第四十四話 法正大の五人衆!
12月29日、夕方。
法正大学・陸上部寮、
1階リラックスルームにて。
二人の長身の男が
入念にストレッチをしながら、
言葉を交わす。
背丈は互いに軽く
180cmを超えているだろうか。
日本の長距離界における
トップランナーの多くが
170cm前半である中、
駅伝選手としては、
かなり大柄と言えよう。
「俺たちの区間配置を見て、
他のチームは今頃ビビっているだろうな!
アキラ、お前もそう思うだろう?」
この左側のみを刈り上げた
アンシンメトリーヘアの男、
名を、柊健吾と言う。
エース徳丸には及ばないか、
平地でのスピードは、
チーム内でも指折りであり、
法正大・五人衆の1人に
その名を連ねる三年生だ。
今大会では、
このスピードを活かすべく、
3区に配置された。
「ああ。そうだな、健吾。
『往路優勝なくして
真の総合優勝はなし!』
鳴山監督の信念どおりの
超攻撃型スタイルだ!」
ヘア用ジェルで髪型を
オールバックにキメているのは、
時期キャプテン候補の犬神晃良、
同じく三年である。
無論、彼も五人衆の1人であり、
アップダウンの激しい
クロスカントリーコースで、
一度も弱音を吐いたことのないという
負けん気の強さを買われて
4区に抜擢されていた。
そこに、もう1人の五人衆である
市原丈一郎(四年)が腕を組みながら、
入り口の扉に寄りかかっている。
五人衆の中で、
特に駆け引きがうまく、
ロングスパートを仕掛ければ、
右に出るものはない。
「ま、1区で俺が一気に
出し抜いてやるから、
お前らは気楽にしていいぞ。」
後ろで結んだ長い髪を解きながら、
クールにこの部屋を後にする。
そして、先日、
気合いをいれるために、
急遽ヘアスタイルを
ツーブロックに変えた
天堂龍之介(三年)が
市原と入れ替わるように
寮へと戻ってきた。
激しい自主練を終えた
その身体からは大量の湯気が
上へ上へと登っており、
まるでその体からオーラが
発せられているようである。
余談だが、
この天堂の父、初男もまた、
かつて法正大学で
鳴山監督の指導を受け、
箱根駅伝五区を走った
ランナーであった。
そのとき、
当時の法正大5区の記録を
大幅に更新したことから、
今でも伝説のOB、
「山の天堂」と名付けられている。
そして、
その息子である龍之介は、
父親とその伝説を超え、
自らも「山の天堂」を
襲名するという野望を掲げて
法正大学の門を叩いたのだ。
入学当初は、
特に目立った選手ではなかったが、
1日たりとも怠ることなく
自主練を積み重ね、今では
法正大・五人衆の1人に
名を連ねるまで成長を遂げた、
まさに努力の鉄人である!
第四十四話 法正大・五人衆!
ここで、賢明な読者諸兄は
すでにお気づきかと思うが、
法正大学の陸上競技部のランナーは、
個性も実力同様に重要視する
チームカラーも相まって
全員が髪型に強いこだわりを
発揮している。
これは、法正大・五人衆の
筆頭である徳丸桂馬においても、
例外ではなく、
予選会において、
法正大の出場選手全員が、
チームカラーのオレンジ色に
髪の毛を染めて挑んだのは、
彼の発案であった。
さすがに、最初はこれに
抵抗を示す部員もいたが、
「目立つために
髪を染めるんじゃない!
『誰が来ても迎え撃つ!』
そうゆう覚悟と信念を
示すことが大切なんだ!」
と言って半ば強引に
メンバーを説得したのである。
そして、今。
予選会以降、
有言実行と言わんばかりに、
どのようなレースでも
圧勝し続ける
オレンジヘアの徳丸桂馬。
これに触発された他の部員も、
次第に髪の毛を鮮やかに
染め上げるようになった。
オレンジのヘアカラーは、
法正大学の象徴であり、
箱根駅伝に選ばれたメンバーの
誇りそのものなのだ。
「ほらよ!お前らのだ。」
風呂に行く途中の
徳丸桂馬がリラックスルームにいる
柊と犬神、そして天堂に、
オレンジの染髪剤を
軽く投げ渡す。
「あざっす!徳丸さん!」
「いいってことよ。
3日後の本番で、
俺たち法正大学陸上部が
箱根路をこの色みたいに
鮮やかに飾ってやろうや!」
そう言い残して、
さっと立ち去るエース。
後輩たちは、
この徳丸桂馬の背中に、
圧倒的なカリスマ性を
感じずにはいられなかった!




