第十二話 打倒!爆走王!(法正大学編①)
「それにしても…。
城西拓翼大学と
山梨国際大学は侮れんな。」
「ああ、このまま奴らに勢いがつくと
こちらにとっても強敵となり得るぞ。」
出雲駅伝の中継に
釘付けになっているのは、
法正大学陸上部・中長距離ブロックの
メンバーたちだ。
彼らは前回の箱根駅伝で
惜しくも11位となり、
来年の箱根駅伝本戦のシード権と
今回の出雲駅伝の出場権を
同時に逃がしている。
なお、六月下旬に行われた
全日本大学駅伝・予選会でも
数秒差で7位となり、
本選出場とならなかった。
一方で、出雲駅伝のテレビ中継に
全く興味を示さないものが1人いた。
短髪でオレンジ色の髪の毛がよく似合い、
並の選手とは段違いの肉体をしている。
これだけでも、どれほどストイックに
トレーニングを積んできたかを
誰しもが察することができる。
彼の名は徳丸桂馬!
法正大学陸上部のキャプテンで、
自他共に認めるエースの中のエース!
学年は蒼太や涼介と同じ四年生で、
かつては「未来のメダリスト」と称された
世代最強ランナー速水瞬の対抗馬として、
「爆走王」と呼ばれていたランナーだ。
第十二話 打倒!爆走王!(法正大学編①)
「しょーもな!」
徳丸はそう言いながら、
テレビのスイッチを消した。
「なっ…!??
何すんだよ!徳丸!!」
同期の部員たちが怒る。
しかし、徳丸は動じない。
「最長距離でも
10キロ程度しかない駅伝なんか、
いくら見ても参考にならんだろ。
俺たちの狙いはあくまで
箱根駅伝総合優勝だけだ。」
徳丸は1人でトラックへ駆け出して行った。
「そうだ!俺たちは箱根駅伝で
絶対に負けられない理由がある!」
「今年度で勇退される鳴山監督を
大手町で胴上げするんだ!
そのためには、徳丸だけに、
全てを背負わせちゃいけねーよな!」
「ああ、それなら、
何としてでも徳丸を
超える走りをして、俺たちも
エースに負けないランナーだと
証明してやるしかない!!」
こうして、
『打倒!徳丸!!』を旗印に、
部員たちは本気になった。
次の日から、
法正大学の練習は熾烈を極めた。
自主練をしている徳丸に、
皆が勝負を仕掛けにいったのだ。
しかし、徳丸に簡単に捻られて、
敗けを積み重ねていく。
それでも、何度も立ち上がった。
何故なら、徳丸という存在は、
乗り越えたい大きな壁であり、
また、唯一無二の
憧れのランナーであるからだ。
それから、一週間ほどたった。
「箱根までに、徳丸に勝ちたい。」
「徳丸のようなランナーになりたい。」
「箱根駅伝で優勝したい。」
これらを実現させたいという
気持ちが強かったのだろう。
元々、才能豊かな選手が
多く在籍していたこともあり、
気持ちが本気になったことで、
走力は一段と向上していった。
そして、
部員全員の気持ちが
一丸になると共に、
髪の毛の色も徳丸と同様に
チームカラーのオレンジ色に
しっかりと染まっていた。