第十五幕:オールナイトダンス(2)
数曲歌い終えてステージは小休憩に入り、3人が袖に引き上げてくる。
左手のサムズアップで彼女達を出迎えると、とびきりの笑顔が返ってきた。
「ようやく前半が終わったばかりなんだから、ステージはここからよ!この後も目を離さないでねマスター!」
「アタシもまだまだやるわよ!しっかり見てなさいよね!」
「怪我人は怪我人らしく、後半も大人しく見とけ」
ナユタさんが3人に汗拭きのタオルとドリンクをサッと手渡している。このあたり、さすがはデビューからずっとマネージャーしてきただけに彼女は手慣れている。
…本来なら、僕の役目だったことだ。それを考えるとちょっと悔しい。
「じゃあね、マスター。一旦楽屋に捌けるわ」
「おう、衣装替えだろ?行っといで」
そうして楽屋へと消えて行き、しばらく経って出てきた3人はMuse!の代表衣装になっていた。自衛隊の下部組織である魔防隊らしく、というのか、軍服をモチーフにした衣装で、青を基調にしたパンツスタイルのカッコいい衣装だ。ちなみにレフトサイドの方は同じ衣装でもスカートスタイルで赤基調で、雰囲気がガラッと変わる。
ステージでは司会のタレントさんが出てきて、トークで会場を暖めている。これから30分ほどはMCの時間だ。
「これからMCだから。マスターもちゃんと聞いてなさいよね!」
「ちゃんと袖で聞いてるから心配すんな。行っといで」
「それでは、再び登場して頂きましょう!〖Muse!〗ライトサイドの皆さんです!」
司会のその呼び声とともに、再び3人はステージへと飛び出して行く。
なんか保護者の気分になってるのは、3人には黙っておこう。
「そして!本日はスペシャルゲストをお呼びしています!」
ん?司会がなんか言ってる。
聞いてないぞそんな話?
「〖Muse!〗レフトサイドの皆さんです!
盛大な拍手でお出迎え下さい!」
…えっ?僕とナユタさんが会場に向かうの全員で見送ってくれたよね?
もしかして、もしかしなくてもあれからコッソリ会場入りしてて、逆の袖に隠れてたわけー!?
「ふふっ。私とレイちゃんのサプライズ、その1です!驚きました?」
「えっ!?ナユタさんまでグルなの!?」
って、その1ってなにー!?
ステージでは紹介される順番にユウ、ハル、サキがそれぞれ挨拶している。
--いや待って!?ユウも来てるの!?
覗きに行きたい、行きたいけどステージには段差があって車椅子じゃ上がれない…………ってなんかスタッフさんたちがスロープ用意してるんだけど!?
「そして、今日はもうひとり、ファンのみんなに紹介したい人がいるの」
えっ待ってレイ?その流れでもうひとりって、まさか……!?
「私たちの一番新しい仲間。
とっても大切な、特別な人」
「さ、行きますよ♪」
「えっ、ちょっ、マジで!?」
「はい♪サプライズその2です!」
ウソおおおお!?
「私たちの『マスター』よ!」
マスターって言ってるうううぅぅぅ!?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ライブは再び着替えたライトサイドが、最初に披露した新曲『オールナイトダンス』を再び歌って、最高潮のまま終了した。
いや、楽しかったし大成功だしで良かったんだけど、このあとのネットニュースの見出しが気になって気になって。
みんなから口々に『マスター』と呼ばれて、観客席の感情がザワザワしてるのも手に取るように分かったし、もうホント気が気でなくて。あんな堂々と『マスター』なんて呼ばれてしまったら、みんなのファンからなんて言われるか。炎上必至だろ絶対。
しかもMCのトーク中にハルが『何が好きか』と聞かれて、満面の笑顔で「マスターが好き!」とか言い放ったもんだから会場全体が(主にハルのファンたちが)騒然としてたし。
もう、怖くてネット開けねーぞマジで。
あーもう。とっておきの言い訳ネタを発動するしかないな、これは。
ていうか素人をサプライズでステージに上げるんじゃねぇよマジで。緊張のあまり小便チビるかと思ったわ!
ちなみに俺をステージに上げるのは当初レイが言ってたサプライズ通りだったんだけど、俺が負傷したことで取りやめるか、病室にモニター持ち込んでリモート出演させるか……ってナユタさんと協議していたらしい。そうしたら俺が外出許可取って会場入りが決まったってんで、ナユタさんが急遽元の形に戻したんだそうな。
くっそう、会場行くんじゃなかった!
…ユウは左腕を三角巾で吊った姿がかなり痛々しかったなあ。
けどそれ以外は衣装で隠されてたし、ネットニュースなどの見出し的にも“事故に遭って心配されたが元気な姿を見せた”とかそんな程度で済むと思うけど、一緒に事故に遭った(事になってる)僕がギプスがんじがらめの大袈裟な車椅子で登場、ってのも凄い違和感あったと思う。
まあ「マスターが身を挺して守ってくれた」って事にしてくれたし、そこは心配するほどでもないかも知れないけどさ。
そうそう。先日の音楽番組の生歌披露で一躍名を売ったマイが公の場に初めて姿を現したことも、大きな話題になるはずだ。俺のあとに名前を呼ばれて登場し、MCの間だけだけど新生〖Muse!〗が初めて7人勢揃いした事になる。
…願わくば、マイが大きく取り上げられて、僕のことはついで程度に小さく収まってくれる事を祈るのみだなあ。
え?お前は基本隠れてるからいいだろ、って?
やだなあ何言ってんの。異心同体なんだから変わりゃしないって。キリキリ痛む胃袋は共有してるんだからね?
それにしても、この分だと次にあるマイのデビューライブでも同じことをまたやられそうな気がしないでもない。
お前らホント、やってくれたな!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「今日はみんなお疲れー!カンパーイ!」
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
今日の夕食は打ち上げ、と称するパーティー状態になった。何故か俺も普通の車椅子に座らされて同席している。
…あれ?『特別な許可でライブの間だけ』ホスピタルを出てきてる、んじゃなかったっけ?
「まあまあ、細かい事はいいじゃない♪主治医も所長もOKしたんでしょ?だったらいいのよ♪」
いやいいけどさ。少しは疑問に思おうよ、リン。
「本日のライブは皆のおかげで大成功に終わった。アフェクトスも想定以上に収集でき、レフトサイドとマイの活躍でゲートの破壊にも成功した。最高の成果を挙げられたと言えるだろう。
皆、本当にご苦労だったね。今夜は好きなだけ食べてくれ」
所長の労いの言葉を受けて、みんな一斉に思い思いに料理に手を伸ばす。テーブルには、日曜なのにわざわざ出て来てくれた調理師さんが腕によりをかけてくれた料理の数々が並んでいる。
ちなみにレフトサイドは出番があのMCだけだったので、ライブの裏で集まってきたオルクス達を狩って回ってたらしい。俺だけでなくユウも大事をとって戦闘参加しない状態で、年少組のハルとサキとマイだけで、しっかり頑張ってくれたんだそうだ。
…で、なんでみんな取り分けた料理を僕の前に並べてるのかな?
「あら、だってマスターは右手が使えないんだから食べられないでしょう?私たちが食べさせてあげるわ」
「そうそう♪マスターもいーっぱい食べてね!」
「マスター!私、マスターの好きなもの何でも取りますよ!遠慮なく言って下さいね!」
「どうしても、というなら私が食べさせてあげないこともありません」
「いっぱい食べないと治らないんだから、どんどん食べる!ほら、好き嫌い言わずに食べなさーい!」
「いや、全員で箸を差し出すんじゃねーよ!」
「まあ遠慮すんな。ほら食え」
「く、口に押し付けんなアキ!」
…でも、みんな楽しそうで良かった。
ライトサイドのみんなはやり切った清々しい顔でにこやかに笑ってるし、リンなんて先頭切ってはしゃいでるし。
マイはまだ僕の世話を焼きたがってるけど。
ユウも世間の目があるからまだ左腕を吊っているけど、もうほとんど完治してるって聞いたし。
本当に、良かった。
みんなには随分心配かけたから、早く復帰しないとな。
とりあえず今夜はこの後ホスピタルに戻るけど、明日の精密検査次第では明日のこの時間もまたみんなと食卓を囲むことができるだろう。
…うん、マイ、僕の世話はいいから自分の分食べなよ。僕左手使えるからさ。
あーもうリンってば。アキが大人しくしてんだから必要以上に構ってやるなって。
ハル!テーブルの周り走らないの!
ふと、向かい側に座っているユウと目が合った。
ふふ、と微笑みを返してくる。
そうだな。俺も食べるか。
ここ数日どんな空気だったのかは確認するのも怖いけど、今日のこれを見る限りだともう大丈夫だろう。ライトサイドのライブは、アフェクトスだけでなくみんなの笑顔も取り戻してくれた。
この幸せな時間を守るためにも、もう二度と同じ失敗は出来ない。今まで以上に頑張らないと。
でも、ひとまず今夜はいつまでもこの幸せが続きますように。ただそれだけを祈っていよう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月5日の予定です。
今回で【オールナイトダンス】は完結、次回からは【閑話集】全十二幕です。マスターの退院(一応)を含む小咄と、例のふたりが再登場します。
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