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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【閑話集1】
73/185

〖閑話3〗第二幕:新たな仲間(2)

 聞けばナユタさんは、figuraがふたつのグループに分かれていることに前々から異議があったのだという。


「所長……司令の肝入りで〖MUSEUM〗は設立されました。それは“感情(アフェクトス)”を魔力(マナ)に代えてオルクスと戦うfiguraの皆さんに安定してアフェクトスを供給して、その戦闘能力を高めるのが目的でした。けれど、上層部には『使い捨て(・・・・)兵器(・・)のメンテナンスなど不要』とする意見もあって……」



 3年前、2020年の6月に突如として現れ、人の記憶や感情を貪り食うようになったオルクスたち。それとほぼ同時に『霊核(コア)』が発見され、そしてひとりの少女がそれに適合した。

 それがオルクスに喰い殺された少女、現在のハクだ。


 ハクは超常の力、『霊核(コア)』によって発現した強大な力でオルクスたちを屠って回ったという。感情もなく、人だった頃の記憶も失い、自分が何者かも分からないまま彼女は独り戦い続けて、その結果“感情”を枯渇させ、戦いの日々の中で倒れたんだそうだ。

 ハクが倒れたのはfiguraになってからおよそ半年後の年末のことで、その頃には“マザー”による各種解析によって『霊核(コア)』が人の感情(アフェクトス)をエネルギーとして取り込み、その力を得て戦っているものと判明していた。そこで上層部⸺防衛省や内閣⸺はハクに続く『霊核(コア)』に適合する少女を探した。そうして新たにfiguraとなったのが、ユウだった。

 その後、さらなる適合者を探した結果リンが適合し、次いでレイが適合して、オルクスたちの出すアフェクトスを効率的に収集するための魔術による術式“舞台(スケーナ)”も組み上げられた。アフェクトスを得る手段を確保したことでハクも目覚め、さらにソラとミオが相次いでfiguraとなった。


 だが、そこで待ったがかかったのだ。

 figuraたちは世間に秘された存在であるオルクスという脅威に対する切り札である以上、やはり存在が伏せられている魔防隊の管轄となっていて、彼女たちの戦果は当然、魔防隊司令である(くろつち)刹那(セツナ)の功績となっていた。それをよく思っていなかったグループが防衛大臣と結びつき、figuraを魔防隊から切り離しにかかったのだという。

 それが芸能事務所〖MUSEUM〗だ。アフェクトスを効率的に収集するためにアイドル活動をやらせるという案自体は涅司令の発案で、実際に視察した当時のトップアイドルのライブで膨大なアフェクトスが検出されたことで、その計画が実行に移された。そしてそれを直接指揮するために、涅司令が自ら所長として〖MUSEUM〗に出向することとなった。

 要するに、防衛大臣とその一派はfiguraだけでなく涅司令をも切り離したわけだ。


 だがfiguraが魔防隊から離れるということは、魔防隊の上位組織である防衛省の所管からも外れるということ。そのため6人全員を完全に切り離すのではなく、一部を残して貴重な(・・・)戦力(・・)として運用すべしという意見が出され、それで6人のfiguraたちは3人ずつに分断された。

 〖MUSEUM〗に出向が決まったのはユウ、リン、レイの3名。彼女たちはアフェクトス収集の実験(・・)としてアイドル活動を始め、そして実際に結果を出した。彼女たちがアフェクトス収集だけでなく、それを用いたオルクスとの戦闘でも結果を出したことで計画発案者である涅所長の功績が上積みされ、彼は〖MUSEUM〗出向のまま魔防隊司令の地位に復位した。その後に新たにfiguraとなったハルとアキ、そしてサキも当然のように〖MUSEUM〗の所属とされた。

 一方で魔防隊の本隊に残った形のハク、ソラ、ミオはアフェクトス収集手段もないまま戦わされ、見かねた涅司令が“舞台(スケーナ)”の術式提供をしたことで継続活動こそ可能になったものの、戦闘衣装(ドレス)や武器の新規開発もほとんどないまま戦わされ続けた……。


 ソラが消失(ロスト)したのは、特別作戦でfigura全機(・・)が合同してオルクス討伐に当たっていた時のこと、らしい。詳しい経緯は分かっていないそうだが、全員が戦闘不能になるほどの厳しい戦いだったようで、ソラが敵オルクス個体と相討ちになる形で、単独でこれを討伐成功させたのだという。

 なぜ詳しいことが分かっていないかというと、当時の彼女たちには現地で指揮を取る“戦闘司令官(マスター)”がいなかったからだ。それ以降、誰か適任者をマスターとして選任し、現場指揮を執らせる構想が立ち上がったのだとか。そして選ばれたのが俺、というわけか。

 ソラを失い、ふたりだけになってしまったハクとミオを、涅司令は〖MUSEUM〗へ合流させようと魔防隊、特殊自衛隊本部や防衛大臣に打診したという。だがそれは、当のミオが拒否したことで頓挫した。彼女は〖MUSEUM〗を、特にそこに移籍していったユウたち3人を「許さない」と発言したそうだ。


 それ以降、本隊所属のふたりと〖MUSEUM〗所属のみんなが合同作戦を組むこともなく、ほとんど没交渉になっていたのだという。当然、魔防隊の中でも防衛大臣に近い一派の管理下に置かれたミオたちが涅司令の率いる〖MUSEUM〗を、その中にあるホスピタルを訪れる事などこれまで一度もなかったのだ。



「…………そういう意味では、君たちには済まないことをしたと思っている。我々大人の都合で、君らを分断し振り回す形になったこと、改めて詫びたい」


 所長は所長で、彼女たちがそうした確執を抱えていたことに当初は気付いていなかったらしい。ミオが〖MUSEUM〗への合流を拒否したことでそれに気づいたものの、彼女たちはすでに防衛大臣に近い一派の管理下に置かれていて手出しができなかったという。

 なおハクは、復活後も感情の戻りが悪く、そのためずっと行動を共にしているミオに従う意志を見せているだけだという。


「ま、行き違いや蟠りはみんなで話し合って、少しずつ解いていけばいいんですよ。これからは全員が〖MUSEUM〗の、〖Muse!〗の仲間として、再びひとつになるわけですからね」


 なんか重苦しい雰囲気になったのをなんとか締めようとしてそう発言したら、ミオがこっちに顔を向けてきた。


「そんな事より、貴方です。マスター」

「……へ?」


 思いのほか真剣な目でミオに見つめられて、思わず変な声が出た。


「ただの人間でありながら“感情(アフェクトス)”を自在に操るその特異性、さらに私たちの失った記憶にまで干渉できるかも知れないと聞きました」


 えっ誰からそんな事……あっナユタさ⸺顔逸らしたなぁ!?


「貴方は私たちのことを『兵器ではなく兵士だ』と仰った。人形ではなく人間なのだと。⸺私たちをその気(・・・)にさせた責任、きっちり取ってもらいますからね」

「ファッ!?」


 せせせ責任て!?


「あー、うん。それはアタシも賛成」

「リン!?」

「そうね。マスターには最後まで(・・・・)付き合って(・・・・・)もらわなくてはね」

「れっレイ!?」

「⸺ふふ。マスター、もう逃げられませんよ?」

「いやいや待ってユウ!?」


「……いやあ、1年以上も分断されていたfiguraたちが桝田くんのおかげで再びひとつにまとまるとはねえ。素晴らしいよ、美談だねえ」

「しょ、所長!?」

「これも桝田さんの人徳のおかげですね!さすがです!」

「えっちょっナユタさん!?」


「おお〜、マスター人気者だねえ」

「ケッ。まあ認めてやらんでもねえけどよ」

「まあ、そうですね。そういう事なら私も考えなくもありません」

「ふふっ!やっぱり私たちのマスターはすごいです!」


 いやいや年少組まで納得すんな!?


「マスター。……よろしく、です」


 最後にハクにまでペコリとお辞儀されて、無事に押し切られた模様です。ちーん。

 いやー、俺ひとりでホントに君たち全員の面倒見きれるのかなあ……?






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日クリスマスです。


まあ作中ではまだ7月ですけどね!(笑)

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