第十二幕:無色の壁
前回の後書きで当初「20日更新」にしてました(気付いてすぐ修正しています)。
ですが予定通り、本日15日の更新です。5日ごとの更新は継続します。
翌日、7月8日は特に何もやることがなく、ダラダラと寝て、食べて、また寝て……というのんびりとした1日を過ごした。
なーんて、言えれば良かったんだけどねえ。
「マスター、リンゴ食べますか?私剥きますよ!」
「うん、気持ちだけもらっとくよマイ」
つうか今さっき昼飯食ったばっかだしな。
「あら、食事のあとのデザートは必須ではないかしら?」
「レイにはそうでも、俺にはそうじゃないかなあ」
だいたい、お前ら何でいるんだよ。俺一応面会謝絶のはずなんだが?
…いや嬉しいよ?僕は全然嬉しいけどね?
そりゃ悠がMuse!の大ファンだからだろ。
「私たちみんな、マスターのことが心配なのよ。昨日から全員、どこかそわそわしているし、私も初めてのことで正直動揺が抑えられていないもの」
レイの全身から立ち上る、“心配”と“忸怩”と“悔しさ”と。
まあ彼女の気持ちはよく分かる。目の前で一部始終を見ていながら、俺を助けることもできなかったのだから。きっと彼女自身も、あまりに突然のことに咄嗟に身体が動かなかったんだろう。そしてレイがそうなら、リンやサキだってそうだったはずだ。
というか俺自身がそうだったのだから、彼女たちが動けなかったことを責める気持ちは一切ない。むしろあの時唯一動けたユウが凄いとさえ思える。
だから彼女たちが見舞いに来てくれるのは問題ない。というかむしろ有り難い気持ちにさえさせてくれる。
だけど、常に誰か来ている状況ってどうなのさ?
朝イチにはリンがアキを引っ張って連れてきて、レッスン行くまでと言いつつ人の朝飯を邪魔して行ったし、ふたりが帰ったと思いきや扉の向こうにサキの感情が視えて、車椅子で動いてドアを開けたら案の定だったし(なお見つかったことに驚いて走って逃げた)。
午前中はみんな仕事やレッスンが入ってたらしくて誰も来なかったがナユタさんが二度ほど様子を見に来たし、昼食を終えたあたりでマイとレイがやって来てからはずっとこの調子だ。てかレイがここにいるんならリンももう1回来そうだよな?
「マスター!げんきになった?」
あっ一番ウルサイのが来ちまった。
「いや昨日の今日で元気になるわけねえだろハル」
「ええ〜?お日様浴びれば元気になるよね?」
--それで元気になるのは君だけなんだよね。
「あーっ、そっかぁ!ホスピタルお日様の光が届いてないじゃん!」
「いやいや待てハル、車椅子なんか持ってきて何するつもりだ」
「マスターがお日様の光を浴びられるように、ハルが中庭へ連れてってあげるよ!」
「いや俺一応、重傷の怪我人だからな?」
ていうか基本的に絶対安静だっつの!
「だーいじょぶだいじょぶ。ちょっとならバレないって」
「いやこの部屋モニタリングされてるからな!?」
「ほえっ?そうなの〜!?」
いや当然だろ。なんたって俺、自分でも知らん間にMUSEUMの重要人物になっちまってるしな!
…知らん間にって、半分オルクスだってバラしたの兄さんじゃん。
そりゃ所長に対してだけだ。
「さすがに連れ出すのはダメよ、ハル」
「えぇ〜ダメなの〜?」
「そうですよぉハルさん。マスターの怪我が悪化したら怒られちゃいますよ」
「その怪我を治すためにもお日様浴びないとダメなんだよ!」
だからお日様浴びても治らねえし、連れ出したら怒られるだけじゃ済まないんだってば。
「………………お前たち」
呆れ返った低い声がして、全員で扉のほうを見たら所長が腕組みして仁王立ちになっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「しかしまあ、君も懐かれたもんだねえ」
全員を叱りとばしてfiguraたちを追い出した後、ふたりきりになった室内で所長が言った。感情は、呆れ半分感心半分といったところか。
「いや、まだそこまで懐かれてはないかなと」
懐いてくれてると感じるのは今のところ、マイとサキとハルと……あとはリンかな。レイはどちらかというと責任を感じてる面のほうが強いし、アキはまだ少し距離がある。
ユウだけは、ちょっとよく分からない。あの子はあの子で何かこう、特別な感情を抱いてくれてはいるけども、それは多分純粋なものではなくて、なんか色々とドロドロしてるんだよな。
「私の目には充分懐いていると見えるがね。顔合わせから10日も経たずに彼女たちがこれほど君を受け入れるとは、正直言って予想していなかった」
まあそれは確かに、自分でもちょっと思ってはいる。少なくとも所長やナユタさんに対しては、彼女たちはここまで距離が近くないと感じるし、俺に対してもそういう扱い⸺つまり、信頼はすれどそれは上位者として、指揮官としてのそれに収まるものだと、それが落とし所としては無難なところだと思っていたんだけどね。
まあ俺個人としては、仮に所長やナユタさんを敵に回してでも彼女たちの味方を貫くつもりでいるので、そういう意味では喜ばしい事ではある。
「おそらくですけど、俺みたいなのって彼女たちにとっては初めてだったのでは?」
ひとつ、自分の中では推論がある。
それをそれとなく、所長に告げてみた。
所長は何も言わないし感情も波立たせなかったけれど、眉根がピクリと動いたあたり、ある程度推論を補強する論拠としては充分だ。
「……あの子たちは戦闘人形。最初のレクチャーにあった通り、戦力で兵器で替えの利く人形。そういう扱い、ですよね。
⸺だけど、俺にはそうは思えない。彼女たちは、れっきとした“人間”ですよ」
おそらく、関わってきた人間たちの誰からも、彼女たちは人形だと言われそう扱われてきたのだろう。そんな中で、俺だけが彼女たちを人間扱いしたのだとすれば、そりゃあこの結果も納得がいく。
「…………なるほどな。彼女らが君に懐くわけだ」
そして所長も同じ結論に至ったようだった。
「ま、君の思うとおりにするといい。私の意向としては君に一任するつもりだから、自由に存分にやってくれて構わんよ」
「え、いいんですか?」
正直、少しくらいは苦言を呈されるかとも思っていたんだが。
「だが、ひとつだけ言っておこうか」
どこまでも、所長の感情は波立たない。まるで全部予想されてたみたいでちょっとザワつく。
「あまり思い入れ過ぎないようにな。⸺では、私も退出するとしよう」
所長は一言だけそう言い残して、俺の返事も待たずにさっさと出て行ってしまった。
…なんか、やな感じ。あの子たちを好きでいちゃダメなわけ?
いや、多分そうじゃないな。アレはきっと、いつか彼女たちが戦闘でロストしたり、『霊核』を抜かれて存在が消失したりした場合に俺がショックを受けたりしないように、あらかじめ釘を刺してきたんだと思う。
まあそうなんだよね。身体を張って命をかけてオルクスたちと戦ってる以上、そしてその戦いの終わりが見えない以上は、それはいつか起こり得る事。そしてそうなった時、俺が一緒に壊れたのでは意味がないわけで。
でもそれを恐れて彼女たちと距離を置くのは、ちょっと違うと感じるんだよな。起こり得るかも知れない未来だけど、現時点でそれはまだ確定ではないのだから、必要以上に恐れるべきではないはずだ。
まあ、実際にロストしたfiguraの存在はもう示唆されているし、昨日ユウがロストしかねないピンチに落ちたばかりなわけだけど。
俺という存在が、彼女たちをそうした危機から救えるような存在になること。それが当面の目標だ。少なくとも彼女たちとの間に無色の壁を作って距離を置き、彼女たちを失望させるべきではないと、頭でも心でも今は感じている。
そうでなければ全幅の信頼など望むべくもないだろうし、彼女たちと全幅の信頼を寄せ合える関係になれなければ、今後現れると思われる強敵とは戦えないだろう。
全ては彼女たちを失わせないため、彼女たちを少しでも“人間”として永らえさせるため。それが今の俺の結論だ。
…兄さんも彼女たちのファンになってくれて、僕は本当に嬉しいなあ。
いや、そういうのとはまたちょっと違うんだけどな。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は今度こそ20日です。
今回はインターバル。そしてまた次回に風雲急。
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