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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【オールナイトダンス】
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第四幕:泥茶色の瞳孔(1)

 いつものように渋谷駅まで移動し、スクランブル交差点を横に見ながらセンター街へと進む。飲食店が多く並び、日中や夜は賑わう通りだが、朝の間は人通りもそこまではなさそうだ。

 だがそれでも、道行く人から次々に声がかかる。


「レイ様だ!」

「おっリンリンだ!今日は親友(マブダチ)と一緒だぞ!」

「総統および副総統に、敬礼!」

「姫が執事殿を伴われてお出ましになられたぞ!」


…えっ、僕も?


「マネージャーさんは正式に就任したので、私のほうでもブログで執事に正式任命しておきました」


 サキ、余計なことを!


「ていうかおいリン!なんかマブダチって言われた気がするんだけど!?」

「あー、あれね。私のファンクラブって『リンリンと愉快な仲間たち』っていうんだけどさ、会員のことを通称“リン友”っていうのよ。それでマネージャーはいつも一緒にいるからって、『リンリンの一番の親友』だって言われ始めちゃってるのよね」

「いや聞いてないし!」

「そりゃそうでしょ今初めて言ったもの」


 そうだけど!そうじゃなくて!


「ふふ。マネージャーさんもファンの皆さんに認知されてきたようで、何よりです♪」

「いやあ、俺あんまり目立ちたくはないんだけどなあ……」


「ユウさん!握手してもらっていいですか!?」

「はい、お安い御用です♪」

「私もお願いします!」

「いいですよ♪」


 ユウも変わらず大人気だなあ。


「昨日の放送見ました!」

「俺も!感動しました!」

「俺は録画しました!永久保存版です!」

「あら~、皆さんありがとうございます♪マイさんのことも、よろしくお願いしますね」

「じ、自分はレフトサイドの箱推しです!」

「ありがとうございます♪」


 おお、昨夜の放送の反響が。

 やっぱり生の声を聞くと違うなあ。


「まだまだよ。私たちのライブでもっとマネージャーの評判を上げてみせるから、期待してて頂戴」

「えっ、レイそれどういう意味?」

「ふふ♪まだ内緒よ」


…ええ~、僕に相談もなしに何企んでるの……?


「ま、まあ、それはそれとして。

わざわざユウにも来てもらったのは……」


 一通りファンサービスを終えて周りに人気がなくなってから、ユウに今日の巡回の趣旨を改めて説明する。


「はい、戦闘指揮の代行の件ですよね」

「そう。ゆくゆくは君たち4人に覚えてもらおうと思ってさ」

「私たちがマネージャーさんを危険に晒すような事は絶対ありませんからご安心を。でも、確かに万が一への備えは必要かも知れませんね」

「まあこれはあくまでも、この先どんな状況になったとしても対処出来るように、っていう『念のための準備』だからね。だから、すぐにどうこうっていう話じゃないんだけど、少しずつ準備していこうと思ってね」


 そう。だからなるべく巡回も3人態勢ではなく4人態勢を増やしていきたいと思ってる。ただ、アイドルとしての仕事は二人組とかサイド単位が多いから、どうしても4人での巡回はチャンスが限られるんだよね。

 今回ユウに無理に来てもらったのはそれも理由のひとつなんだよね。せっかく4人で巡回できるんだから、その数少ないチャンスをスルーしたくなかった、というわけだ。


「それで、今日はどういった形で対応したらよろしいですか?」

「うん。出てくればの話になるけど、最初はレイたちに任せておいてユウは俺と一緒に『外から』見ててもらいたいんだよね」

「あー、それで敢えて4人で出てきたってわけね」

「まあそういうこと」

「この前マイを連れて行った時に、私も同じように見せてもらったの。色々と、得るものが多かったと思ってるわ」

「まだ戦術的な事は俺も全然未熟だけど、3人が戦ってるのをその後ろから見ることで、また違ったものが見えてくるんじゃないかと思う」


 ついでに言えば、もし2回目を戦う機会があれば、ユウには仲間に合わせるばかりじゃなくて、もっと自分らしい戦いをさせてあげたい。この子は見てる限りだと、常に誰かのフォローに回ってばっかりだからな。


「それでしたら、まずはリンさんに外れていただくのがいいと思います」


「……ん?なんで?」

「私は、できることなら指揮するのではなく一兵卒として戦いたいのです」


 そう言い切ったユウの雰囲気も表情も、いつもと変わらない穏やかで柔らかい雰囲気で。だけどその言葉にはどこか、有無を言わさない強さがあった。

 どうして?と聞こうとして、何となくその強さに圧されてしまう。多分これは、説得しても無駄なやつだ。


「…………分かった。じゃあ最初はリンが外れてくれる?」

「……しょうがないわね。ユウの分まで見させてもらうとするわ」


 軽くため息をつきながらそう言ったリンから、うっすらと諦めの感情。何も言わないレイからも同じものを感じる。サキは空気読んでるだけで感情は平坦、というか何のことかよく分かってないっぽい。

 多分これは、この3人だからこそ……かな。彼女たちだけにしか分からない“何か”がありそうな雰囲気。今それを教えてくれないということは、まだそれを話せるほどには俺のことを信じられていないって事なんだろう。もしくは、俺にはできれば知られたくないと思ってる。あるいは知られることを恐れ(・・)ている(・・・)

 うん、これはスルー一択だな。


「いや代わりに、って意味ないからな?実際見ないとなかなか実感できないし、見るのと話聞くだけとじゃだいぶ違うからな?」

「そうね、私も外から見させてもらって初めて気付いたことが多くあったわ」

「そうなんだ?まあレイがそう言うなら……」


 って俺の言葉よりレイの方を信じるのかよ。さっきのユウもそうだけど、リンにもまだまだ信頼されるには足らないってことか。


 ユウからほんの少しの安堵の感情、それと感謝と申し訳なさも。

 やっぱりスルーして正解だったみたいだな。


「じゃ、そういうことで。もし今日2度戦う事があれば、次はサキに外れてもらうからそのつもりで」

「分かりました。ま、今そうやって学ばせてもらえる機会を得られるなら、私はマネージャーさんより上手く指揮できる自信がありますけどね」

「サキの場合、レイやアキに指示を聞かせられるかが問題かもな」


 まあレイはそんなこと気にしないだろうけど、アキは反発しそうだよなあ。


「ぐっ……!ど、どうせ私なんか、一番歳下で後輩で未熟者ですよーだ!」

「だーから『どうせ私なんか』って言うなって。俺が言ってるのはそういう事じゃなくてだな」

「そうよサキ。アキは自分の思い描く戦い方に概ね合致すれば文句は言わないし、爽快に暴れられれば何でもいい子だから、むしろ扱いやすいと思うわ」


 うん、レイはさすがによく見てるね。


「むしろ今注意すべきはマイかしらね。総じてまだ経験値が低いから、指示役が変わるだけでも混乱しかねないもの」

「あー、それはあり得るかもな」


 まあマイが巡回に出る時は、可能な限り俺がついて行くつもりだけどね今のところ。


「マイさんはきっと大丈夫ですよ。先日自信をつけて頂いたおかげで、その後の動きがだいぶ良くなっていますから」

「だってあの子ガッツあるもの。自分の進むべき道さえしっかり見つければ、それだけであの子はひとりでも歩いて行けるはずよ」

「感情を取り戻すのが早かったせいか、マイはアイドル活動もMUSEとしての活動も、私たちより性急に進まされているから、そこだけは心配だわ」

「ま、それはマネージャーさんの役目ですし。我々がとやかく言うことでは」


 分かってるよ。分かってるからそのジト目をやめなさいよサキ。






いつもお読みいただきありがとうございます。

次回、急転直下。




もしもお気に召しましたら、継続して読みたいと思われましたら、作者のモチベーション維持のためにもぜひ評価・ブックマーク・いいねをお願い致します。頂けましたら作者が泣いて喜びますので、よろしくお願い申し上げます!

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