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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【オールナイトダンス】
62/185

第十四幕:オールナイトダンス(1)

 7月9日、日曜日。

 いよいよ旧ライトサイドのラストライブ当日。


「ふたりとも、準備はいいかしら?」

「もっちろん。あれだけ準備してきたんだし!」


 レイの確認に、リンが頷く。


「……アキ。返事はどうしたのかしら?」

「…………わぁかってる。ちゃんとやるよ」


 返事をしないアキにレイが念を押すように再び問いかけて、それでアキも渋々答えた。


「ふふ。ふたりとも、頑張ったものね」


 レイがそう言って微笑めば、リンは満面の笑顔になり、アキは不貞腐れたようにそっぽを向く。


「お、オレは別に頑張ってなんかねぇからな」

「相変わらず素直じゃないわねえアンタ。マスターがケガしてから、すっかり目の色変えちゃってたくせに」


「そ、そんなんじゃねぇし。⸺ただ……」

「……ただ、なによ?ハッキリ言いなさいよ」


 モゴモゴと口ごもるアキに、リンが寄って行って肘で小突く。


「ちょ、やめろって!」

「うりうり〜白状しなさいよ!」

「だああっ!もう!オレはただ、今日ここに来られなかった誰かさんに『ちゃんとやった』って言いてえだけだ!」


 アキのその返答に、リンだけでなくレイまで満面の笑顔になった。


「も〜。素直に『頑張ったから褒めてほしい』って言えばいいのに。照れちゃってもう」

「そ、そんなんじゃねえし!つかリンだって最初あんなに『認めねえ』って言い張ってたクセに、今じゃすっかり二言目にはマスターがマスターがって言ってんじゃねぇか!チョロすぎんだよ!」

「なっ……!?アタシそんなチョロくないし!頑張ってるヤツをキチンと評価してるだけだし!」

「どーだか。スイーツ奢られてから態度変わりすぎだろ!」

「なっ、違うわよ!⸺そりゃ、その後に書いたブログの件でサキを怒らせて迷惑かけたのは申し訳ないとは思ってるけどさ……」


 リンは最後はモゴモゴと、口ごもるように小声になってしまった。

 人のこと、言えないんじゃねえかな。


「皆の意見もひとつにまとまったところで、しっかり最後までやり切りましょう!私たちの歌声を、ホスピタルまで届かせるくらいのつもりで⸺」


「んー、ホスピタルまで届かなくても大丈夫だと思うぞ?」


「なっ……?」

「えっウソ!?」

「マスター!?」

「いや、マネージャーねマネージャー」


 いやあ、3人のビックリした顔。

 両手使えたら絶対写真に撮って残しておいたのになあ。


…少し説明しておくと、僕の、というか兄さんの身体の上半身は、右半身を中心に丸ごとギプスで固めてバンドと包帯でグルグル巻きになっている。動かせるのはほぼ左手のみ、それも肩から下だけ。

両腿にも手術の傷痕があるのでまだ歩くことも出来なくて、車椅子に乗せられてナユタさんに押してもらって、さらに念のためホスピタルから看護師(アハト)に付き添ってもらってる。

その車椅子もホスピタルの部屋で使ってたみたいな普通のやつじゃなくて、リクライニングチェアとストレッチャーを足して2で割ったような特別製のやつで、なんていうか、いつかTVで見た“車椅子の天才物理学者”みたいな雰囲気にちょっとなってる。

まあ、本人は禁煙パイプ咥えたアホみたいな無精髭の髭面晒してるだけなんだけど。


 アホみたい、は余計だっつの。


…とはいっても、figura用の回復魔術(スキル)で骨の方はほぼ治ってるんだけどね。治ってないのは右肩の筋肉周りと両腿だけ。

完治してないのは単純に時間が足らなかったせいだけど、完治させてもあらぬ疑いを招くだけだから、もうこれでいいと兄さんは断ってた。

まあ筋肉よりも問題は神経なんだけどさ。触られると激痛だから、それだけでもギプスの意味はある。とはいえ、実のところ入院しておく必要はもうほとんどなかったりする。


 いや、治りかけてるってバレるわけにいかねえから入院しとくけどな?


「貴方、どうして……。出てきて大丈夫なの?まだ絶対安静のはずよね?」

「ウソでしょ!?なんで来てるわけ!?」

「ダメだオレ、レッスンやり過ぎて疲れてんだわ。マスターが見えて声も聞こえるとか、こりゃもう帰って寝るしかねえな」


--こらこら。幻覚・幻聴扱いしないの。


「ちゃんと目の前におるっつーの」

「…………いやなんで()んだよ!?」

「桝田さん、特別にライブの間だけ外出許可もらえたんですよ。所長にそう聞かされた時は私も驚きましたけど……」


 ナユタさんには結局、所長に話したことは明かさない事にした。明かしても良かったんだけど、秘密を共有するのは最小人数のほうがいい、という彼の意見に従うことにした。

 だから表向きには、術後の経過が良好で、本人たっての希望で特別に外出を許可されたって事になっている。

 ゴメンね、ナユタさん。


「本当に大丈夫、なの?」


 レイが歩み寄ってきて、不安そうに聞いてくる。


「ちょっとの間ならね。やっぱり一番近くで応援したかったからさ」

「……嬉しいわ!ありがとう、マスター!

貴方のために、最高のステージを届けてみせると約束するわ!」

「おう。楽しみにしてるよ」


 リンとアキもすぐそばまで来ていた。リンは喜びを隠しきれなくて、でも照れと心配が勝っていてやや不安そう。そしてアキはさっき自分で言ったことが気まずいのか、そっぽを向いている。

 3人とも、着ているのはあの時もらってきた新曲の衣装だ。新曲の曲名と同じ〖オールナイトダンス〗と名付けられたその衣装は、3人にとてもよく似合っていた。


「そして、3人ともよく似合ってるぞ。

やっぱり思った通り、新衣装、イイな」

「ふふ、ありがとう。私たちもすごく気に入ってるのよ!」

「マスター!アンタやっぱり分かってるわね!」

「お世辞言ってねえで、似合わねえなら似合わねえって言えよな。ったく」


「いやいやちゃんとアキにも似合ってるって。お前さんスレンダーだからさ、動きやすそうな服は似合うと思ってたんだよ」


 もちろんスタイルのバランスのいいレイにも、メリハリのしっかりしてるリンにも似合っている。三者三様の良さがあって、誰も衣装に負けてないのは素直にすごいと思える。


「〜〜〜〜っ、ったくよぉ。そんなに見たかったんなら病室にモニターでも持ち込んで、中継してもらやあ良かったじゃねえかよ」


 うは、アキが照れてる。なんかちょっと新鮮で可愛いなこれ。


「いやあ、やっぱり生で見たくてさ。せっかく今まで3人とも頑張って準備してきたんだ。モニター越しじゃ失礼だろ」

「ちゅ、中継なんてものは会場に来られない人のためにあるんだからよ、別にモニター越しが失礼なんて事はねえだろ」


「おお?なんかアキが普段のリンみたいになってんな?」

「なっ……!?コイツと一緒にすんな!」

「ちょ、それはアタシのセリフだっつの!」


「はいはいそっくりそっくり」

「「似てないっつーの!」」


「でもまあ、アキの言うとおりだな。けど今からホスピタルに戻ってたら開演に間に合わないからさ。やっぱり袖で見させてもらうよ」

「しっ、仕方ねえな!そうまでして見たいってんなら、特別に見せてやっても」

「……ふふ。アキったら素直じゃないわね」

「うっ、ウルセェ!」


 レイも、アキの反応見ていちいちニマニマしないの。


…でもまあ、顔を見せてからは明らかに3人とも感情が安定してきたよね。やっぱり無理してでも会場に来て良かった。不安と心配を抱えたままステージに立っても、万が一それが観客席に伝わってしまったら大変だからね。

まあ、心配かけさせてるこっちが悪いんだけどさ。


「みんな、本当に良い顔になりましたね」

「ですね。ライブ直前にあの子たちの目の前であんな事になって動揺させてしまったから、だから、それを払拭する意味でも顔を見せて、あの子たちを安心させたかったんです。やっぱり無理して出てきて、良かった……」

「そう、だったんですね」


 スタッフに開演を促され、文句を言い合いながらもステージに向かう3人を見送りながら、車椅子を押してくれているナユタさんとふたりでそんな会話をする。彼女も安心したみたいだ。


 と、3人がこちらを振り返った。


「マスター。貴方がマネージャーになってから初めてのライブ。美しくやり遂げてみせるから、見ていてね!」

「アタシのカッコいいキレッキレのダンス、せいぜい目に焼き付けなさいよね!」

「…………ま、ゆっくりしてけや。茶菓子は出ねぇけどな」


 3人とも、言うなあ。

 じっくり見せてもらうよ。だから、頑張れ!


 返事の代わりに左手を軽く挙げて振ってみせる。本当は大きく振りたいところだけど、そうすると確実に痛むのでどうしてもヒラヒラと小さな動きにしかならない。

 だけどそんな事気にならないとでも言うように、最高の笑顔を残して、ライトサイドの3人はステージに飛び出して行った。



 この日のライブ用の新曲から始まって、次々にステージが進行していく。

 客席のテンションは最初から最高潮で、それを受けて3人の歌にもダンスにも笑顔にも、ますますキレが増す。相乗効果でボルテージは上がり続け、会場全体がひとつになってゆく。


 美しいよ、レイ。

 カッコいいよ、リン。

 輝いてるよ、アキ。

 最高だよ、ライトサイド(おまえら)






いつもお読みいただきありがとうございます。

次回更新は30日の予定です。

【オールナイトダンス】全十五幕、次回で終幕です。

その次は閑話を三幕、12話挟んで次章に続きます。



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