸であり、かつ表面には人間の顔が大量に生えている。おそらくこの蛸の容量を埋めるための人体量だろう。
セーラがぞっとした様子で言う。
「不気味すぎますね──しかし、もしや幹部格ですかね」
シアは《弓射》で、エネルギー矢を放った。まともに直撃すれば、その威力で木っ端微塵になるものと思ったが。
だが〈蛸〉族兵は、直撃前に触手のひとつで、エネルギー矢を掴む。
どれを評価するべきか。超高速で飛んできたエネルギー矢を掴んだ反射神経か、器用さか、またはエネルギーの塊をじかに掴んでおきながら、ダメージを受けていないことか。
「頑丈なのか、【恩恵】の効力か」
触手の数が多いので、接近戦は避けたほうが良さそうだ。
ところが後退しようとしたところ、後ろからさらに大量の〈槍脚〉兵がなだれ込んでくる。
「退路を断たれましたね、シア様」
どことなく他人事に、セーラは言った。
シアは一考してから、再度、〈蛸〉兵に向かってエネルギー矢を放つ。今回も触手が掴もうとした刹那、矢を分散させる。
散弾と化した小型矢は、致命傷を与えるには弱い。
だが〈蛸〉兵の『眼』である、人間の顔を全て潰すには充分だった。視界を失い〈蛸〉兵が動揺した様子で、複数ある触手を振り回しだす。
シアはタイミングを見計らって触手の間を縫い、突進。ブロードソードの切っ先を、〈蛸〉兵に突き刺した。そのまま息の根が止まるまで押し込んでから引き抜く。
そして振り向きざまに、セーラに向かって一閃。
セーラは紙一重でしゃがむ。その頭上を剣身がよぎりながら、セーラに飛びつこうとしていた〈槍脚〉兵の首を刎ねた。
もちろん初めから、セーラの背後の〈槍脚〉兵を狙った一閃だった。
「伏せろセーラ」
「遅いですよ! 剣を一閃させる前に、言ってください」
「だがちゃんと避けることができたな。戦闘慣れしてきた証拠だ」
「……」
〈蛸〉兵の死骸を踏み越えて、先に進む。
やがて城の最上階、いわば謁見の間にたどり着く。数多の柱に支えられた大きな空間の先に、玉座然としたものがあり、男が座っていた。年のころ30前後で、優男といった風情。そして明確に人間だ。
「納得です、シア様。混沌の主は、混沌の信徒の姿ではなく、人間ということですね。確かにこれは見分けがつきます──といっても、玉座に腰かけているだけでも、見分けがつきましたけども」
確かに、とシアは思う。まさか古風なボス然と、玉座に腰かけているとは、思いもしなかった。
主は冷ややかに言った。
「どこの馬の骨のものか知らないが──私の『国』を荒すとは、いい度胸だ」
立ち上がった主の肩甲骨から、紫色の骨状のものが伸びていく。
それを見て、セーラが怪訝そうに言った。
「あれ。主は人間なのかと思っていましたが」
「セーラ。主の見分けかただが、お前の推測は少し間違っている。確かに混沌の主は、混沌の信徒のように、異形の姿ではない。主は、配下を異形にすることで、己の支配欲を満足させているからな。だから主は、人間の形態だろう」
「形態は、ですか」
「ああ。だからといって、自分に改造を施していない、ということにはならない。よって──主も、もう人間ではないだろうな」
謁見の間に繋がる扉口から、追手の〈槍脚〉兵たちが続々とやって来る。主との戦闘中に雑魚が絡むのは厄介だ。
そこでシアは、『相棒』に指示をだす。
「セーラ。〈槍脚〉兵たちをせき止め、時間を稼いでおけ」
「……無理難題ですよ、それは」




