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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【閑話集1】
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〖閑話1〗第一幕:一応の“退院”

 ライブ明けの月曜日は、スキル治療の続きと精密検査の繰り返しで1日を潰した。極秘で治療している関係上、所長がfiguraのみんなにホスピタル立入禁止を言い渡したらしく、病室には誰ひとり来なかった。

 まあ来られたらヤバいことになってたからね。見られなくて良かった。

 午前中はスキル治療の残りを、午後からは精密検査が繰り返され、ササクラ先生からも経過は良好だと聞かされて。


「いやしかし、ホントに効くとは思いもよりませんでした。司令から『ダメ元で試す』と聞かされた時はやるだけ無駄だろうと思ったんですがね」


 なんて言ってたな。


…まあ、普通の感覚だとそうだよね。figuraみたいな超常の存在でなければ効かないはずだもの。

その辺り、所長がどういう説明、というかごまかしをしたのかは分からないけど、とりあえずササクラ先生も僕の存在に関して特に疑念は抱いていないようだった。


 ちなみに、魔術(スキル)での治療はライブ前日の土曜深夜から当日の朝にかけてもやっていて、それがきちんと効果を発揮したからライブ会場へも駆けつけられたわけだけど。

 いやあ、自分で言っといて何だけど、本当にスキルでの回復って効くもんだね。治療終わりにレントゲン撮ってもらったのを見せてもらったけど、骨とかほぼ元通りだったもんな。


 それにしても、みんな今頃どうしてるかな。日曜に顔を見せて、思ったより状態が良さそうな姿は見せられたからそう心配はしてないとは思うけど。



「気分はどうだね?」


 夜、所長がやってきた。また今日も19時過ぎですか。ナユタさんもだけど、貴方も働き過ぎじゃない?


「まあ、だいぶ良いですよ。神経が繋がりかけてるせいか、まあまあ痛いですがね」

「そうか。では鎮痛剤を処方させておこう。明日の午前にもう一度検査をして、それで上に戻す予定だが、なにか不都合はあるかね?」


 んー。特にないと思うな。あるとすれば、戻るのが少々早すぎるのをあの子たちになんと説明するか、それくらいか。


「ギプスを付けたままなのは『神経と筋肉の保護』ということにしてある。そもそも皆には詳しい損傷部位の説明もしてはおらんから、その辺りは好きに言い繕うといい」

「なるほど。じゃあまあこっちで考えときますわ」

「で、明日の精密検査だがね、ホスピタル側ではなくファクトリー側の検査になる。例の治療が人体にどういう効果を及ぼしたのか、詳しく知りたいそうだ」

「えっ……と、それ、大丈夫なんですかね?」

「君の経歴は特殊過ぎるから、心配になる気持ちも分かるがね。だが検査して判るようなら一番最初の各種検査で判明しているはずだ。君がうっかり口を滑らすのでもない限りは問題はなかろう」


…今まで3年間誰ひとりとして言ってないのに、今さらうっかり口を滑らすなんて、ないな。


「じゃあまあ、大丈夫でしょ」

「足の方はどうだね?」

「午前中の治療はそっちを重点的にやってもらいましたんでね。だいぶ良いですよ。特殊(・・)治療ったって魔法みたいに全快なんて事にはなりませんから、痛いっちゃあ痛いですけど、まあ歩けます」


 MUSEのドレスにセットされている回復魔術(スキル)は、現状ではどれも最大でも体力の20%前後の回復力しかなく、だから使えば即全快……なんて事にはならない。もちろん自然治癒や通常の治療に比べれば劇的に快方に向かうし、繰り返し使えば全快もするだろうけど、回数を増やすとそのぶん露見する恐れも高くなるだろう。

 それに、全快させてしまうとあとのごまかしが大変になる。そのため、どの部位もスキル治療は中途半端な状態で止まっていた。


「そうか。では問題ないな」


…やっぱりちょっと心配してくれてたのかな。所長からほんの少しだけ、安堵の感情が漏れてくる。


「明日の昼前にでも迎えに来よう。

それまでもうしばらく辛抱してくれ」


 そう言い残して、所長は出て行った。

 そんじゃまあ、最後の夜をのんびり過ごさせてもらいますか。


…あ、そう言えば、シミュレーターのアフェクトス調整ってどうなったんだろう。もう終わったのかな?

自分の怪我の事で一杯一杯になって、おまけにライトサイドのライブまであったもんだから、すっかり忘れてた。


 まあ、明日上に戻ったらナユタさんに聞いてみよう。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 そして火曜日。

 昼前に所長に伴われて事務所に顔を出したら、さすがに所員さんたちもビックリしている。こんなに早く戻ってくるとは思ってなかったみたいだ。

 まあそりゃそうだよな。一応の支えとして松葉杖こそ使ってるけど、車椅子ですらなく普通に歩いてるしな。


「桝田さん、お帰りなさい」


 ナユタさんがにこやかな笑顔で言葉をかけてくれる。


「……ただいま、です」


 なんかちょっと、照れくさいな。


「具合はどうですか?」

「ええまあ、状態が思ったより良いらしくて。事実上、削れた肩の肉とそれを補った内腿の手術部位が痛むぐらいですかね。肩関節が人工関節になってるんで、きちんと癒着するまでギプスは取れませんけど」

「そうですか。良かった……」


 本心から心配されてるのが視えるから、なんかすごい罪悪感。


「彼はしばらく自室療養だ。仕事復帰はもう少し様子を見てからになる。せめてギプスが外れん事には仕事も何もないだろうからね」

「そうですね。無理させてはいけませんから」

「……まあ私の見る限りでは、彼は先輩に負けず劣らずの無茶しいに見えますけど」


 うっ。

 モロズミさんよく見てんなあ。


「それが分かっているなら、お前もサポートしてやってくれ」

「了解しました」


…うーん、モロズミさんが積極的に僕らのサポートするとは思えないけどなあ。業務上必要のある時だけ、って感じがするし。

なんていうか、一番公務員っぽいよね?






いつもお読みいただきありがとうございます。

次回更新は11月10日の予定です。

閑話は全部で3話あります。全12幕の予定です。



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