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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【閑話集1】
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〖閑話1〗第三幕:マスターは二度死ぬ!?(2)

「…………大丈夫ですか?」


 あれ……ナユタ、さん……?


「良かったぁ、気がついたみたいです」

「あ、あのう……マスター、ごめんなさい……」


 ?

 ユウ?なんで謝っ…………


 !!


 えっ!?

 生きてる?生きてるの俺!?

 痛っつ……!


 急に起き上がったら肩に響いた。

 そこで初めて、リビングのソファで寝かされていたことに気付く。周りには心配そうなナユタさんとマイ、それにユウの顔が見えた。


「もう、ユウちゃんもダメじゃない。マスターはまだ治ってないですし、ギプスで上半身を固められているんですから、両手で抱き込んだら身動きできなくなるに決まってるじゃないですか」


 そう言いながら、ナユタさんなんか悔しそう。

 自分もしたかったのか、あるいは、そのサイズへの嫉妬なのか。


「いやあ、マジで今度こそ死んだかと……」

「本当に、その、ごめんなさい……!」

「いいよ、もう。ユウだって悪気があったわけじゃないしな」


 後でユウにタップの意味教えとこう。

 じゃないと次はマジで死にそう。



 時計を見ると1時半を回っていた。ほぼ2時間ぐらい経ってる。その間ずっと失神してたのか俺。


「みんなは、仕事?」

「はい、皆さん心配したり怒ったりと色々でしたけど、ひとまずは」

「良かったあ!私、心配で心配で……!」

「マイちゃんも付き添いありがとうございました。もう心配ないと思うので、ユウちゃんとレッスンに行かれて下さい」

「あっはい、分かりました!」

「ええっと、その……。はい、そうですね……」


…ああ、マイとユウは午後はレッスンなのか。手元にタブレットがないから予定が分かんないや。


 そういや、あれ以来タブレット見てない気がするな。


 リビングから出て行くふたりを見送る。

 起きた直後は意識がハッキリしていたものの、少し時間が経つとまたぼうっとしてきて、うまく頭が働かなくなる。ちょっとなんか、ダメっぽいな。

 そんな様子の俺に、ナユタさんが補足するように声をかけてきた。


「酸欠による失神なので、しばらくは動かない方がいいですよ。無理しないで、そのまま横になっていて下さい」

「……はあ。」

「少し眠りますか?ブランケット、持って来ましょうか?」

「…………はあ。」


 あーダメだ。やっぱ頭働かないや。これは大人しく眠った方がよさそうだ。


「……はい。」


 すぐにナユタさんは奥の収納から毛布を取り出してきてかけてくれた。ソファではハルが時々日向ぼっこしたまま寝落ちしたりしてるから、それでリビングには毛布が常備してあったりする。


「では、私も仕事に戻りますので。ゆっくり休んでて下さいね」


 そう言ってナユタさんもリビングを後にする。

 独りきりになってから、ゆっくり目を閉じた。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 目覚めた時には、窓から見える太陽がもう西の空に差しかかろうとしていた。時計を見ると夕方の4時過ぎ。かなりガッツリ寝てたみたいだ。


 でも、おかげで頭はだいぶスッキリしたように感じる。これなら起きても大丈夫そうだ。

 ていうか腹減った。


 んーと。何か気にしてる事があったような。


 ああ、そう、タブレット。

 この場にはないから、多分ナユタさんが預かってくれているんだろう。事務所行ってみるか。


 その前に、キッチンに何か食い物ないかな。


「あらマスター。気がついたのね」


 ダイニングでは、レイがひとりで紅茶を飲んでいた。


「うん、まあ。意識戻ってからもちょっと朦朧としてたからナユタさんに一眠りしろって言われてね。さっきまでリビングで寝てた」

「ええ。気持ちよさそうに眠っていたわね」

「で、結局昼を食えなかったし、腹減ってさ。

なんか残ってねえかな?」

「あら、だったら私、何か作りましょうか?」


 お。レイの手料理かあ。

 レイは普段の料理当番もやってないし、食べたことないな。


「いいのか?今休んでたんじゃないのか?」

「私はソロの仕事が終わって今しがた戻ってきた所だけど、他ならぬマスターのためですもの。夕食までもまだ時間があるし、腕によりをかけて作らせていただくわ」


 彼女はウインクすると、立ち上がってキッチンの方に向かう。調理師夫妻はまだ夕食の支度を始めていないから、キッチンは無人だ。

 そう言えば調味料棚にもレイの専用スペースがあったっけ。料理と言えばユウやマイ、リンあたりのイメージでレイにはなかったけど、オフの日とかには結構料理してるのかも。


 レイはキッチンに入ると、鍋に水をたっぷり入れて火にかけ、それが沸騰するまでの間に手早く材料を刻んでいく。包丁の使い方も意外と手慣れている感じ。

 いや、意外とか言ったら失礼か。


 刻んだ材料をフライパンに入れて火にかけ、水と調味料を加えてソースを煮詰めていく。鍋が沸騰したところで、食品棚からパスタを取り出してきて手早く投入する。これも手慣れた動きだ。

 作り慣れてるな。これは期待できそう。


 程よい所で麺を一本取り出して、アルデンテの具合を見るレイ。満足のいく仕上がりだったのだろう、笑みがこぼれる。

 麺を湯から上げ、湯切りして器に盛り付け、作りかけのソースを仕上げて麺の上からかける。

 良い香りが漂ってきた。


「さあ、出来たわよ!ミートソースのパスタ、召し上がれ」

「おお、美味そうだな。いただきます」


「は~、つっかれた~!今日の晩御飯は何かしら」

「オレはメシの前に眠りてえよ」


 あ、リンとアキが帰ってきた。

 お前らいつもコンビだよな?


「おお、お帰り」

「あ、ただいまマスター。……ん?美味しそうな匂いがしてるじゃない!何よ、アタシにも食べさせなさいよ!」

「残念ながらダメだね。これはレイが俺のためにわざわざ作ってくれたんだから、悪いけど独り占めだな」


「えっ……?」

「おいマスター、今なんつった?」


 ん?リンなんでビックリしてんの?

 アキも珍しく青ざめて、どうした?


 左手に持ったフォークをクルクル回して、ソースを絡めつつパスタを巻き取る。いい香りが立ち上り、腹が鳴る。


 いただきまーす。


「まっマスター!ダメぇ!」


 リンのその叫び声を聞きながらパスタをひと口頬張って。


 その後のことは記憶にない。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は20日です。

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