第二十話 明日(ミライ)の主役(エース)に!(全日本大学駅伝編③)
(いよいよか…。)
11月第1週の某日(日曜日)、
全日本大学駅伝の当日。
時間はAM8:00。
第1区のランナーが、
名古屋・熱田神宮の
大鳥居をくぐって、
すぐ横のスタートラインに立った。
5分後に決戦の火蓋が切られるため、
各校の応援団も鳴り物をやめ、
観客全員が静かに選手を見守っている。
これから、
ゴールである伊勢神宮までの106.8kmを
選ばれし8人がタスキを繋いで走破する
壮大な御礼参りが始まるのだ。
この時、城西拓翼大学の1区走者である
高橋拓生は、箱根駅伝の十区を
走った時とは明らかに違う緊張感を
感じずにはいられなかった。
理由は二つ。
第一に、
全員が同時スタートとなる一区では、
『いかにライバルを振り落とすか、
そして、いつ勝負を仕掛けるのか』、
といった駆け引きが特に重要であり、
拓生が箱根駅伝で好走したとはいえ、
一度でもその判断を誤ってしまうと、
一気に下位に転落する恐さがあるからだ。
8位までに与えられる
来年度のシード権獲得のためにも、
勝利への流れを掴むうえで、
絶対に失敗は許されないのだ。
第二に、
今、となりにいる中央義塾大のエース、
早瀬刃の存在があるからだ。
トップランナーというものは、
明らかに、他のランナーとは
発するオーラが違うのだ!
先日、エースであるための心構えを
学んだはずだったが、
勝つイメージすら湧かないほど、
早瀬の実力がズバ抜けていることは、
走る前から容易に感じることができた。
(ヤベェ…。
俺じゃ早瀬に絶対敵わない!)
拓生だけではなく、
中央義塾大以外のランナー全員が
そう思わずにはいられなかった。
第二十話 明日の主役に!(全日本大学駅伝編④)
スタート15秒前。
雑念を取り払うかのように
拓生は両手で自分の頬を叩き、
気合いを入れた。
(それでも、
せめて区間一桁台で走り切ろう!
少なくても、流れは作れるはず!
勝負事は誰に勝ったかじゃなくて、
何をチームもたらしたかが大切なんだ!)
現実思考であるゆえに、
冷静に気持ちを切り替えられる、
これが拓生の大きな強みだ。
ゆえに、城西拓翼大学の櫛部川監督も、
彼を駆け引きができる仕事人タイプ」と
判断し一区に抜擢したのだ。
(確かに今の俺だと…。
脇役みたいな繋ぎの仕事しか
できないかもしれない。
でもな…。
今日が繋ぎ役でも
輝く日がやってくるんだ。
そう!必ずなってやる!
いつか、きっと!
勝利の流れをもたらすような、
明日の主役に!)
拓生に迷いは無い!
静まり返ったスタート地点では、
1秒1秒がいつもより長く感じたが、
その分、アツく燃える心臓の鼓動を
十二分に感じることができた。
5秒前…。
4、3、2、1…
パァン!
スタートピストルが熱田の空に鳴り響き、
各校のランナーが伊勢路へと駆け出した!




