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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【マスターの一番長い日】
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第二幕:午前中はてんてこ舞い

 ということで早くも8時半には全員が順次出発していく。普段は巡回のメンツなんかは朝のラッシュを避けて9時すぎにゆっくり出るんだけど、レイが早めに切り上げて昼前の仕事に行く関係上、彼女たちもこの時間に出発する事になった。


「今日のオペレーションは所長がやるから。ちょっといつもとは違うけど、よろしく頼んだよレイ」

「あら、所長のオペレーションは久しぶりね。了解したわ」

「おお~、セッちゃん直々に!?すっごーい!」


 いやハルお前『セッちゃん』て。

 そりゃ確かに『(くろつち)セツナ(・・・)』だけどさあ。


「……所長って、普段は一体どんな仕事してるんですかね……?」

「そりゃあお前……」


 そうサキに聞かれて答えようとして……ってそう言えば俺も知らないな。普段は所長室からほとんど出てこないし、どこかに出かけてるとかそういうのもあんま聞いたことないし。

 謎だ……。


「知らないくせに知ったかぶらないで下さい」

「…………悪かったな」


「では、私たちも行って参ります」

「ああ、うん。マイのことよろしくねユウ」

「はい、お任せください♪」

「はうぅ……。き、緊張しますぅ……」

「もう今週末がライブなんだから、いい加減覚悟決めてくれよマイ……」


 覚悟も決意もできたのに、あがり症と度胸がないのはそのままなんだから。この子にも困ったもんだ。


「マイさん、今日のインタビューはデビューライブの告知も兼ねているんですから、しっかり頑張りましょうね」

「は、はいぃ……」


…ホント大丈夫かなあ、マイってば……。


「それじゃマスター、アタシたちも出るわね。

⸺ほらアキ!シャキッとする!」

「……うっせぇなもう。寝てねえんだからがなる(・・・)んじゃねぇよ」

「寝てないのはアンタの勝手じゃないの!こっちは今から!仕事なの!」

「リン、ほんと朝っぱらから苦労かけるな……」

「……いいわよ、どうせいつものことだし。アンタも復帰早々大変だけど、しっかりやんなさい!⸺あ、でもナユタみたいに無理したらダメだからね!」

「うん、分かってる。ありがとうな。じゃあ気をつけて行っといで」


 ナユタさぁん!言われてますよ〜!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 朝から騒々しい彼女たちが出て行ったあとは、静かで落ち着いたいつもの事務所の雰囲気に戻る。気を取り直して、まずはアカウントのあるSNSをチェックして復帰報告を上げた。でもSNS関連は今日はこれだけで、あとはロクに触れないかもなあ。


 モロズミさんから聞き取った連絡先に、片っ端から電話を入れてゆく。


「あ、わたくし、芸能事務所〖MUSEUM〗所属アイドルグループ、〖Muse!〗の専属マネージャーを務めております桝田悠と申します。おかげ様で本日から業務復帰することになりまして、本日はそのご連絡とご挨拶を差し上げた次第です。⸺それと、あとですね、実は本日うちの白銀(しろがね)が病欠致しまして。ええ、偶然ですけど入れ替わりの形になってですね、それでわたくし、業務の引き継ぎが全くできていないんですよ……」


 マネージャーとして業務復帰の挨拶と、併せてナユタさんがダウンした報告をして回り、先方でも把握してる関係先に連絡を回してもらうようお願いして、併せてこちらにも一度連絡を入れてもらえるよう言伝を頼み込む。

 何しろ10日あまりも休職してたから、ほとんどのスタッフさんは顔も名前も知らない人ばかりだ。本当なら直接出向いて名刺交換ぐらいはやっとくべきなんだけど、緊急事態だしそれも無理。

 ていうか、知らん人に電話かけて礼を失しないよう話すのって久々すぎてマジで緊張するわ。ビジネスマナーとか大丈夫か俺?


 だが幸いにも皆さん好意的に対応して下さって。中にはSNSやライトサイドのライブでの大袈裟なギプス姿を見て知ってる人もいて、ビックリされるやら心配されるやら……ということもままあった。そのたびにあれは神経と肩甲骨の保護で大袈裟な見た目になっていただけで、本当はそこまで大怪我でもなかったんですよ、と何度も伝える羽目になった。


 いやまあ、肩関節を人工関節化しちゃってるから充分大怪我なんだけど。


 そうこうするうち、又聞きで話を聞いたスタッフさんや関係者さん達が連絡入れてきてくれたりもして、何とか昼前までには大半の関係先と連絡がついた。おかげで、大まかな段取りの進捗も見えてくる所までたどり着く事ができた。

 ぶっちゃけた話、もうナユタさんが全部済ましてて、あとはもうほとんど当日の機材搬入とセッティングを残すのみ、だった。なんだよ俺やることねえじゃん!


 俺がこれから何かしないといけない訳ではない、と分かったのは大いに助かった。でもまあ考えてみれば、本番1週間前にまだクリアしてない問題があったりしたら、それはそれで問題かも知れない。


 その少し前にレイから巡回を切り上げてイベント会場に向かう旨、連絡があった。併せてオルクスの討伐結果の報告も受ける。えっ所長からは全然そんな連絡来てないぞ?もしかして、慣れない業務でてんやわんやしてる俺を気遣ってくれた……のか?

 というか、ナユタさん普段は昼間のオペレーションどこでやってたんだろ?日中は事務所に無関係の外の人も来るからってんで、事務所での『figura』関連の話はNGだったよね?


 リンからも連絡があり、時間のロスを減らすためにイベント会場から直行で巡回に向かうと言ってきた。そしてそのまま夕方の収録にも向かうとのこと。そっか、そういう事も朝のミーティングで決めとかなきゃダメだったな。ちなみにハルとも渋谷駅前で合流する予定だそうだ。

 でも、そうなるとメンバーの約半分が日中帰ってこないのか。戻ってくる予定なのはサキと、マイとユウと、あとレッスンしてるミオとハクか。


 …………あ。

 これもしかして、調理師さんに昼食の人数とか事前に伝えとくべきじゃなかったのか?


 そう思って慌てて食堂に上がると、やっぱり10人分作って下さっていた。もうミオたちが入寮してることも連絡済みで、先週から10人分の胃袋を賄ってもらってるんだよね。

 平謝りして、今日は6人分しか必要なかった事を伝える。

 よくある事だと笑って下さったのがせめてもの救いだが、やっぱり普段はナユタさんがあらかじめ必要な人数を10時頃までには伝えてくれていたのだそうだ。

 ナユタさん、本当に色んな所に細かく気を配ってたんだなあ。今さらながら尊敬するわマジで。


 事務所に戻ると、ちょうどマイとユウが帰ってきたところだった。


「ふたりともお疲れ様」

「はい、ただ今戻りました」

「うん。マイ、どうだった?」

「き……緊張して、何話したのか全然憶えてないですぅ……!」

「マイさんは本当にあがり症ですね。そんなところも可愛らしいですけど」

「でもお前、もう個人ファンクラブも始動してるのに、そんな事じゃ先が思いやられるぞ」

「ひえぇ……!」


 あー、やべ。インタビューの放送の告知もやっとかないと。


「まあとりあえず、お昼食べといで。んで昼からはライブに向けてレッスンだから。よろしくな」

「はい、もちろんです♪マスターも一緒にお昼食べに行きましょう」


 時刻はちょうど12時を回ったところで、事務所の職員さんたちも昼食を取るために席を外し始めている。大半は外に食べに行く人ばかりだ。

 持ってきた弁当を広げている人もいるけど、一時的に事務所にほとんど人が残らない状態になりそうだった。


「あー、うん。俺は今日は事務所で食べようかな」

「あら、電話番しながらですか?ちゃんとお昼休みは取られた方がいいと思いますけど」

「そうなんだけど、ライブのスタッフさんとかが連絡入れてきて下さるかも知れないしな。全員とコンタクト取りたいから連絡してきて欲しい、って皆さんにお願いしてるし。

だから事務所にいたほうがいいだろうと思ってね」

「そうなんですね。分かりました」


 ふたりと一緒に食堂に上がり、手洗いとうがいを済ませてから、自分の分だけ受け取ってひとり事務所へと戻る。

 今日の昼食はゴーヤチャンプルーだった。豚肉も混ぜてあって、一緒に豚しゃぶのサラダも付けてある。これは夏バテ予防のスタミナ料理になってるんだな。


…ゴーヤ、苦手なんだよなあ。


--文句言わないで食べる!


 調理師さんに、余った分はまとめて冷蔵庫に入れといてもらうようお願いしておこう。廃棄するのはもったいないし、今夜使い回してもらうか、明日の朝食に回せばそれでいいわけで。

 今からまた食堂に上がるのは面倒なので、忘れないようにメモに残しとこう。食器返すときに置いてくればいいや。






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。

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