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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【オールナイトダンス】
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第九幕:薄桃色の看護師

 緩やかに意識が覚醒して、やがてぼんやりと目を開ける。


 ササクラ医師が退室してからもしばらくは起きていたのだけど、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 目に飛び込んでくるのは、やはり真っ白な壁と天井と照明。何回見ても落ち着かない、ホスピタルの病室だ。


 今、何時だろうか。

 腹減ったなあ。


 枕元を探ってナースコールを探した。


「…………いや、ナースコールねえのかよ」


 そう、そんな気の利いたモノはなかった。それどころか通常の病院のベッドの枕元近くにあるはずの、各種機器を接続したりスイッチが配されたりしているコントロールパネルすらなかった。


 まあ知ってたけどね!最初の、精密検査や身辺調査で1週間缶詰にされてた時だって、そんなの見たことなかったもんね!

 でもさあ、ナースコールもないって病院施設としてどうなんだ。患者に何かあったらどうするつもりだ。


…まあ、普通は入院患者なんて居ないと思うけど。


 でもまあ、とにかく腹が減った。何とかして看護師さんを呼ばなくてはならないが、さてどうしたもんか。

 飯もそうだけど、今の状態じゃトイレにも行けないんだよね。やっぱ尿瓶(しびん)になるのかなあ?それとももしかして、オムツのお世話になんのか?それはやだなあ。



 とか独りで悩んでいたら、不意に扉が開いた。誰が来たのかと思って顔を向ければ、淡いピンクの看護服を身に着けた看護師の人だった。彼女はその手にワゴンを押していて…………待ってそこに載ってるのって。


「お食事をお持ちしました」


 YES!それが欲しかった!


 看護師さんはワゴンをベッドサイドに寄せてキャスターをロックして、トレーの蓋を取ってくれた。ベッドも操作してくれて上体を起こし……痛てて!体勢変えたら傷に響くのかよ!鎮痛剤効いてないってササクラ先生に言わねえと!


 それでも何とか食事が可能な姿勢になって、早速食べようと手を伸ばし……右手固められてんじゃねぇかチクショウ!

 ワゴンが右手側のサイドに置いてあるのは、扉がベッドの右手にあるせいだ。つまり左手側が奥の壁。個室だしベッドが壁際に寄っているわけでもないからワゴンを左に持ってきてもらってもいいけど、どっちにしたってトレーが身体から遠いことに変わりはない。


 なので、スプーンとベッドテーブルも用意してもらうことにした。看護師さんは「少々お待ち下さい」と言って一旦出て行き、すぐにテーブルとスプーンを持ってきてくれた。


 これでやっと飯が食える。右利きだからスプーンを持つ左手がかなりぎこちないけど、以前にも右手を手術して入院生活を送ったことがあったため、それを思い出しつつ何とか頑張った。

 食事中、ふと顔を上げると看護師さんが直立不動のまま無表情で壁際に立っていた。出てった気配がなかったから居るだろうとは思ってたけど、この人怖いくらい気配も感情も殺すの上手…………いな?


「看護師さん、名前聞いてもいいですか?」


 不躾なのは承知の上だが、気付いた以上は確認しなくてはならない。


「アハトと申します」


 “(アハト)”だってよおい!

 やっぱホムンクルスじゃねえか!人間の感情が一切出てなかったから、まさかと思ったら案の定だわ!よく見れば顔もアインスたちとそっくりだし!

 ていうか、これで最低8体いることが確定しちゃったよ……。


「ん?あれ?言葉喋ってるよね?」

「我々〖MUSEUM〗配属のホムンクルスは全員が自立思考型の“霊脳(ブレイン)”を搭載しています。ですから自律的思考による独立行動および、魔術師様からの命令授受のために会話も可能になっています」

「会話が可能?アインスもツヴァイも喋れないって聞いたけど?」

地上配置(・・・・)の場合、万が一にも正体を露見させるわけには参りません。故に我々は[制約]を施され会話を禁止されています」

「制約って、もしかして魔術とか?」

「はい、仰る通りです」


 うわあ。魔術何でもアリかよ。

 ていうか。


「今、我々(・・)って言った?」

「はい。我々はメンテナンスの必要があるので定期的に入れ替わっています。今はツヴァイが戻っていてドライが地上配置中です」


 え、そうなんだ……。


「どの個体が地上配置中であっても、呼称は“アインス”と“ツヴァイ”で固定されていますから、お気になさらなくて結構です」


 あーまあ、ホムンクルスの見分けとかできねえしな。面倒くさいから考えるの止めよう。


「ところで、飯の後にでも(くろつち)所長を呼んでもらいたいんですけど」

ホムンクルス(われわれ)に敬語は不要です魔術師様。畏まりました、お食事がお済みになり次第アインスにその旨申し伝えておきます」


 あ、自分で呼びに行くんじゃないのね。まあ迂闊に地上に上がって誰かに見られてもアレだしなあ。

 ていうか、俺魔術師とかじゃないからね?



 苦戦しつつも何とか食べ終え⸺メニューは一見して一般食のような、でもそれでいてどこか病院食のような、なんか不思議なモノだった。まあそこそこ美味かったからいいけど⸺て、アハトが来た時と同じようにワゴンを押して退出する。


「⸺あ、待って」

「はい」

「俺トイレも行きたいんだよね。車椅子とかないかな?」

「畏まりました」


 尿瓶もオムツも嫌なので、何とか自力でトイレまで行けるようにしたい。そう思って頼んでみたら、アハトは今度こそ退出して、すぐに車椅子を押して戻ってきた。起こされたままのベッドから移ろうとして…………待てよ、身体起こしただけであんなに痛かったのに、車椅子に移れるか?


「失礼致します」


 とか思ってたら、アハトが近寄ってきて身体にかかってるタオルケットをはぐって、ヒョイと素軽い感じで俺を抱え上げて。


「⸺え?」


 と思う間もなく、ストッパーをかけた車椅子にふわりと降ろされた。全然痛くなかった。


「え、もしかして力持ち?」

「ホスピタル配置の場合、損傷したfigura個体の介助も我々の仕事の一環になりますので、ひと通りのことはプログラムされています」


 いやそっちを聞きたいんじゃなくて……まあもういいか。どうせホムンクルスだし人間じゃないし、人間の常識で見ちゃダメなんだろう。

 車椅子を押してもらって個室内に備えてあるトイレまで連れてってもらって、トイレには何とか独りで移って無事に用が足せたので、もうそれでいいや。


 それからアハトに頼んで置き時計も持ってきてもらった。ベッドサイドテーブルを用意してもらい、そこに時計も置いてもらう。水差しとコップも準備してもらって、これで飲み物も確保。

 持ってきてもらった時計は18時半過ぎを指していた。ササクラ先生と話してた時に襲われてから5時間経ってないって言ってたから、あの時で多分昼の3時前後くらいか。それから3時間ぐらい寝てた計算になるな。それで目を覚まして飯食ってトイレして⸺うん、計算はだいたい合うな。

 ナースコールに関しては、室内は常時監視されていてバイタルチェックも常になされているらしく、声を上げればそれも拾えてすぐに顔を出せるから不要なんだそうだ。いやそういうの聞いてないから知らないし。


 てか室内の会話、聞かれちゃうのか……。ちょっとそれは困ったな。






いつもお読みいただきありがとうございます。

次回更新は10月5日の予定です。

次回、主人公の重大な秘密が明らかに……!



もしもお気に召しましたら、継続して読みたいと思われましたら、作者のモチベーション維持のためにもぜひ評価・ブックマーク・いいねをお願い致します。相変わらず全く評価頂けてないので、作者としてはとても悲しいし寂しいです。

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