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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【記憶の迷宮】
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第三幕:あの日、あの時、あの場所へ

 ファクトリーを出て、その足でホスピタルへ。ホスピタルでも一応聞いてみたけど、ギプスの上から着用できる外出用の上着など用意してないということだった。まあ当然か。

 仕方ないのでそのままリビングに戻って、マイを連れて事務所に顔を出す。


「外出は構いませんけど……桝田さん、その格好で出かけるんですか……?」

「や、やっぱり……ダメ、ですよね……あはは」


 マイがちょっと困ったように苦笑いしている。やっぱりってお前、俺が出歩ける格好じゃないって思ってたって事か?

 でもまあ正直、見た目からして病衣だか浴衣だかよく分からん格好してるしな俺。ズボンはスウェットだし。肌着も着てないし、とてもじゃないけど外出する格好とは言えねえか。

 出てからどこかで調達しようか程度に考えてはいたんだけど、ちょっと甘かったかな?


「前々から思ってましたけど、桝田さんはもう少し服装に気を使ってもいいと思うんです。せっかく背丈もあって見た目もシュッとしてるんですから、ちょっとオシャレすれば全然格好良くなると思いますよ?」

「いやー、どうですかね?」


--ホラ言われた。だから前々から言ってんじゃん。

どうですかね?じゃないっつうの。


「そうですよぉ!マスター、カッコいいですもんね!」

「いや別にカッコよくはねえだろ」

「せっかく外出するのでしたら、一緒に桝田さんの服も買ってきたらいかがですか?」

「あっ、いいですねえ♪」


 いや俺の好みの服とか買ってたら、手持ちの全財産とか一瞬で溶けるし。


…それは兄さんが年代物のヴィンテージジーンズとか買うからでしょ?


 そりゃ趣味だからな。普段着なんざ着れりゃいいんだよ。


「そうと決まれば!行きましょう、マスター!」

「えっ?いやまだ買うと決めた訳じゃ……」

「いいからいいから♪行きましょー!」


 わかった、分かったから!

 背中押すなってマイ!



 早速新型タブレットで検索して、いくつかめぼしいショップをピックアップする。ナユタさんが横でひたすら羨ましがってるが、もう認証の件とか説明済みなのでいちいち反応はしない。

 うーん、やっぱりギプスの上から着られるような服ってなかなかない。いっそ和服にするかと考えて呉服の置いてある店も検索したけど、ただの(かすり)でもなかなかいいお値段するのね。


 ああ、作務衣(さむえ)なら手頃な値段であるな。じゃあそれにするか。



 マイと一緒にパレスを出て、まずはネット情報で見た某有名格安衣料チェーン店へ。

 へー、今はこういう店でも作務衣とか売ってるのな。しかもなかなか手頃な値段で、ちょっといい感じ。


 ということで着替えを含めて色違いを3着購入。うち1着を早速更衣室で着せてもらった。ついでに脇の広いランニングの肌着も何枚か購入した。

 こういうの持ってなかったから、ギプスの上から肌着着られなかったんだよね。ただ、このままではやっぱり着づらいから、右肩部分を切ってスナップボタンを付けることにしようかな。

 と思ってお店でやってくれないか聞いてみたけど無理って言われた。まあ普通は裾上げとかしかやってくれないもんね。知ってた。


「な、なかなか似合ってますよ」


 いやマイ、愛想笑いがすごいぞ?どうせ、思ってたのと違うとか思ってるんだろ?

 言っとくけど、ギプス取れるまでは普通の服とか着るの無理だからね?


「それじゃ、マイの買い物の方に行こうか」


 買い物袋を手に、店を出ながらマイに言う。そういや君何も服買わなかったよね?


「あっはい!そうですね!」

「で、どこ行くの?」

「ええと、ユウさんから頼まれた小説を本屋さんで買って、リンさんから頼まれたお手紙をポストに投函して、あとレイさんの出してるクリーニングを受け取って、それから……」


「待って?マイ自身の買い物とか用事は?」

「えっ?えと、特には……」


 ないんかいっ!

 それ、単にパシられてないかお前?

 ていうか、半分以上俺と出かける口実だよな?


「え、えへへ……」

「笑って誤魔化すんじゃないよ全く」


 よし、分かった。

 それなら俺に考えがある。


「じゃあさ。その用事全部済ませたらもう一件付き合ってくんないか?」

「えっ?いいですけど……」




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 ひとまず先に、マイが請け負った頼まれごとを全部片付ける。そうすると荷物を持っての移動にはなるけど、頼まれた事はちゃんと終わらせないとね。

 途中で昼も外で食べて、ついでにちょっと買い物もして、用事を全部終わらせてから駅へ移動して電車に乗る。しばらくふたりで昼下がりの電車に揺られ、目的の駅で降りる。

 マイは今日1日オフだそうで、なんかデートみたくなっちゃったな。


 駅を出てしばらく歩くと、俺の目的地が見えてきた。


「私、このあたり初めて来ました」


 いいや、マイは来た事あるよ。


 目的の建物を素通りしてさらに歩くと、とあるビルの1階にテナントとして入っているカフェが見えてきた。先月からMuse!のコラボカフェをやっている店だ。


「わあ☆こんなのあるんですね!」


 この店は君が教えてくれたんだよ。

 まあ憶えてないだろうけど。


 まだ明るいので、ふたりで店内に入った。もう少し時間を潰さないと。

 ここはマイの加入前、つまりMuse!の1周年記念に合わせてコラボしている期間限定のカフェなので、残念ながら彼女の紹介はない。あらかじめ説明はしておいたが、やはりマイはどこか寂しそう。

 それでも、レイやユウ、リンなどメンバーをイメージしたドリンクや料理を、目をキラキラさせて悩みながら彼女は選んでいた。


 ふたりで選んだメニューを注文して食べ、ドリンクを飲んで。


「これ、美味しいですね!」


 うん、どれも結構美味いな。


 しばらく、彼女ととりとめもない話をして時間を潰した。figuraになってからの話、生放送の出演の話、ユウやリンたちの話。なるべくアイドルとしての話だけを選んで、マイ自身の夢や目標、とにかく気持ちを前向きにさせる話題を選んで、たくさん話した。

 途中、マイだと気付いたファンに声をかけられるシーンもあった。ファンに認知されつつある事を、彼女自身も驚くやら嬉しいやらで、ちょっと複雑な表情を見せる。


 ぼちぼちいい時間になってきたので、支払いして店を出た。

 彼女はカフェを堪能したようで、また一緒に来たいと言ってくれた。でも、この店のコラボはマイのデビューライブまで、つまり1周年記念ライブから1ヶ月で終わっちゃうんだよね。






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は20日です。

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