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第九幕:桃色の新生活(3)

「あと、バスルームに関してはありませんので、しばらくは事務所棟2階のシャワールームを使って頂きます。お部屋の準備が整えば、居室内にバストイレも含めて水回りも設置されますから。

それと寮棟2階のバスルームはfiguraの皆さん専用になるので、桝田さんは立ち入らないようお願いしますね」

「はあ、分かりました。⸺あ、バスとトイレは独立でお願いします」


 しばらくはシャワーだけかぁ。でもまあ、女の子たちと風呂を共用しろって言われるよりはマシか。


「うーん、それは……まあ一応伝えてはおきますけれど、経理部がどれだけ予算を割くかによりますね……」


 うええ、俺バストイレ一体型って嫌いなんだけどなあ。まあ贅沢言ってられんのは分かるけど。

 ⸺っと、そういや聞いておきたいことが色々あったんだっけな。


「ところで、この場って内々の話は?」

「大丈夫ですよ。普段はfiguraの皆さんしか入れないフロアですから」

「特殊自衛隊って話は聞きました。秘密部隊で、人知れずオルクスと戦っている、ってのも。

『マイ』って名前をもらったあの娘が目の前で死んだのは見ています。そしてその後霊核(コア)を埋め込まれて生き返った(・・・・・)のも。⸺もしかして他の子たちも、みんな?」

「ああ、そのあたりもうご存知なんですね……」



 ナユタさんの話を総合すると、こうだ。

 figuraたちはその全員が(・・・)霊核の適合者(・・・・・・)で、オルクスに襲われて亡くなった際に所長に『霊核(コア)』を埋め込まれ、人形(フィギュラ)として生まれ変わった少女たち、なのだそうだ。つまり、全員が『マイ』と同じだということ。逆に言えば、『マイ』もまた世界の全てに忘れ去られてしまった哀れな少女ということになる。

 人形(フィギュラ)として生まれ変わることで、彼女たちは生前の人格を保ったまま、人間だった頃と変わらない生活が出来ている、らしい。そして『霊核(コア)』とは現代の魔術師の魔術ではもはや再現できない古代の魔術的遺物、霊遺物(アーティファクト)のひとつであるという。


 『霊核(コア)』そのものに関しては解っていないことの方が多いらしい。いわゆるオーパーツってやつだ。

 解っているのは、それを埋め込まれ適合した人間はその全存在が、他人の記憶や客観的記録も含めて社会から消えてしまうこと、自己の記憶や感情の全てを失って、ただ命令を聞くだけの人形(・・)になること、仮に一般人であってもオルクスと戦える魔術師の力を得ること、そして適合するのは必ず少女(・・)であること。その程度だ。


 だがそれって、オルクスに喰われるのと何が違うというのだろうか。

 自分の記憶も感情も、生きてきた全ての記録も失い、他人の記憶も含めたこの世界全てから忘れ去られて、それでもこの世界のために戦わなくてはならないなんて、何だか悲しすぎないか、それ。

 でも、それならそれで分からないことがある。


「俺は『マイ』のことを忘れてないんですが……」


 そう。本当の名前こそ聞けずじまいだったが、彼女のことはライブ会場前で出会ってから開始まで一緒にいたこと、それからライブ後に探して見つけて、そしてオルクスに一緒に襲われたことまで全部憶えているのだ。

 『霊核(コア)』を埋め込むことによってその人の生前の記憶も記録も一切が失われるというのなら、俺の記憶からも消えて(・・・)いなくては(・・・・・)ならない(・・・・)はずなのに。


「それは恐らく、桝田さんが目の前で霊核(コア)を埋め込まれる所を直接見ていたからだと思います。ただ桝田さんの場合は、それ以上に例の感情と記憶に作用する能力のせいではないかと思われますけど」


 あー、なるほどそういうことか。


「だから、貴方は感情と記憶に関して、何らかのコントロールが出来うる唯一の人材(・・・・・)だと考えられているんです。その能力の運用次第では、figuraたちの力や可能性を大きく飛躍させることも不可能ではない、と上層部は見ています」


 ナユタさんはそこまでで言葉を切って、じっと俺の目を覗き込んできた。


「……これは個人的な忠告になりますが、どうか危機感を持って事に当たって下さいね。もしも貴方が結果を出せなければ、まず確実に消される(・・・・)事になりますから」


 真剣な表情と感情で、彼女はそう言った。


「け、消される、って……」

「これは脅しではありません。仮にも自衛隊所属である我々〖MUSEUM〗が国民の血税を使って、figuraのみならず貴方をも運用するのですから、結果が出ないと誰かが責任を取らなくてはなりません」

「……」

「しかし、魔防隊は秘密組織ですから、仮になんの成果も得られなければ全て無かったこと(・・・・・・)にされてしまう可能性が高いんです」


 ナユタさんの感情が、事実だと伝えていた。

 こういう時、感情が読める能力が恨めしくなる。


「……まあ、桝田さんが結果を出せばそれで済む話でもありますけどね♪」

「っていや、部屋の話と同じ感じで軽く言われても困るんですがね!?」

「ふふ、頑張って下さいね♪私も所長も、貴方にはとっても期待してるんですから♪」

「ううう……プレッシャー半端ねえ……」


「さて、他に聞くことが無ければ研究棟に行きましょうか」


 いやもう今の話で全部吹っ飛んだし!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 研究棟には1階と2階をぶち抜きで作られた広い戦闘シミュレーションルーム、3階に簡易的なレッスンルームと収録スタジオにトイレと更衣室、地下1階には作戦指令室と司令官室、地下2階のホスピタル、地下3階のファクトリー、とそれぞれ施設があり、一通りの説明は受けたが、たった今重すぎる話を聞かされたせいでほとんど頭に入って来なかった。

 なおどの棟にもエレベーターがあり地下へと降りられる仕組みになっているが、研究棟のものは地下操作用のテンキーが隠されていなかった。

 あと研究棟の最奥には立入厳禁と言われた大きな扉があった。なんの部屋かは教えてもらえなかったが、社員証代わりのIDカードが発行されたら俺も入れるようになるそうだ。


 自分の部屋は結局、事務所棟3階の空きスペースを寮のようにする計画があったそうで、そこに作られることになるらしい。一刻も早く作ってもらいたいものだ。







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