第十七話 徳丸(エース)の変化(法正大学編 最終)
箱根駅伝予選会から1週間後。
法正大学陸上競技場にて。
「徳丸…。
流石にやりすぎじゃろ!
予選会の日から抗議の電話
ばっかりじゃ。まったく…。
テレビを使って挑発するなんざ、
前代未聞もええとこじゃぞ!」
自主性と個性を重んじる
法正大学監督の鳴山ですら、
苦言を言わざるを得ない。
しかし、当の本人は、
全くと言っていいほど
これを気にしているように
感じさせなかった。
鳴山に背を向け、
お気に入りのサングラスをかけたまま、
「そうっすか?」と言って、
ストレッチを繰り返している。
その上、多くの部員、特に下級生は、
徳丸に心酔しきっており、
誰も彼に異をとなえる者は
当然のごとく皆無であった。
第十七話 徳丸の変化(法正大学編 最終)
しかし、徳丸と同じ四年生らは、
別の意味であの発言に驚愕したと言う。
「なあ、確かに徳丸は言ったよな。」
「ああ。間違いなく言った。
箱根駅伝で勝つのは『俺たち』だって。
常に自分のことしか
考えないようなヤツだったのに。」
彼らは気づいていた。
徳丸の中で
何かが変わり始めていることを。
そして、今回の件で、
鳴山に迷惑をかけたことに関して
本当は申し訳ないと思っていることも。
その証拠に鳴山の話を聞く時だけは、
絶対にサングラスを外す徳丸が、
今日に限ってこれをかけたままだからだ。
徳丸は謝ることが苦手な男である。
それはある意味、
不器用なのかもしれない。
「謝るぐらいなら
結果を出して見返せばいい。」
そんな力ずくの人生を歩んできた。
ただ、恩人である鳴山に対しては、
「すみません。」と言いたいはずだ。
だが、「ここまでやった以上は、
監督や仲間のためにも強気でなければ!」
という気持ちの方が勝ってしまう。
(あんな風に振る舞っていても、
徳丸は誰にも負けないくらい、
鳴山監督に恩返しがしたいんだろうな。)
同期全員がそう思っていた。
「お前の内定先からも
クレームが来とったぞ!
日青食品からオファーが来たのに、
取り消しになったらどうするんだ!?」
鳴山の説教は止まらない。
「大丈夫っす!
そんときゃ、バイトでもしながら、
鳴山監督とオリンピックで
金メダル取りにいくんで!」
そう笑いながら、
徳丸桂馬はトラックに駆け出した!




