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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【マスターの一番長い日】
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第四幕:マスターの一番長い日(1)

 事務所に戻ってしばらく経ったらソラチさんから再びメール着信。今度の新曲を手直ししたのでチェックしてくれ、とのこと。


…えっもう手直ししたの?早くない!?


 聞いてみると、確かに微妙に曲調が変わっている。

 ひとまずこれは、所長に報告しといた方がいい気がするな。


「ソラチ自身が手直ししたのなら何も問題はない。そのまま彼女たちに練習させておいてくれ」


…なーんか所長も丸投げのような気がしないでもないなあ。まあ、いくら彼でも何もかも出来るわけじゃないとは思うけどさ。


 でもそうなると、いよいよナユタさんのマルチぶりが際立つよな。


 もう一度レッスン場に上がって、3人に手直しされた曲を聴かせてみる。ユウが『マイさんに合っていますね』と言うので、曲をUSBに移して機材にセットして、歌わせてみた。


「あっ、これ、すごく歌いやすいです!」

「だから合ってると言いましたよ?」

「マイさん以外のパートはほとんど変わってないですし、これは曲の完成度もさらに高まりますね」


 3人とも満足した様子。しかし、マイの歌声をちょっと聞いただけでこうも完璧な調整してくれるなんて、凄いなソラチさん。


「じゃあこっちの曲で1回歌って、それもソラチさんに聴いてもらおうか。あの人も具体的にきちんと狙い通りになったのか、きっと知りたいだろうしな」


 再び全員で簡易スタジオに移動して、3人で歌う本来のバージョンと、マイが独唱するバージョンと両方、タブレットで録音する。

 さすがにマイも慣れてきたようで、スムーズに歌い終えた。その音源データを添付して、3人とも大満足してるので今度のライブはこれで行きます、と一言添えてメールする。併せて、今夜のマイのインタビュー放送も伝えて、自分も立ち会ってないから詳細は分からないが、見ればマイの人となりも知れるのではないか、というのも書き添えた。


 すぐに了解のメールが返ってきた。


…それにしても、ソラチさんってレコーディングに立ち会ったりとかしないのかな。マイの歌声をリクエストされた以外には、要望みたいなのは一切何も言ってこなかったんだけど。


「ソラチさんは私たちと必要以上に関わろうとしない方ですから。事務所に顔を出した事もないはずですよ?」

「そうなの?まあ人それぞれ考え方があるんだろうけど」


 あー、もしかして魔防隊内でのパワーバランスの関係とか?ヤバイな、これ触らんとこ。


「まあいいや。じゃあとにかく、新曲はそれで練習しておいて。俺は事務所に戻るから」


 内心でそう決めてから彼女たちにそう言って、レッスン場を後にした。



 その後も電話連絡を中心に雑用をこなした。

 話が広まりすぎたのか、レギュラー番組のプロデューサーさんや取引のあるスタジオ関係者さんたちまで、電話をかけてきて心配して下さった人もいた。本当にありがたいし、なんだか申し訳なくもある。

 ナオコさんが電話を入れてきてくれたので復帰の挨拶と、以前誘ってもらってた懇親会に顔を出せなかった事を詫びる。マメに開いてるから次でいいわよ、そんな事よりしっかり治しなさいな、と暖かい言葉をかけてもらう。

 ついでにナユタさんが倒れたことも知らせておいた。言う必要はないのかも知れないけど、ナユタさんのこともずいぶん可愛がってくれてたみたいだし、伝えておく方が不義理にならないだろう。


『あら~そうなの?あの子も無茶しいだから心配ねえ』


 ナユタさぁん、ナオコさんにまでバレてますよ?

 ちゃんと自重して下さいね?


『アナタも他人事じゃないわよ?アナタたちって意外と似てるトコあるの自覚してる?無茶しちゃダメよ?』


 うっ。他人事じゃなかった……!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 3時半過ぎにサキがレイと合流するためにパレスを発った。ひとりで行かせるのは若干不安だが、それ言うと多分キレるので黙って見送った。4時前にはレイとリンからそれぞれ次の収録に向かうと連絡が入ってきたので、頑張ってと伝えて送り出す。

 午後は午前中みたいに電話が鳴り続けるような状況ではなくなったので、ひとまず落ち着いて過ごすことができた。とはいえ次のスタッフミーティングや前日リハの段取りなど、打ち合わせること、決めておく事が山ほどあったため、それらの連絡と段取り決めでずいぶん時間を取られた。

 本当ならナユタさんと相談して決めなきゃいけないことだが、もう仕方ないので全部独断で決める。元々、細かい案件は独断で決めていいと言われてたし。


 今日はみんなの戻りが遅いので、そのことを忘れないうちに調理師さんに伝える。いつも11時前に来て夕方の5時過ぎには帰ってしまうため、作るだけ作ってもらって後は業務用の冷蔵庫にでも入れておいてもらうようお願いしておいた。後はユウにでも頼んでおけばいいだろう。

 巡回組は夕方の5時過ぎに、残りのみんなも7時までには帰ってきた。巡回組だけは先に食べててもらって、あとのみんなにはレンジで温めて食べてもらう。昼のゴーヤチャンプルーも残ってるからと伝えれば、何人かはそちらも少し摘まんだようだ。



 夕食も済んで、ようやく一息つく。

 今日は本当にバタバタな1日だった。


「マスター、お疲れ様です。お茶、いかがですか?」

「悪いねユウ。頂こうか」


 リラックス効果のあるハーブティーを淹れてもらって飲む。本当、ユウの淹れるお茶ってどれも美味いよね。


…と、つい仕事終わったつもりになってるけど、ナユタさん明日は来るんだよね?


 一応、所長に確認しとく方が良さそうだな。


「ちょっと所長に明日の予定を聞いてくる。あの人が帰る前に聞いておかないと」

「そうですね。ナユタさんのことも心配ですし」


 事務所に降りて所長室に向かうと、ちょうど帰り支度をしてロッカーから出てきた所だった。


「ああよかった。所長、明日はナユタさん来るんですかね?」

「……そうか、それを伝えるのを忘れていたな。実はまだ連絡が返ってこなくてね。明日も休ませるしかないかも知れん」

「……重症そうですね。俺、家まで様子を見に行ってきましょうか?」


 なんて、つい口から飛び出した。


「……そうだな。これから私が自分で行くつもりだったのだが、私よりも君に行ってもらう方がいいかも知れんな。済まないが、頼めるかね?」


 なんでそんなこと口走ったのかと自分でもちょっと動揺してたら、まさかのOK。いやいやそこは、モロズミさんにでも行かせるべきなんでは?

 とはいえ、自分から口にした以上は引き下がれるはずもなかった。まあ俺が行けば行ったで伝えたい事もあるし、まあいっか。


「分かりました。じゃあ、ナユタさんの住所教えてもらっていいですかね」


 住所みたいな個人情報を、本人の承諾なしで入手するのってホントはダメだと思うけど、まあこの場合は仕方ないよな。

 ていうか、所長が顔出しちゃうと色々ダメな気がするけどな。上司に家に来られて見舞われる部下の気持ちとか、多分きっと解ってないでしょ所長?







お読み頂きありがとうございます。

次回更新は4月5日です。

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