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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【閑話集1】
69/185

〖閑話2〗第一幕:ネットの向こうの反応

 水曜日、12日。


 昨夜はあのあとすぐ自室に引っ込んで寝てしまったせいもあり、早朝6時前に目を覚ましてしまった。


 そうだ、正面玄関開けないと。施錠管理も俺の仕事だったよな。

 そう思って痛む肩を庇いつつエレベーターで事務所に降りて、キーボックスを開ける。鍵を取り出して、玄関のロックを解除……


「あ、おはようございます。早起きですね⸺って桝田さん!?起きてて大丈夫なんですか!?」


 出勤してきたナユタさんが開錠して入ってきた所だった。

 いや、もう出社してきたんですか?ちょっと早すぎない?


「あー、いや、まあ。確かにちょっと痛みますね」


 痛む……っていうか、ギプスで固められたままだから動きにくいのなんのって。


「もう!桝田さんはまだ療養中で休職中の扱いなんですから、通常業務もやらなくていいんですよ!」

「あー、そっか、そう言われれば」


 施錠管理も業務の扱いになんのか。そりゃ確かにそうだよな。


「私も所長も解除キーを持ってますし、他の業務もそれぞれ肩代わりできる者がいますから、桝田さんは安心して、ゆっくり休んでていいんですよ」

「……分かりました。ありがとうございます」


 でも、それはそれでなんか落ち着かないんだよな。


「ところで、今日はちょっと早くないですか?」

「えっ?……あー、はい、ちょっと早出で」

「……この時間に来るって、何かあったんですか?」

「いえ、特に何もありませんよ。桝田さんとお約束した通り、なるべく持ち帰り仕事をしないようにしているので、それで、ちょっと」


 いや、それじゃ意味ねえし!


「えっと、じゃあ、所長に早出残業付けてもらうよう言っときます」

「……あのですね、私、国家公務員なので。その、固定給でですね……」

「いや固定給でも残業代ぐらい出ますよね?」

「そ、その、本隊からは残業を減らすよう言われてるので……」

「じゃあなおさら早出とかしたらダメじゃん!」


 ついツッコんでしまったが、彼女はちょっと困ったように微笑むだけだった。


「……ありがとうございます、桝田さん。いつも心配して下さるの、とても嬉しいです」

「でも全然聞いてくれないもんなあ」

「い、いえ、その……。聞きたいのは山々なんですけど……」


 ナユタさんは困惑の感情をこぼしつつ俯いてしまう。同時にちょっとの嬉しさと、照れと。

 って、なぜ照れる?


「まあ、ナユタさんいじめても仕方ないんですけどね。こっちは休職中で迷惑かけてる身でもあるし」

「それはまあ仕方ないことなので。でもそのうち、私も桝田さんに甘える形で休ませてもらうこともあるかと思いますし」

「そんなの、いつの話になるかサッパリ分かりませんけどね」


 そもそも業務にもロクに慣れてないうちから負傷休職だしなあ。


「でもまあ、もしそういう事があれば、その時は思いきり甘えちゃって下さい」

「ふふ。そうですね。よろしくお願いします」


 あれ。なんか、ちょっといい雰囲気?彼女の感情もだいぶ穏やかになって、喜びが増えてるし。


「と、ところで、すっかり忘れてましたけど、シミュレーターの調整って終わってるんですかね?」


 なんか気まずいので話題を変えよう。

 昨夜思い出したのでシミュレーターのことを聞いてみる。


「あ、はい。それはもう終わりました。

⸺桝田さんが負傷した次の日ですよ、調整が終わったのは」


 あー、土曜日か。

 午前中みんなが代わる代わる見舞いにきて賑やかだった日。ユウが1日中スキル治療で面会謝絶だった日だ。

 てことはあのトドロキ氏ももう本隊に戻ってしまってる、ってことだな。


「じゃあもう、みんなシミュレーターやってくれてるんですかね?」

「はい。月曜に紫怨(パープル)、火曜が怒赤(マゼンタ)、水曜に哀青(シアン)、木曜は楽緑(グリーン)、金曜が喜黄(イエロー)というのを基本に、土曜日は紫怨(パープル)以外の四色、日曜日は元のまま全色という形で調整しました。

皆さん、シミュレーターを回せば回すほど自分たちの能力強化に繋がると信じて、たくさん使ってくれてますよ」


 そっか。じゃあ俺もアフェクトスの注入を頑張らないとな。


「でも、注入は桝田さんが万全になるまでは禁止ですからね」

「なっ、何故バレたし!?」

「顔を見てたら桝田さんが何を考えてるかぐらいは分かります。最近、毎日のように一緒にいるんですからね」


「でも、休みもらってる今のうちにやるべきだとも思うんですけどね」

「そうかも知れませんけど、でも、昨日もあれだけダメージを受けたわけですし……」


…あー、あれはねえ。ぶっちゃけ死ぬかと思ったけども。


「…………お、思い出した……」

「あっ、ご、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃなくて……!」

「いえ、いいんですけどね……」


 それにまあ、ユウのほうは、ね。

 レイも良かれと思ってしたことだし。

 ふたりとも、あんまり責められないよな。


 まあいいや、とりあえず言っても始まらんし。


「ところで、今日の予定ってどうなってます?」

「それなんですけど、実は所長に『桝田君には教えなくていい』って言われてまして」

「え、なんで?」

「桝田さんのことだから、スケジュールを教えたら絶対に世話を焼こうとするからダメだ、って」


--所長さんにまでバレてるし。


「そういや、確かに怪我して以降は俺の前で仕事の話はほとんどしてませんね、みんな」

「心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと上手くやってますし、皆さんも心配かけないようにって頑張ってますから」

「あー……」


…気を使わせてるのはなんか気が引けるなあ。まあでも、そこまでされてるんならちゃんと休まないとダメかあ。


 いや、逆に落ち着かんけどな!


「……歳下の彼女たちに気を使われるようじゃダメですね。こりゃ本格的に大人しくするしかないかぁ」

「はい、大人しくしてて下さいね」


 困ったように苦笑するナユタさんの声を聞きながら、なんとなく自分のデスクに座り、SNSの公式アカウントを開いてみる。

 うわめちゃめちゃ通知来てるし。


「いや……最後の投稿、なんで俺の退院の話なんですか?」

「えっ?だって、ファンの皆さんもものすごく心配されてて、安否や容態を教えて欲しいってリプライが殺到してたんですよ?ライトサイドのミニライブMCの直後だって、『マスター』ってトレンド入りしてたほどですし」

「…………マジで!?」

「はい♪」


 いや初耳ですけど!?

 ってかなんでナユタさん嬉しそうなの!?


 ちょっと動揺しつつ通知を開いて、寄せられたコメントを読んでみる。

“従者さん退院おめでとうございます!”

“副隊長の退院、めでたい!”

“執事どののご快癒のお慶びを申し上げる!”


 いや、治ってねえし。


“副総統の職務復帰をお待ちしております!”

助っ人(・・・)がいないとマイちゃんが困りますから、早く治ってもらわないと”

親友(マブダチ)、早く良くなって下さい!”

“サブマスはもっとダラダラ入院しとくべきでは?”


 いや待て、なんか謎の単語が並んでるんだが?


 公式HPを開いて、みんなのファンクラブ名称を改めて確認してみた。

ユウが『全日本自ユウ連合』。

リンが『リンリンと愉快な仲間たち』。

レイが『レイ親衛騎士団』。

ハルが『地球防衛隊』。

アキが『ギルドマスターアキの部屋』

サキが『サキ姫と下僕たち』。

そしてマイが『マイちゃんとお掃除し隊』。


ユウが総統、俺が副総統でファンは“党員”。

リンがリンリン、ファンが“リン友”で俺は“親友(マブダチ)”。

レイが“レイお嬢様”で俺が“従者”、ファンは“騎士団員”。

ハルが隊長、俺が副隊長でファンは“隊員”。

アキがギルドマスター、俺がサブマスでファンはギルメン。

サキが“サキ姫”で俺が“執事”、ファンは“下僕”。

そしてマイが“マイちゃん”、ファンが“お掃除し隊”で俺が助っ人お兄さん……っていやマイのだけ普通だな!?


 お。サキが公式アカウントにコメント寄せてる。

 なになに?「中途半端な状態で復帰されても迷惑なので、しっかり治すように」ってか。

 よし、あとでこれイジってやろうっと。


 ていうか、マイ以外は全員個別にアカウント持ってるのか。これ、マイにもアカウント作らせるべきかな?


「マイちゃんには、デビューライブが終わってからアカウントを開設してもらう予定ですね」

「なるほど、まずはデビューライブに集中させてしっかりやり遂げさせてから、ってわけですか」

「はい、そうです。

⸺で、桝田さんにはギプスが取れて正式に復職したら、公式HPのブログも担当してもらう事になってますので」

「へ!?」


 いや、俺やること多くない!?


「私、担当してましたから。桝田さんだってできますよ♪」


--そんなこと言われたら断れないじゃん!

もうホント、ナユタさん仕事し過ぎ!






いつもお読み頂きありがとうございます。

〖閑話2〗は日常回なので、特に大きな動きとかはありません。全三話(予定)。


次回更新は12月の5日になります。

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