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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【記憶の迷宮】
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第十幕:狐色の焼きそば(1)

 キッチンを出て、事務所に降りてみる。


「あ、桝田さんおはようございます。気分はいかがですか?」


 ナユタさんが俺の姿を目ざとく見つけて声をかけてくれる。まあ事務所の扉って強化ガラス張りだから、ドア開ける前から見えちゃってただろうしバレるのも当然か。

 彼女は見たことのない、知らない人たちと一緒にいて、ちょうどこれから奥の打ち合わせスペースに入るところのようだった。何か外の人たちと仕事の打ち合わせでもするんだろうか。


「おはようございます。……俺、顔出しちゃ邪魔ですかね?」

「邪魔とまでは言いませんけど、まだ休まれてしっかり体調を整えられた方がいいんじゃありませんか?」


 多分、まだ半分寝ぼけた顔をしていたんだろう。ちょっと気遣われる。


「んまあ、もうぼちぼちホスピタルに行く時間ですかねえ。⸺ところで、あの人たちは?」

「今度のライトサイドのライブの、演出さんや音響さんなどの裏方さん達ですよ。打ち合わせに来てもらっています」


…あ。僕がプロデュースしなきゃいけなかったんだっけ。


「桝田さんは怪我しちゃいましたから、仕方ないですよ。今回までは私がやりますから、ゆっくり療養してて下さいね」

「すいませんホント。俺の仕事だったのに」

「気にしなくていいですよ、何も心配ありませんから。

じゃ、これから会議なので」


 そう言ってナユタさんは軽く頭を下げると、裏方さん達と打ち合わせスペースに入っていった。

 じゃあ、俺もホスピタル行くかな。



 ホスピタルでは例によってリハビリと薬の取り替え。昨日は入らなかったけど、もう自分で風呂入ってもいいと言われてるからホムンクルス看護師たちの体拭きはなし。あれはあれで楽だったんだけどな。

 ていうか薬、まだ必要ですかね?来週から職務復帰なんですが。


「薬といっても膏薬を塗っているパッドを患部に当てている程度ですが、消炎鎮痛作用があるので、今止めるとまだ痛みが出るかも知れません」

「ササクラ先生の見立てではまだ必要だと?」

「桝田さんが不要だと仰るなら無くしてもいいかも知れませんが、テーピングはまだもう少し必要だと思いますね」

「テーピング、もう少し軽くできたりしないですかね?」

「来週から職務復帰の予定ですよね。ですが出来れば来週一杯、少なくとも金曜日あたりまでは、膏薬も含めて現状維持が無難かと」

「んー、でもそうすると、来週は多分毎日は通えないんですよねえ」

「まあそこは、午後でもいいですし。私が居ない時でも構いませんしね」

「はあ、なるほど。まあ分かりました」


 んじゃ、来週は仕事の合間か夕方以降に行くしかないかな。風呂は……まあ最悪、身体拭くだけで済ますしかないか。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 ホスピタルを出て、寮棟のリビングに戻るとまだ11時過ぎだった。

 今日は土曜だし、そろそろ今日の当番の子が昼食の準備を始めてても良さそうな時間なんだけど、特になんの物音も聞こえてこない。キッチンを覗くと、案の定誰もいなかった。ちょっとナユタさんに聞いてみよう。

 新型タブレットの通信機能を立ち上げて、ナユタさんに繋ぐ。


「ナユタさん、桝田ですけど、今いいですか?」

『あっ、桝田さん。大丈夫ですよ、どうしましたか?』

「今日の昼食って誰が当番なんですか?」

『今日の当番はマイちゃんなんですが、午前中のレフトサイドの収録がちょっと押しちゃったんです。先ほど終わってこちらに戻ってきてる途中なんですけど、今日のお昼は出前で済まそうかと思います』

「あー、了解です」


 あらら。

 んーじゃあ、どうしようかな。

 ていうか、もうマイもちゃんと芸能活動始めてるんだな。


 ちょっと思い立ってチャンバーを覗いて食材を確認すると、肝心の食材(もの)がない。

 調味料は部屋にあったな。

 じゃあ、バタバタ(急いで)買ってくるか。


 一旦部屋に戻って服装を整えて、必要な物を取り出してきてキッチンに置いておく。それから事務所に降りて、ナユタさんに声をかけた。


「すいません、ちょっと俺、買い出しに行ってきますんで。昼の出前は取らなくて大丈夫です」

「えっ桝田さん?お出かけですか?」

「まあ簡単なものなら準備出来ますんでね。レシート持ってくれば経費で落ちますかね?」

「えっと、はい、一応は」

「じゃ、行ってきます」

「…………はあ。行ってらっしゃい……?」


 ポカンとしてるナユタさんを残して、近所のスーパーへ。手早く必要な材料を見繕ってカートに入れて、レジで支払いを済ます。

 急ぎ足でパレスに帰ってきたらもう11時半を過ぎていた。ちょっと急がないと。


 事務所でナユタさんにレシートを渡して経費申請して、マイたちが帰ってきたと言われてキッチンへ上がると、マイがもうエプロンを結びながら早速昼食の準備を始めるところだった。


「あっ、マスター!お帰りなさい!」

「みんなお帰り。そしてただいま」

「あら、お買い物に行ってらしたんですね。何を買われてきたんですか?」

「マスター!お日様浴びてきたの?うんうん、良いことだねえ」


 いや違うからなハル?ていうか朝方は雨降ってたし、今も曇ってっからな?


「マイ、今日は何作る予定?」

「えっ?えと、その、それも今から考えるところで……」

「私たち、たった今帰ってきたばかりなので。お昼はちょっと遅れてしまうかも……」

「んじゃ、マイにも手伝ってもらおうかな。お昼までにはなるべく間に合わせた方がいいだろ?」

「えっ?マスター、何を……」


 答える代わりに、買い物袋の中身を彼女に見せてやった。


「わあ☆いいですねえ!」

「ということでマイ。炒め鍋の準備!」

「はいっ!」

「マスター、もしかしてお昼の準備を手伝って下さるのですか?」

「手伝う、っていうか、俺が作ろうかと思ってさ」

「えっ?もしかして、マスターが今日のお昼ごはん作るの?」


 だからそう言ってるだろハル。






本編では明言してないのに、タイトルでネタバレしてた(爆)。



次回更新は25日です。

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