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第三話 最後(ラスト)の挑戦

「監督、それと順平コーチ…」


宗像が静かに口を開く。


彼なりの気遣いだろう。


濱上順平と二人でいる時は、

基本的に呼び捨てだが、

監督や他のメンバーがいる時は、

必ず『順平コーチ』と言う。


「やっぱり、あの時の古傷は

完治していなかったんだな?」


濱上は全てを理解していた。


二人は実業団時代から数えて

十年の付き合いになる。


顔を合わせれば、

互いに何を言いたいのか

分かるようになっていた。


「ああ。

もう大丈夫だと思っていたが

やはり甘かった…。


全日本の予選直後に、

実業団時代に負った

腰痛が再発した。


箱根はギリギリ

間に合わせてみせるが、

出雲や全日本の本戦は

もはや絶望的だ。


そして、医者からも宣告された。

ランナーとしてレースに

出られるのはあと一回きりだと。


だから、

最後のレースは何区でもいい。

どうしても箱根を走りたい。


子どもと嫁さんに

格好いいところを見せて

ランナーを引退したいんだ。」


順調と思われていた

城西拓翼大学駅伝部に

早くも暗雲が立ち込めていた。



第三話 最後ラストの挑戦



「そんな…。全日本の予選会を

突破できたのは、間違いはなく

宗像おまえのおかげなのに…」


濱上コーチが頭を抱える。


6月下旬に行われた

全日本大学予選会では、

近年稀に見る接戦となったが、


最終4組に配置された

宗像と涼介の好走により、

大逆転で出場枠ギリギリの

6位に滑り込んでいたのだ。


「本当に申し訳ない。だが…

メンバーに心配をかけたくない。


怪我のことは、

皆には黙っていてほしい。」


チームを勝たせたいという

責任感の強さや、

最後ラスト箱根レース

挑もうとする覚悟が、

宗像の表情を

より精悍なものにしていた。


きっと、

自身の競技人生の最後を悟ると、

自然とそんな顔になるのだろう。


そんな宗像を見て、

監督の櫛部川は

腕を組みながら

しばらく悩んでいた。


本来ならば、

選手の怪我と言った情報は、

メンバーの間で

必ず共有しなければならない。


しかし、宗像は

実業団としてのキャリアを捨て、

並々ならぬ覚悟を持って

城西拓翼大学に来てくれた。


そんな彼の意思を

ここで否定するわけにないかない。


櫛部川は、ついに決断を下した。


「分かった。宗像。

しばらく二軍コーチをしてくれ。

そして、皆んなにバレないよう

練習量を制限しつつ、

箱根に合わせてくれ。


一軍メンバーには、

今シーズンの箱根でも勝つために、

宗像は独自に調整すると伝えよう。


表向きの理由として、

出雲と全日本には、

若手にチャンスを与えるため、

お前を外すことにする。


だが、箱根の4区は、

お前以外ありえないと

思っているからな。」


「本当にすみません。

俺のわがままを聞いていただき、

ありがとうございます。」と言い、

宗像は深々と頭を下げた。

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