1,始動。
シアは意識覚醒とともに剣を手にとろうとし、無防備であることを知った。
装備していた武器は消えてなくなり、防具もない。せめて衣服着用でよしとしよう。
一考するに自分は死んだはずだが、と。
確かに殺された記憶がある。
シアは周囲を見回した。
荒れ果てた地を。はるか彼方に、死屍累々。
この死体の数々を漁っているのが、異形の種。
長い──10メートルはある──二本の脚の先に鋭利な穂先が装着されていて、いま死体を突き刺しながら歩いている。
どうやら『死体のふりをしている者』を、あの槍のような足で殺しているらしい。実際シアが眺めているときも、死んだふりをしていた者が慌てて這って逃げようとし、その胸部を槍脚で突かれて殺された。
その禍々しい光景の背景にある赤い月を見上げながら、シアはある記憶を思い返していた。
殺される記憶ではなく、そのあと。
死後の虚無から、何者かに引き上げられ、形づくられた。
その場所は、白い部屋としか呼称できない。
〈白い部屋〉の主は、自らを女神ラーズとか名乗っていたが。
シアの知らない女神だ。生前それほど女神に詳しくもなかったが。
女神ラーズの要求は単純だった。
シアの妹リーアのことだ。
「おまえの妹の首をもってこい」
と、その女神ラーズは要求してきた。
その見返りに、シアを生き返らせると。とんでもない要求だ。実の妹の首をもってくるなど……しかしシアの記憶が確かならば、シアを殺した張本人こそが、その妹なわけだが。
だがシアも、女神の下働きをするほど暇でもなかった。死んでいることも忙しい。いやこれは皮肉だが。
そこで女神に対してこう聞き返した。
「あんたが殺せばいいだろ」
しかし女神が説明するに、
「おまえの妹は、いまや〈理の王〉の位階をもつ。女神としても、容易くは殺せん。だから兄である貴様が殺せ」
「どうして妹を殺したがる?」
妥当な質問だ。それにシアが見るところ、妹もそこまで悪党ではない。実の兄は殺したが、女神に命を狙われるほどではないはず。
しかしそれは間違いだったらしい。
女神ラーズが管轄していた世界、〈第肆世界〉を、妹は破壊。
それから〈第肆世界〉を支配する王として、いまも君臨しているそうだ。
そもそも〈第肆世界〉とはどこのことか。
生前シアがいた世界は、〈第参世界〉らしい。世界が複数あるとは驚きだが、その異なる世界を妹が征服したとは。
兄として感慨深い。
そして、いま──シアがこうして立つこの地こそが、〈第肆世界〉なのだろう。
女神ラーズいわく、いまや地獄のような世界らしい。確かに、ぱっと見からして、死屍累々だが。ただそういう場所に、わざわざ仮復活させられただけかもしれないが。
仮復活。
42日以内に妹を殺し、その証拠として首をもってこいと。
それを果たしたら、シアは本当の復活を許されるそうだ。
(女神と契約するほど馬鹿なやつもいない……しかも自分の管轄する世界を守れなかったような女神とは)
と考えながらも、シアは歩き出した。
死屍累々のほうから、15歳程度の少女が、死に物狂いで走ってくる。先ほどまで死んだふりをしていたが、槍脚たちに見つかり、いまは追われている。
10メートルもの槍脚ゆえの歩幅で、あっというまに少女に追いつきそうだ。
シアは軽く助走し、死体の山を踏み出しに跳躍。
唖然とする少女を飛び越え、槍脚の一体に激突。
こうして近くで見ると、だいぶ人間に似ている。それでも牙の長い、目のない顔は、異形の種だが。
その頭部を大地に叩きつけて殺す。
槍脚の一本──これは身体の一部だ──を引きちぎる。
こうすれば立派な槍となる。
シアは剣士だが、まともな剣が手に入るまでは、これを武器として装備するしかないようだ。
「まったく。武器くらいセットで仮復活させてくれればいいものを」
ぼやいてみたが、とくに気持ちは晴れない。
妹を殺すべきか、それが問題、か。




