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11,あるじ。

 

 洞窟内の〈蝙蝠〉族を一掃。

 その後シアは、セーラを先に梯子に登らせることにした。


 仮にまだ〈蝙蝠〉族の生き残りが潜んでいたら、まず梯子をのぼりだしたセーラを襲うことだろう。というシアの考えは、セーラも読めていたようだ。


「わたしは、すべてを承知のうえで先に登ります。これは、ひとつ貸しですよ、シア様」


「それならもう一点。蝙蝠が侵入を報告していたら、梯子をのぼったところに待ち伏せがいるだろう」


 セーラが登り切り、上方から「安全ですよ」という報告をしてくる。


 シアは梯子をのぼりながら、数ある並行世界において、一体どれだけの人間が、先に偵察に行った者の「安全ですよ」に騙されて死んでいったのだろうな、と考えた。

 しかし今回は、本当に安全な場所に登りきった。


 家具も置いていない殺風景な建物の中。ガラスのない窓から外をのぞくと、城塞都市アーク内の路地裏が見える。

 そこを這っている、人間サイズの芋虫も。

 セーラも同じものを確認し、辟易した様子で言う。


「こんなところにも蟲が。ですが、動きは鈍いので、脅威ではありませんね」


「確かに。しかし──何か様子が変だ」


 シアは窓辺を飛び越えて、路地裏に着地。芋虫を抱きかかえると、屋内に戻った。セーラがぞっとした様子で後ずさりする。


「なんの目的で、そんな気持ちの悪いものを拾ってきたのです?」


「ひとつ尋ねるが、〈平地〉に蔓延っている蟲たちには、こんな器官があるのか?」


 シアが示した『器官』とは、芋虫の地面との接地面にある、人間の男の顔としか言えないところだった。

 セーラが吐きそうな顔で言う。


「より気味が悪いですね、それ。ですが蟲に、そんな人間の顔然とした器官はないはずです。……とすると、これはもしや?」


「蟲ではなく、〈混沌の館〉が造った生き物だろうな。たいした違いはないかもしれないが」


 ふいに芋虫の『顔』がしゃべりだす。


「あぁぁぁ。に、人間か、まともな、人間かぁぁ??」


 どうやら『芋虫の人間の顔が話す』というのは、セーラの中で一線をこえていたらしい。部屋の隅にいって、嘔吐しだしたので。

 シアはそれを見やってから、〈芋虫〉族を見下ろす。


「意思疎通ができるのか。混沌の信者は、もしやみんな会話できるのか?」


〈芋虫〉族の男は苦労しながら話す。


「ち、ちち、違う。お、おれのような、も、ものは少数派だ。ほ、ほとんどの者たちは、みんな、自我を喪失し、ている」


 セーラが口元を拭いながら、戻ってきた。口をゆすぎたそうな顔をしているが、ここに水はない。吐いた自業自得。


「あの、すみません。えーと。あなたたちは、もとは人間だったのですか?」


「そ、そそ、そうだ。お、おれたちは、アークの市民、だった。と、ところが、あるとき、都市城壁のの外にいたはずの、混沌の信徒たちが、やってきた……そ、そして、おれたちは捕らえられ、あ、あ、〈あるじ〉さまに、造りかえられたのだ」


 やはりか、とシアは思う。

 混沌の信徒という生き物は、何かをベースに造られていた。その『何か』が人間ならば、その材料は、どこから来たのか。

 まずはじめ、ただの館が勢力範囲だったころは、旅人などを襲って、人体改造を施した。そしてそれらの信徒たちを使い、城塞都市アークを制圧。さらにアークの市民という大量の材料を使い、勢力を拡大したのだろう。


 セーラが不可解そうに尋ねる。


「〈主〉さまというのが、混沌の信徒のボス、というわけですか? そんな相手に、なぜ従うのです?」


「お、おれたちは、脳も弄られ、〈主〉さまに、逆らうことは、で、できないんだ」


 シアは溜息をついた。


「気の毒にな」


 ブロードソードを抜き、芋虫の腹を裂いて息の根を止める。

 少しばかり難詰をこめて、セーラが言う。


「気の毒なのに、殺すのですね?」


「この男も言っていただろう。〈主〉とやらには逆らえないと。ならば、おれたちのことを報告しなければならない。たとえ本人が望んでいないとしても。少なくとも、おれは〈主〉も殺すつもりだ。そうすれば仇を取ることになり、この男の死にも意味ができる。おれたちが死ねば、この男も無駄死にだ」


「はぁ。面白い道徳律ですね」


 皮肉のつもりらしいが。

 幼馴染を殺した女に言われたくはない──とは、あえてシアは言わないでおいた。


「行くぞ、〈主〉を殺しに──ただ殺す前に、まず聞くべきことを聞くがな」


 この〈主〉が、〈理の王〉の配下なのかどうかを。

 つまり、妹の。

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