第七十五話 その1秒を超えていけ!
「おー!
やってる、やってる!」
城西拓翼大学の
陸上競技場を見下ろせる
ジョーダイ丘についた
蒼太たち5人は、
後輩たちの走りを
見守っていた。
「おっ!
力石キャプテン、
また速くなったじゃん!
サッカートリオや
太陽だけじゃなくて
他の同期メンバーの
5人も怪我から
復活したみたいだな。」
さらに、
統率のとれた集団走を
繰り広げる新四年生の
後ろには、
新三年生が
必死になって食らいつく。
「ほー。
神崎世代の10人も
負けず劣らず…
こりゃ、来シーズンの
メンバー争いは
超激化まちがいなしだな。」
「ああ、だけど
こんだけ気合いが
入っていたら
来年の箱根は
きっとやってくれるよ。」
後輩たちの成長に
蒼太たちも
感慨深い気持ちで
いっぱいだった。
「ところで、圭佑。
本当によかったのか?
あの時のタスキ…。
10区を走ったお前に
貰らう権利があったのに、
後輩に、寮に、
寄付してしまって…。」
「うん。
力石にお願いされたからね。
最初は、
あのタスキがあることで
チームにとって
負の遺産にならないか
不安だったし、
後輩たちが
過去に縛られながら
生きてしまうような
ことになれば、
それこそ『悲劇』だと
思っていたから
断ってたんだけど、
新チームの
合言葉を聞いて、
これなら託しても
大丈夫だって思ったんだ。」
「それが…。
『あの1秒…』じゃなくて
『その1秒を超えていけ!』
だったというわけだな。」
「うん。
今の力石たちなら、
あのタスキを
受け継いでも、
今を
しっかり生きることで、
未来への力に
変えてくれる、
そんな気がしたんだ。」
「そうだな…。
きっとそうだよ。
俺たちの頑張りは
決して無駄なんかじゃ
なかったんだ。
さあ、俺らも
前に進もう!
箱根駅伝の
向こう側にある、
社会人生活という
箱根駅伝11区を!」
「…。」
「…。」
「なんだよ?それ?
くっせぇ台詞だなあ。
蒼太ぁ。」
「いや、今めっちゃ
キマッてたって!」
「まあ、お前らしくて
いいじゃないか。
それじゃあ、
櫛部川監督に
顔出していこう!
さあ、行くぞ。」
「ああ!待てよ!」
涼介を先頭に
全員が駆け出す。
蒼太は
同期の背中を
見つめながら思った。
(ありがとうな…
ジョーダイ。
最高の仲間に、
出会わせてくれて。
涼介、蓮太、
修太、圭佑…。
本当にありがとう。)
かつて
『悲劇の世代』と呼ばれ、
最後には
『最高の世代』と称された
蒼太たち…。
この5人の生き様は、
タスキは無くとも、
多くの人々の
未来へと
繋がっていたのであった。




