第四十八話 宗像のラストラン!(箱根駅伝・往路激走編④)
「これは、圧倒的だ。
それ以外の言葉が思い浮かばん。」
明日の復路に備えつつ、
宿泊施設にて箱根駅伝の
テレビ中継をみていた
蒼太はそう呟いた。
「東洋文化大が、
山に葛城を温存できていれば、
結果は違ったかもしれない。
だけどこれで、
はやくも往路優勝は
法正大学で決まっちゃたね。」
圭佑がため息をつく。
他のメンバーも
ただただ無言で頷いていた。
テレビには、
法正大学・3区走者の柊健吾が、
向かい風の激しいなか、
東海道を激走し、
単独トップで
4区走者の犬神に
タスキを繋いでいる姿が
映し出されている。
2区を走った徳丸と同様、
文句なしの区間賞であった。
第四十八話 宗像のラストラン!
一方、城西拓翼大学は…。
2区の高砂治希と
3区の釣賀悠慎の二人は、
激しい向かい風と
厳しい寒波により、
なかなかペースを
上げることができず、
順位を14位から13位まで
上げるのが精一杯であった。
しかしながら、
シード権ギリギリの
10位に位置する
埼玉帝強大学との差が、
30秒差であることを
考慮すれば、この現状は、
濱上コーチの算段どおりであり、
1区・拓生から2区・治希、
そして3区・悠慎まで、
十分に健闘していたと言える。
されど、本人たちからすれば、
やはりこれは悔しい結果だ。
ライバル校のランナーが
エース級であったこともあり、
元々、大きな期待を
されていないことは
重々分かってはいたが、
「自分も
箱根ランナーとして
誇りある走りをしたい、
もっといい順位で
タスキを繋ぎたかった。」
という思いが溢れ出し、
ゴールの後は、
大粒の涙が止まらなかった。
第四十八話 宗像のラストラン!
箱根駅伝4区。5キロ地点。
城西拓翼大学のタスキは、
最後の箱根駅伝に挑む
宗像哲也(2年・31歳)に
託されていた。
『ムナさん!
次回は絶対に俺も
箱根駅伝にでますから、
一緒にタスキ繋ぎましょうね!』
出雲駅伝で足を負傷し、
サポートメンバーになった
神崎一心(2年)の言葉が、
スタートしてからも、
宗像の心に響いている。
あの時、つい、
『おう!』と返事をしてしまった。
それはおそらく、
歳上である自分を、
快く受け入れてくれた同期に
心配をかけたくなかったからだろう。
だが、
医師からは、これ以上、
腰痛が悪化した場合、
歩行に障害が出ると
示唆されていたため、
この箱根駅伝で
選手を引退しなければならない。
このことは、首脳陣以外、
部員の誰にも言えずにいた。
それゆえに、宗像は、
なんとも言えない
罪悪感のようなものを
感じずにはいられないのだ。
(すまないな。一心。
その約束は守ってやれそうもない。
おじさんの身体はもう、
ランナーとしては限界なんだ。
だが、
お前たちのために、
俺たちは必ず、
シード権を取ってくる!
これだけは
守らなければいけないんだ!)
そして…
もう一つ。
彼の人生で
もっとも大切な人の顔が
頭を過ぎる。
それは、齢30歳を
超えていたにもかかわらず、
箱根駅伝への挑戦を
心から応援してくれた
妻と子どもであった。




