第四十九話 せめて今だけは!(箱根駅伝・往路激走編⑥)
(オレも、大きくなったら
パパとジョーダイで
タスキリレーしたいー!)
(えー!?わたしもー!)
(てっちゃん!
私にこんっだけ、
苦労かけるんだから、
4年間、必ず箱根駅伝で
活躍してきなさいよ!)
2人の子どもと妻の言葉を
思い出し、宗像哲也は
目がしらが熱くなるのを
感じていた。
(ごめんな…。パパは
そこまで頑張れなかったよ。
本当にごめん…。
大人なのに…、
父親なのに…、
いっぱい約束破って、
嘘ついてばっかり、
本当にダメだよな。
そのうえ、
根っからの駅伝バカで
単身赴任の学生寮暮らし、
まともな収入もなく、
今は嫁さんのすねかじり。
家族に会えるのは
月に一回の門限フリーの日…。
こんなの普通に考えたら
まともな父親じゃねーよ。
でもな、普段は
走ることしか能がない
どうしようもないヒモ男でも、
箱根駅伝だけは、
世界で1番カッコいい男に
なれるんだってことを
見せなきゃいけないんだ!)
箱根駅伝4区。
城西拓翼大学・宗像は、
15キロ地点まで快走を続け、
13位から11位まで
順位を上げていた。
しかしッ!
第四十九話 せめて今だけは!
ここにきて、
腰に激痛が走る!
(くそうッ!
最後の最後だってのに!
急ににガタが来はじめたかッ!?
でも、せめて、
今日だけとは言わない…。
俺が走っている
この4区だけでもいいんだ!
家族や皆のためにも!
俺はいつもどおり、
カッコいい俺で
なくちゃいけないんだよ!)
かつて
実業団でエースだった男の
意地と気迫が、
その痛みを跳ね除けた!!
さらにギアを上げ、
前方のランナーを追う!
残り1キロ地点で
並走していた
2チームを抜き去り
単独9位に浮上!
そして、そのまま、
ラストスパート!
30を過ぎた男とは
まったく思えないほどの
ハツラツとした笑顔で
5区・力石にタスキを繋いだ!
(力石!!
お前も自分の彼女に
いいとこ見せろよ!
そして、みんな、
本当にありがとな…。)
この時、
宗像哲也というランナーの
火はすでに燃え尽きていた。
しかし、今に至るまで
城西拓翼大学の部員全員、
宗像が競技引退を覚悟して
臨んでいたことなど、
まったくもって
想像だにしていなかったと言う。
長年の厳しい鍛錬で培われた
力強いランニングフォームや
ただただ前だけを見据え、
晴々とした表情を見せる
宗像を見て、
一体誰が、
その不調を見抜けただろうか。
しかし、宗像を後方の
監督車から見守っていた
濱上コーチだけは
涙が止まらない。
監督車に付属してある
マイクを大音量にし、
ゴール直後の宗像に
お礼を言う!
「よく耐えたな!ありがとう!!
マジでかっこよかったぞ!」
宗像も監督車に向かい、
右手でガッツポーズを取り
満面の笑みで応えたが、
監督車が見えなくなったことを
確認すると、腰を抑えながら
ばたりとその場に倒れ込んだ。




