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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【記憶の迷宮】
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第十二幕:ウラノメトリア(1)

 昼食を終えてリビングで休憩してから、各々また収録なりレッスンなり巡回なりに出かけて行った。9人になったぶん人数に余裕ができて、主に巡回が楽になってるみたいだ。

 そのことに安堵しつつリビングでひとりのんびりゴロゴロ。なんとなくうたた寝とかしつつ、気付いたらもう夕方。



 夕食のあと、今日も全員でシミュレーションルームへ移動する。今回も所長とナユタさんにも来てもらった。

 マイのふたつめの『記憶の鍵』を処理してやらないとね。


「1日空けたとはいえ、本当に大丈夫か?くれぐれも無理はするな。鍵は既に手に入れているのだから焦ることはない。それは昨夜にも話した通りだ」

「まあ、なるべく無理はしないようにしますよ。でもマイもずっと気にしてるみたいですし、あんまりお預けにするのも少し可哀想なので」

「え、あ、えと、その。あはは……」

「中の“敵”はかなり強いですし、場合によっては撤退も考えてます。

……まあ、撤退したときに『鍵』がちゃんと残るかどうか……ってのも確かめないといけない事のひとつですけど」


 もし撤退すると鍵が消失するようなら撤退不可ということになる。消失した鍵を再び得られるかも解らない状況では、なかなか撤退は選びづらいのは確かだ。

 それに、撤退を選んだときにちゃんと精神世界から抜け出せるかどうか。そこも分からない。


 『記憶の迷宮』はまだ解らない事だらけだ。

 でも、やるしかない。


「マイちゃんの『迷宮』は常時開放されています。ですから入る分には問題ありません」

「それって、マイさんの精神世界に、いつでも入れる……ということですか?」

「はい。『記憶の鍵』をマイちゃんの『霊核(コア)』に挿し込んで回せば、いつでもダイブ出来るはずです」

「そして、新しい鍵を入手すれば問題なく退去できる。それはもう経験済みだよ」

「ただし、それまでの間はマスターも『迷宮』の持ち主も……この場合はマイちゃんですが、軽い昏睡状態に陥ります。

もちろん退去すれば意識は回復しますし、時間的にもほんのわずかの時間ですが、その間はふたりの身体の安全が確保されなければなりません」


 なので、それを考えてシミュレーションルームを選び、全員に立ち会ってもらっているというわけだ。


「というわけでナユタさん」

「はい」

「あれ、使いたいんですけど」


 そう言って俺が指差したのは、シミュレーションルームの隅に置いてあるVRゲーム筐体みたいなボックスシート。

 あれなら精神世界にダイブ中でも俺と迷宮の主(フィギュラ)の身体を安置できるし、安全性も確保できると思うんだよね。この子たちの自室でダイブするなら俺はともかくこの子たちはベッドに寝ててもらえばいいわけだし、基本的にもうダイブは彼女たちの自室かシミュレーションルームでしかやらないと決めたから、あとはシート(あれ)を使えるように調整すればいいだけだ。


「あ!なるほど、確かに使えますね!」

「だが、あれは現状全てのネットワークから切り離しているだろう?」

「はい。ですから今すぐ使うことは不可能ですが、迷宮攻略用に調整することは可能かと」


「というわけで所長、許可が欲しいです。あれならダイブ中の俺とこの子たちの身の安全も確保できますし、他の子たちが見ても何しているか一目瞭然なので」

「ふむ……そうだな。現状あれは無用の長物になっているし、有効活用できるならそれに越したことはない。⸺分かった、良いだろう」


 というわけで、ボックスシートはめでたく迷宮攻略アイテムになりました。


「私たちが、みんなで入ることは、できないのでしょうか……」

「バトルがあるんなら、オレも入ってみてえな」

「迷宮を開いたマスターと、その迷宮の持ち主であるfigura本人は必ず居なくてはなりません。ですが、その他の皆さんが入れるかは、何とも」


 多分、入れるのはマスターである俺だけだ。

 他の子たちは入れないだろう。


「最初はマイひとりだけだったんだ。“敵”の姿もあったし、精神世界にいるのはナユタさんの観測でも知らされていたから、だったら呼ぶだけで必ず誰か来ると思って、マイに『誰に助けて欲しいか、好きな子を呼んでごらん』って話しかけたんだ。

そしてこの子が“喚んだ”のはユウとリンだった」


「まあ。マイさん、私たちを呼んで下さったんですね」

「……それって、アタシとユウがいっつもシミュレーションに付き合ってあげてたから呼んでくれた、ってことよね?」

「あ、あの、私、そのあたりは記憶が曖昧で。

マスターに『助けて欲しい子を呼んで』って言われたのは憶えてるんですけど……。どうやって呼んだのかとか、何と戦ったのかとかは、私全然分かんないです……」

「まあ、あの場にいたマイ自身も精神体だったんだろうと思う。俺自身、俺がそのまま入ってたんじゃなくて『俺の精神体』だったわけだし」


 まあ、なんでか俺は鮮明に全部憶えてるんだけど、マイは一種のトリップ状態だったっぽいから、記憶が曖昧でも仕方ないというか。


「ということは、私たちがこの身でマイの精神世界に入るとかではなくて、『意識の一部だけを召喚される』ような、そういう事になるのかしら」

「ですね。呼ばれた私たちは中で起きた事を記憶してませんから」

「…………なんだ。中でバトルを楽しめる訳じゃねえのかよ」

「あー、バトルできないからってアキちゃんが興味失くしちゃってるー」

「まあそう言うなってアキ。そのうちお前の『迷宮』も開いてやるから、そうしたら存分に戦えるからさ」

「んじゃ、その時になったら呼んでくれや。今日はもういいだろ」

「っていう訳にもいかねえんだよな」


「あぁ!?なんでだよ!」

「今日ここにわざわざ全員を呼んだのは、これから起こることをきちんと見て知っておいて欲しいからなんだよ」


 現状、『記憶の迷宮』はまだ分からない事ばかりだが、それでもマスターである俺と当事者である迷宮の主ひとりだけの“閉じた世界”になる可能性が高い。もちろんナユタさんには常にモニタリングしててもらうけど、他の子たちにしてみればマスターと(・・・・・)ふたりきり(・・・・・)という状況は色々と疑念を呼ぶ事だろう。

 もちろん全員の『迷宮』をひと通り開放できてしまえば誤解は解けるだろうけど、そもそもの話、なるべく誤解されるような状況は作りたくないってのが本音だ。


「『記憶の迷宮』はおそらくだけど、マスターである俺と迷宮の主であるfiguraのふたりしか入れないと考えている。その他のみんなは、ナユタさんまで含めて見ているしか出来ないし、何かあっても救援にも入れないと思うんだ」

「んじゃあ意味ねえじゃねえか」

「だから、その意味ではみんなに立ち会ってもらう必要は特にないんだ。けど、俺と他のfiguraの子がふたりきりで何やってるか、見て知っておくのと知らないのとじゃ全然違うだろ?

だから今この場に来てもらってるのは、精神世界にダイブ中の俺と迷宮の主に、“具体的にどういう事が起こるのか”を見ておいて欲しいと思ったから。

みんなだって、自分の番の時に何が起こるのかよく分からないんじゃあ不安だろうしな」


「なので。あれから大急ぎで、コントロールデスクで精神世界の状況をモニター出来るよう改修しました!」

「えっ!?ナユタさん、マジで!?」

「はい!精神世界の観測には『ウラノメトリア』という特殊な観測装置を用いていますが、それとこちらのコントロールデスクをリンクさせて、こちらでもモニタリング出来るようにプログラムを改変しました!」

「いや、絶対簡単じゃないでしょそれ……」


 ウラノメトリアとかって初耳。なんだそれ!?


--ていうかあれからまだ24時間ぐらいしか経ってないんですけど!?


「ふふ。頑張りました!」

「だーから頑張っちゃダメだってば!」

「……無駄だ、諦めろ。こういう時のナユタは誰にも止められんよ」

「そこで諦めたらまた倒れるでしょーが!」

「大丈夫ですよ♪明日はお休み貰いましたから」


 あーあーあーもう。

 ナユタさんたら、やり切った顔しちゃって。


「…………じゃあ、明日は本当にしっかり休んで下さいよ?」

「はい、ありがとうございます♪」






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は5日です。

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