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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【記憶の迷宮】
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第七幕:乳白色のギプス(2)

 ホスピタルで例によってリハビリして、ホムンクルス看護師たちに身体を拭いてもらう。何回も拭いてもらってると何故か慣れてきちゃって、なんかもう全然恥ずかしくないな。

 その後はいつも通り、筋肉の動きを見つつ肩関節を中心にひと通りリハビリして、ササクラ先生に診てもらって。


「そう言えば、昨日は外出したそうですね」


 不意に、先生にそう言われた。


「こちらで外出を許可した記録はないんですが」

「……あ、ええと。許可、頂いた方が良かったですかね?すみません」

「まあ外出そのものはさほど問題ないとは思いますが。一応、肩の抜糸もまだですのでね。

それに、帰ってきてから倒れたと聞いていますが?」


 誰だよチクった奴は。


…って、所長さんしかいないよね。


「え……えーと、まあ、はい。

ちょっと精神的に無茶し過ぎたというか……」


「精神的に無茶、ですか。あまり褒められたことではありませんね」


 ササクラ先生の声が若干低くなる。

 やっべ、これお説教モードっぽい。


「転倒の際に患部に新たに外傷を負うのはよくある話なんですから、気を付けて頂かないと」

「はい……すいません……」

「そもそも精神的な負荷というのも、治りかけている神経や血管などに余計な負担をかけますからね。そのところよく自覚して自重して下さい。でないと治りは遅くなる一方ですからね?」

「気を付けます……申し訳ないです……」


 自分が悪いと分かり切ってるだけに、なんも言い返せねえ。くぅ。


「で、患部の状態を見る限りでは肩の移植部の癒着も進んでいますし、今日抜糸してしまいましょう」

「えっ、いいんですか?」

「元々、1週間程度で抜糸の予定でしたからね。それと、司令の指示で抜糸と同時にギプスも取り外す事になっていますので」


「…………へ?」

「正直言えばもう少し装着の必要があるとは思いますが、レントゲンを確認しても骨には特に異状はありませんし、リハビリを進めるためにもギプスはない方がいいですし。

今後は肩の患部には保護パッドを取り付けて、それを含めてテーピングで固める事で処置をしましょう。その代わり、くれぐれもぶつけたり衝撃を与えないよう注意して下さい」


 マジか。

 やっとこの、煩わしい乳白色のギプスから解放されるんだ。

 それは助かる……!



 ということで早速処置をしてもらった。

 麻酔もなしに病室内で清浄エリアの確保もせずに行われる抜糸は何回やっても慣れないものだけど、毎回痛みもなく短時間で終わってるので、これが標準なんだろう。

 いや毎回っていうか、過去に2度ほど縫合と抜糸の必要な手術をしたことがある、というだけの話だけどね。今回が3度目になる。


 肩のパッドはアメフトのプロテクターみたいなのを想像していたが、要するに分厚いガーゼだった。それを2枚重ねて患部に置いて、それを固定するようにホムンクルス看護師が器用にテーピングしていく。肩関節周りと鎖骨、上腕部も固めるが、テーピングなので動きを阻害する事はない。

 いや、ちょっと突っ張る感じがするな。慣れるまでは違和感に苦しみそうな感じ。


「テーピングに関しては、普通ならどなたかに付き添いに来てもらって覚えてもらうんですが、今回桝田さんに施すものはやり方が特殊なので、引き続き毎日ここに通って頂いて、こちらで処置させてもらいます」

「はあ。それはいいんですが、これ、風呂は大丈夫なんですかね?」

「あまりよくはありませんね。ですので、入浴の際はこちらに来る直前に外して入浴して頂いて、その後すぐに降りてくるようにして下さい」

「あ、そういう事ですか」

「はい。一応、付けたままでも入浴出来ないことはありませんが、パッドに水分を吸わせて長時間放置すると患部に良くありませんのでね。テーピングだけなら問題ないのですが」

「……付けたままの入浴は止めておきます」


「では本日の処置は以上です。お疲れ様でした」

「はい、ありがとうございました」




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 寮棟のリビングに戻ると、リンがソファに寝転んでポテチを食べながらTVを見ていた。


…リンさん?太るからって普段は我慢してるんじゃあなかったっけ?


「あ、お帰りマスター。

い、いやこれは、その。

た、たまになら良いかな、っていうか……」

「はいはい。半分食べてるからもう終わりね。残りは俺食べてやるから」

「えっ、そ、そんな……!」


 と言いかけて、固まる彼女。

 そりゃまあ、右手で取り上げたら気付くよな。


「あ、アンタ、ギプスは~~~!?」

「うん、めでたく取れました!」


 その代わりテーピングでガチガチ、というのを作務衣をはだけさせて見せる。それで納得はしてもらったんだが。

 いちいち恥ずかしがるの止めような、リン。そんなんじゃ夏に海とかプールとか行けんだろ。


「い、いやだって、海とかプールとかはみんなそういう格好だから!でも部屋で脱ぐのは、その、なんていうか……」


 はいはい。分かったからモジモジしないの。

 ていうかその理屈だと水着グラビアの仕事とか入れられないじゃんか。


「まあいいけど。みんなはまだ?」

「そろそろ帰ってくるとは思うけど。レイやミオたちはレッスンだし、ユウたちは巡回だからね」


 時計を見ると、夕方の5時を回った所だった。

 確かに、みんなそろそろ帰ってくる頃だろう。


「サキは?」

「多分部屋に戻ってると思うわ」


 そうこうしてると、レイたちがレッスンから戻ってきた。


「おっ。みんなお疲れ様」

「あらマスター。良かった、無事に目覚めたのね。元気そうで何よりだわ」

「良かった、です」

「……マスター。ギプスはどうされたのです?」


 ミオが怪訝そうに聞いてきたので、目覚めてからの話やホスピタルでギプスを外してもらったことなど、かいつまんで話す。心配かけて申し訳ないとも伝える。

 3人とも安堵してくれたようで、何より。


「ただ今戻りました」


 次いでユウたちも戻ってきた。


「おー、お帰り」


「……!マスター!」


 あっハルより先にマイが駆け寄ってきた。


「良かったぁ、大丈夫だったんですね!私、わたし……心配で心配で……!」


 マイは特に責任を感じていたんだろう。言葉を詰まらせたあと泣き出してしまった。

 大丈夫だからね、マイ。心配ないから、泣かなくていいからね。


「あらあら。マイさんたらやっぱり泣いてしまいましたね」

「マスター、マイちゃん泣かせるなんて絶対ダメだよ〜!もうホント、倒れるまで頑張ったりしたらみんな心配するんだからね?ちゃんと反省しなさい!」


「えっ?……は、はい……」


 うわなんかハルに怒られたし!?

 てかこの子にこんな真っ当に怒られると、なんかそれはそれでむず痒いな!?






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は10日です。

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