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14,武器商人。

 


 城の付近には、〈槍脚〉族の見張りが大量にいた。

 どうやら混沌の〈主〉にとって、最も造りやすかった者たちのようだ。


 シアとセーラが城付近の様子を伺っていたのは、空き家の屋上からだった。外壁の陰から、城のまわりを見回しながら、だいたいの全見張り数を予測する。


「ここから見える範囲で、50体前後。おそらく全周で二倍はいるだろう。さらに先ほどのような〈人馬〉族の幹部も潜んでいる」


「さっきのを幹部格と決めつけていますけど、あんなのが量産されている可能性も考慮したほうがいいのでは?」


「雑魚と幹部の違いくらいは分かる。だが『手ごわい幹部』一体より、『それなりにしぶとい』雑魚百体のほうが厄介なものだ」


 外壁に寄りかかり、シアは一考した。

〈槍脚〉たちに見つからずに城内に入るのは難しい。仮に成功しても、城内で敵に発見された場合、逃げ場がなくなってしまう。

 となると、まずは城周囲にいる〈槍脚〉たちを片付けるしかない。


 百体近くの〈槍脚〉たちを、素早く一掃する──そのためには、手に入れたばかりの聖技〈弓射〉によるエネルギー矢と、魔術〈追尾〉の連携技でいくしかない。そして〈弓射〉を発動するには、弓装備が必須。


「弓を見つけるしかない。少し、ここら一帯を手分けして探そう。敵に見つかるなよ」


 セーラと別れ、シアは周辺を探る。

 いまのところ弓を武器とする敵は、〈人馬〉族しか遭遇していない。だが元のアーク市民には狩人もいたはず。正直、エネルギー矢を放つための『形として』の弓が必要であり、性能にそこまで求めてはいない。


 建物の角を曲がると、男が立っていた。年のころは五十代。防水布をかぶせた荷車を引いており、シアに気付くと、揉み手しながら近づいてくる。


 シアはブロードソードを抜きながらも、不可解な気持ちになった。この男を視認するまで、まったく気配に気づかなかった。


「何者だ? 近づくな」


「あっしは、ただのしがない武器商人ですよ」


「なんだって?」


 シアは顔をしかめた。弓を探しているときに、異形の化け物たちが蔓延る都市に、武器商人が現れる。

 こんな出来過ぎた話、聞いたことがない。


「バカにしているのか?」


「まさか。あぁ、あなたのことは聞いたことがありますよ、旦那。第参世界〈ノース〉において、『動くものは女子供でもなんでも殺した』英雄さまだとか」


 第参世界とは、女神ラーズによると、生前のシアが生きていた世界のことだ。〈ノース〉という名称は初めて聞いたが。


「なぜ第参世界のことを知っている? 女神ラーズの使いか?」


 何者にせよ、知っていることを洗いざらい吐かせよう。

 シアはそう思い、武器商人なる男を捕らえようとした、が。


 自称・武器商人は身軽に後ろ跳びする。


「あっしはただの武器商人です。旦那が良心的なお客であるなら、あっしは武器を売るまでのことです。しかし旦那が武器は必要ないというのでしたら、あっしは消えるまで──」


 その言葉を証明するかのように、武器商人の姿が半透明となっていく。

 さらに同時に半透明となる荷車には、確かに武器類が山と積まれているのが、かぶせられた防水布の隙間から伺える。


 こいつは何者なんだ──という疑問を抱きつつも、優先順位でいくならば、情報よりも武器が大事か。


「まってくれ。すまなかった、無礼を謝罪する。是非とも、武器を売ってほしい。弓だけでいいんだ。矢はいらない──だがあいにく、この世界の貨幣を持っていない」


 そもそもこの世界に信用のおける通貨が流通しているかも疑問だったが。

 半透明になっていた武器商人の身体がまた実体化する。再度の揉み手も。


「この第肆世界の貨幣など不要です。旦那、あっしが欲しいのは、魂貨ですぜ」


「魂貨? 聞いたことのない貨幣だ」


 武器商人の眼が不気味に光る。


「旦那が、この世界で殺した人間の数ですよ。もちろん人体実験で異形と化した、混沌の信徒たちも含まれます」


「……そんなものは持っていな、」


 所持していないと言おうとしたが、このとき視界上に、確かに数値が現れる。これが魂貨というものか。


「……弓は、いくらだ?」


「そりゃあ旦那、モノによります。レジェンド級ならば、その魂貨は百万を超えるでしょうなぁ」


「百万人を殺した大量虐殺者にでもなれ、というのか? ただの平凡な弓でいい」


「でしたら、これだ──3魂貨ですぜ旦那」


 荷車から、まさしく平凡な弓を取り出し、武器商人が値段を言う。

 どう支払うのか、とシアが戸惑っていると、視界上の魂貨の数値が『3』減る。


 便利といえば便利だが──理解していないシステムに巻き込まれるのは不快だった。


 シアが弓を受け取ると、武器商人はお辞儀し、


「ではまたの御贔屓を」


 荷車ごと消えた。


 その後、合流地点の建物に戻り、セーラを待つ。

 手ぶらで戻ってきたセーラは、シアの顔を見て、怪訝そうにした。


「どうされたのです、シア様? 狐に抓まれたような顔ですよ?」


「まぁな」

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