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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【マスターの一番長い日】
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第三幕:デモテープ収録

 事務所で昼食を食べていると案の定電話が一件かかってきて、受けるとMuse!の楽曲制作担当のソラチさんだった。この人は確か、魔防隊の関係者だ。

 もろもろの事情を話し、自分の連絡先も教える。マイの様子を気にしていて一度歌声を聞いておきたいと言うので、午後のレッスンでデモを録って送ると約束した。

 ただ、何というか……ずいぶんと自信なさげな小動物系だったな。男の人だったんだけどね……。


 昼休みを終えた所員さんたちがひとりふたりと戻って来始めたので、空の食器を持って食堂に上がった。調理師さんご夫妻はもう奥の休憩室に引っ込んでいたので、メモを置いて食器を食洗機に突っ込み、リビングに顔を出した。

 リビングにはマイのほかにミオとハクがいて、ユウの淹れたお茶を飲みながら寛いでいたので、ソラチさんに送るデモ音源の録音を頼んでおこう。忘れないうちに伝えとかないと、そのまま忘れてしまう自信がありすぎる。


「ちょうど良かった。あのさ、楽曲制作担当のソラチさんって人から連絡があってね……」


 ちなみにサキの姿はなかった。彼女だけ午後オフだから、きっともう部屋に上がっていったのだろう。


「ソラチさんはMuse!の曲のほとんどを作って下さってるんですよ。あの方にマイさんの歌声を覚えてもらえば、きっとマイさんに合わせた曲を作って下さいます♪」

「ひえぇ……!わ、私そんな大層なものは……」

「いや大層かどうか分かんねえけどさ。先方が『マイの歌声を聞きたい』って言うんだから。デモなんだし外に出るもんでもないんだから、多少失敗したって平気だろ。

あと、ついでだから地の声も聞かせた方がいいと思うし、一言挨拶も入れといて」

「あの、マスター……私たちは……」


「あー、ミオたちはまだレッスン途中で仕上がってないから、今はまだ……かな」


 本当はマイのついでに一緒に歌声録った方がいいのかも知れんけど、ある程度レッスンの仕上がってる……というかデビューも済んでるマイと、まだレッスン途中のふたりとじゃさすがに完成度が違うもんな。

 ハクの方はもう全然良さそうではあるけど、それだとミオを独り取り残しちゃうしなあ。


「ミオたちはこのままレッスン進めてある程度モノになって、デビューが見えてくるようになってから改めて歌声録る方がいいと思う。今のところはまだ発展途上(・・・・)だしな」

「ぅく……わ、分かりました……」

「はい♪ではそのように。⸺マイさん、ソラチさんは私たち全員の声を把握して、ひとりひとりに合った曲調やキーを調整して下さってるんですよ。だからマイさんも声を知ってもらっておけば、今後の新曲では少しは楽になるはずですよ」

「そ、そうなんですか……?」


 そう。今ある曲は全部マイの加入前からある曲だから、マイの声や声域に必ずしも合っていない。今度のライブ用の新曲も彼女の声を聞かないまま作ってもらってるから、マイの方が合わせて歌うしかないのが現状だ。

 そういう意味で、そこに気付いてやれなかったのはまだまだだなあと反省するしかない。


「じゃあ、レッスンの最初に録ろうか。なるべく早めに送っとけば今度のライブ用の新曲も手直ししてくれるかも知れないしな」

「そうですね。ではもう少し休憩したらレッスン行きましょうね、マイさん」

「は、はい……うう、緊張する……」

「デモはデータだけでいいって話だったから、俺のタブレットで録ってそのまま送信するから」


 そう、実は取説によれば録音機能まで付いてるんだよなこのタブレット。いくら何でもやり過ぎじゃない?本当、これ開発するのにいくらかかったんだよ。


「と、録って出し……!?ひいぃ……!」

「じゃ、そういう事で。レッスン場行くときには声かけてくれな」


 梅干し食べたみたいな顔になって青ざめるマイを敢えて放置して、そのまま事務所に戻った。あがり症もあんま構ってやり過ぎると逆効果だって言うしな。


 自分のデスクに戻って、時計を確認してからマイをインタビューしてくれた制作スタッフさんに連絡を入れた。同席出来なかったことをまず詫びて、それから放送日時を改めて聞く。多分ナユタさんは知ってるはずだけど、俺は聞いてないから聞いておかないと。

 そして、SNSで告知する許可を頂いた上で電話を切って、順次投稿する。インタビューは今夜のニュース番組の特集コーナーで流れるそうだから、昼間のうちに告知しとかないとな。

 SNSを開くと例によって復帰報告が大量にリツイートされていた。コメントも多数寄せられていたが、ひとまず今は読んでる時間がないので放置。



 そうこうしてるとレッスン組が降りてきた。ユウとマイと、もちろんミオとハクと……


「あ、サキも来るんだ?」

「マスター、本当に解ってませんね。新レフトサイド最後のひとりであるハルさんがまだ帰ってきてないというのに、一体誰がハルさんのパートを歌うんです?」

「あー、確かに。そう言われりゃそうだよな」


 つうかそこまで頭回ってなかったわ!



 事務所の所員さんたちもだいたい帰ってきたので、モロズミさんに一言断って彼女たちとレッスン場に移動した。

 簡易スタジオの方に入って、取説を確認しながらタブレットの録音機能を立ち上げる。試し録音してちゃんと録音されてるのを確認してから、マイに声を入れてもらう。彼女はしどろもどろになりながらも、何とか自分の言葉で挨拶を終えた。

 録音機能の一時停止をかけて、その上で発声練習からスタート。いくら何でも喉を暖めないうちからいきなり曲を録音するのは無理だから、発声練習から一通り歌唱練習をして、準備を整えた所で録音本番。

 もうこの時点で、レッスン開始から1時間は軽く過ぎている。


 ユウとサキのフォローもあって、マイは特に大きなミスをする事もなく今度の新曲を歌い終えた。

 でも、これ、よく考えたらマイの歌声だけ別録りしないとダメじゃね?

 再び一時停止をかける。


「マイ、ひとりで歌ってみようか」

「へっ!?で、でも、ひとりでなんて歌った事ないですよぅ……!」

「だって『マイの歌声を聞きたい』ってリクエストなんだから、お前の歌声だけのも入れておくべきだろ。何にも考えずに3人バージョン入れちゃったけど、それとは別にマイのみのも必要なはずだぜ?」

「私もそう思います♪マイさん、ファイトです♪」

「歌詞は覚えてるし曲調も身に付いてるんだから、今さら何も臆することないですよ、マイさん」

「そ、そうですね……頑張ります……」


 そうしてマイの独唱バージョンも録音し、メールに添付して、一言添えた上でソラチさんに送信する。あとは先方が上手くやってくれるだろう。

 添付サイズが相当大きくなっちゃったけど、幸いの5G環境で送信もスムーズ。快適は正義!


「じゃ、俺は事務所戻るから。あと頑張って」


 そう言い残してレッスン場を後にした。

 ええと、後何をすればいいんだっけ?






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は30日です。

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