第十八話 エースであれ!(全日本大学駅伝編①)
箱根駅伝予選会の
法正大による挑発事件から
およそ2週間が経過した。
大会当日2日前であるこの日、
全日本大学駅伝に出場する
城西拓翼大学のメンバーは、
現地での下見を終え、
宿泊施設でミーティングを行なっていた。
最終的に決定した区間配置は、
次の通りである。
一区( 9.5km) 高橋 拓生(三年)
二区(11.1km) 敦賀 悠慎(三年)
三区(11.9km) 高砂 治希(三年)
四区(11.8km) 石川 涼介(四年)※
五区(12.4km) 東原 蓮太(四年)
六区(12.8km) 東原 修太(四年)
七区(17.6km) 西條 蒼太(四年)※
八区(19.7km) 力石 守 (三年)※
※は直前まで補欠登録されていたが、
当日の選手変更で走ることが
決まっていたメンバーだ。
なお、全日本大学駅伝では、
補欠との当日変更が3人まで認められている。
この当日変更作戦は、
全日本だけでなく、箱根駅伝でも
よく見られるのだが、
何故、このように主力となる選手を
最終まで補欠登録するのか?
これは、
ライバル校に手の内を見せないためや、
他校との主力メンバー同士の潰し合いを
極力避けて有利にレースを展開する、
という目的がある。
駅伝とは
いわゆる「流れ」のスポーツであるため、
主力メンバーが他校の選手に敗北すると
他のメンバーにも精神的な重圧がのしかかる。
一方で、他校のエース級に、
自校で実力下位の選手が競り合えれば、
他の区間に配置されたエースにより、
ライバルに大差をつけやすくなるのだ。
ゆえに、
各校から事前に発表された
区間エントリー表をもとに、
指揮官たちは互いの腹の
探り合いをせざるを得ない。
レースは当日に走る以前から、
すでに始まっているのだ。
以上が、稚拙な作者による
当日変更に関する精一杯の説明である。
字数制限の関係もあり、十分に
説明しきれていない部分も多々あるが、
その点はご了承いただきたい。
このオーダーに決定されるまで、
監督の櫛部川は、当日変更で走る
涼介、蒼太、力石のうち、
誰をアンカーに据えるか
最後まで悩んでいたと言う。
しかし、八区のラスト3キロが
上り坂になっていることや、
濱上順平コーチの強い進言もあって、
調整中の宗像とともに
箱根駅伝の山上り候補である
力石守を最長区間の八区に大抜擢した。
第十八話 エースであれ!(全日本大学駅伝編①)
「全日本のコースは
アップダウンも多いが、
それは箱根駅伝ほどじゃない。
ただ、七区と八区以外の
一区から六区まで距離は、
おおよそ均等に区切られている。
箱根駅伝の『花の二区』のように、
明確なエース区間は存在しないんだ。
実際に、前半の一区から四区までに
勝負を決めたい大学ですら、
意外なところにエースを
配置してくることもある。
だから、本来、駅伝という競技には、
繋ぎの区間やエース区間という概念など
存在しないものだと考えてくれ。」
監督の櫛部川が、静かにそしてアツく
メンバーに発破をかける。
『繋ぎやエースという
区間は存在しない。』
すでに、
出雲駅伝を走った四年生と力石は、
その言葉の意味を
魂で理解していたが、
今シーズン初の駅伝に挑む
治希、拓生、悠慎の3人は、
難しそうな顔をしている。
見るに見かねた濱上コーチが
3人の方向に目をやる。
「治希、監督が何を言いたいか
要約してみろ。」
突然の使命に浮き足立った。
「えっと、その…。
上手く言えないんですけど…」
声が小さくて、
周りの人間によく聞こえていない。
しどろもどろする治希に
シビレをきらした涼介が喝を入れる。
「自信を持ってスパッと言えよ!
間違っていても死にはせんし、
レースで負けるわけじゃねー!
結果的に理解できれば大丈夫だ!」
治希たち3人の背中に電流が走る!
「はい!エース区間がないってことは、
誰しもがエースになれる可能性があるって
ことだと思います!」
治希の心臓はバクバクと音をたてていた。
「そうだ!大正解だな!
三区にお前を配置したのは、
気持ちひとつで粘りの走りをみせる男、
『意外性の高砂』だからなんだぞ。」
櫛部川監督は笑顔で答えた。
「すみません…。
じゃあ俺もエースになれるんですか?」
拓生が恐る恐る手を上げて質問する。
「当たり前じゃないか!
エース区間に挑むんだって
気持ちを常に忘れるなよ!
お前の安定感にこれが加われば、
どの区間でもやっていけるぞ!」
濱上コーチも力強く励ました。
「つまり…。
監督やコーチが言われたことは、
走力の視点で『エースになれ』
ということじゃなくて、
心のあり方として『エースであれ』
ということなんですね!」
悠慎がキレイにまとめると、
全員が「おおー!」と感心する。
「美味しいところ
もっていくんじゃねーよ!」
治希と拓生が同時に悠慎の頭に
ツッコミを入れようとしたが、
余裕で避けられた。
「見たか!
『スピードの悠慎』も伊達じゃないぜ。」
イキった顔をみせた瞬間、
後ろにいた蒼太のチョップが頭にヒット!
「調子に乗んな。悠慎!」
レース前で緊張している
ジョーダイメンバーに
少しだがほっこりとした笑いが起きる。
(蒼太も先輩らしくなったな…。)
櫛部川監督と濱上コーチは
しみじみとそう感じていた。




