第十一話 最後じゃないですか!(出雲駅伝編 最終)
「涼介!こっち、こっち!」
城西拓翼大学・四区のランナーである
修太が、涼介の方に
片手を伸ばしながら声を上げる。
一方、山梨国際大学の次走者も、
同様に、目一杯手を伸ばしている。
相手よりも一瞬でも早く
タスキを受け取るためだ。
涼介とエドワードは
ラストスパートを仕掛けているが、
横一直線で勝敗がつかない。
結果、エドワードも涼介も、
3区を同タイムで走り抜いた!
しかし、西洋人のエドワードの
腕の長さから、一瞬であるが、
城西拓翼大学よりも早く
タスキリレーに成功していた。
この時の僅かな差が、
後のレースに大きな影響を
及ぼすことになる。
山梨国際大学のランナーは、
エドワードがライバル校との
エース対決に勝利したことにより、
一気に流れに乗った!
一方、城西拓翼大学は、
四区、五区をそれぞれ担当した
修太と蓮太により、順位を3つ上げるが、
さらに先を行く山梨国際大学の背中を
捉えることができない。
六区アンカーを務めた蒼太も
さらに順位をひとつ上げたが、
結局、山梨国際大学には及ばす、
六位でフィニッシュした。
第十一話 最後じゃないですか!(出雲駅伝編 最終)
レース後、出場メンバーは
ゴールの出雲ドーム前に集結した。
一区を走った力石は、
涼介対エドワードのレースを見て、
駅伝魂に再び火が灯る!
四傑の恐怖を打ち破るべく
更なる猛練習を決意していた。
また、二区走者の神崎一心は、
松葉杖で身体を支えながら
ずっと下を向いている。
あの時、無理に足を引きずって
タスキを繋いだことにより、
想像以上に怪我が酷くなっていた。
レース中に負った怪我の応急措置で、
包帯が巻かれた右足が痛々しく、
皆、神崎に同情している。
そして、
医師からは全治三〜四ヶ月と言われ、
今シーズンはもはや絶望的になった。
(あの時、俺さえ失敗しなければ…。
三位以内も夢じゃなかったのに。)
悲しい気持ちであるはずの
神崎一心であったが、
茫然自失として涙すら出てこない。
そんな中、
蓮太と修太がそんな神崎に声をかける。
「よく頑張ったな。」
「チームが失格にならなかったんだ。
お前のおかげなんだぞ。」
神崎は相変わらず下を向いたままだ。
先輩の優しい言葉に
ついに涙が溢れ出ようとする。
だか、それだけは必死に堪えた。
(本当に悔しい思いをしているのは
四年生じゃないか。合わす顔がない。)
そんな思いとは逆に、
四年生は全員が
(しょうがないな…)
という顔をしている。
次に蒼太が神崎を励ました。
「これも来年に向けていい経験になるって。
今日、こうして皆んなと駅伝ができたんだ。
去年の事故に比べればなんてことない。
さあ、寮の皆んなにお土産買って帰ろう!」
しかし、相変わらず下を向いたままだ。
悔しさが甦り、返事もできない。
「辛い経験も悔しい思いも、
すべて力に変えるのがジョーダイなんだ。
しっかり怪我を直してさ…。
また、来年頑張ればいいよ。」
涼介がそう言って、
神崎の背中をさすった。
四年生全員の思いやりに
神崎の涙が止まらない。
そして、その場で泣き崩れた。
「でも…、でも…。
四年生の出雲駅伝は
これで…最後じゃないですかー!!」
神崎の心からの叫びが
出雲ドームの周囲にこだまする。
(いつか、神崎にも分かるだろうな。)
四年生全員がそう思いながら、
泣き続ける後輩を慰め続けた。
『辛いことや悔しいことを
何度も乗り越えたからこそ、
人は強さと優しさを
備えることができるのだ。』
神崎一心。城西拓翼大学、二年。
蒼太世代卒業後、箱根路に
「シグナルレッドの快進撃」と呼ばれる
大旋風を巻き起こす立役者の一人となる。
怪我が完治した後、
誰よりもロード練習に力を入れ、
チームでも指折りの選手と
呼ばれるようになった。
後に後輩たちから、
「どうすれば、
速くて強いランナーになれますか?」
という問いに対し、
「人生で一番悔しかった事と
優しくしてもらった事を
絶対に忘れなければ、
不思議と両の足に力が込もって
以前よりも強いランナーになれるもんだ。」
と語ったと云う。