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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【はじまりの1週間】
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第三十五幕:マイの正式加入(1)

「本当に、ごめんなさい!」


…朝からナユタさんが平謝りなんですが。


「あの、俺、なんか謝られるような事ありましたっけ?」

「ですから、私がお伝えするのをすっかり忘れてたんです。本当にごめんなさい」

「いや、だから何の話です?」

「それが、その……」


 ナユタさんの話はこうだ。

 各種SNSにMuse!の公式アカウントがあるのだそうだ。それを利用して、告知や日常のスナップ投稿などに利用しているのだという。今まではナユタさんが管理していたんだけど、マネージャー業務の引き継ぎによってそれらSNSのアカウント管理も俺に引き継がれていた……


 はずだったのに、それを伝えていなかった、と。

 そのせいで、もう丸1週間近くも全く何の更新もないまま放置状態になっているらしい。


 うん、確かに聞いてないなそんな話は。


 試しに自分のデスクのPCでアカウントを覗いてみる。過去ログを遡ると、Muse!の活動に関する様々な告知をこうしたアカウントでマメに発信していた事が分かる。どのアカウントもかなりの人数からフォローされていて、一部のアカウントは公式認証マークまで取得済みだった。


…で、これを今後は僕が更新しなきゃならない、ってこと?


 いやまあ確かに、前は自分でもその手のアカウント持ってて結構呟いてはいたけども。表向き死んだ事になってて携帯とか全部解約されちゃってるから、それ以来全然触ってないんだよな。

 それまでやってたアプリとかゲームとかも一切引き継ぎできずじまいで、それ知った時には相当凹んだ事を憶えてる。あの時まだホスピタルに居たもんなあ。


「それでですね。レフトサイドが今夜7時からの音楽番組に生出演するじゃないですか」


…そうなんだよね。マイまで予定に入ってて、ちょっとどういうことか確認しようと思ってた所なんだよ。


「本当は昨日のうちに各アカウントで告知しておかないといけなかったんです。マイちゃんの正式加入の発表を」

「え……?」

「その発表と同時に今日のマイちゃんの生出演を告知して、それで視聴率アップと話題性作りに貢献する算段で、もう局側とも制作側とも音源のレーベルとも話が付いてたんです」

「……は?」

「だからごめんなさい!午前中のうちに正式加入発表とマイちゃんの紹介と今夜の出演の告知と、お願いします!」

「えええええ!?」


…き、聞いてないよ~!しかもマネージャー交代のタイミングで、そういう事やめて~!


「今から大至急アカウントの引き継ぎしますから、後はお願いします!」

「そんな、急すぎる!」

「正式加入の発表後にマネージャーの変更発表は利かないんです!だからどうしても、アカウントの引き継ぎしてマネージャー交代まで発表してからでないとダメなんです!本当にごめんなさい!」


 マジか……!

 絶対ぐだぐだになるの確定やん!


 呆然とする俺を後目に、ナユタさんは自分のデスクで何やらPCを操作する。で、そのまま俺のデスクに走ってきて、こちらでも色々操作する。

 それを3回。


「一応、これで引き継ぎ完了しましたので、後はよろしくお願いします」

「いやいやいや!正式加入って発表会とかするんでは!?」

「告知が正式な発表なんです!」

「マジかー!!」


 ていうか、告知って言っても文章だけじゃ済まないでしょ!?写真は?動画は?マイのコメントも必要なんじゃ!?


「それ全部、今から撮ってきて下さい!」

「はああああ!?」


…いや絶対マイあがっちゃうでしょそれ!?まともに撮れないよ!


 結局、急遽近所のスタジオを手配して、午前中のうちにレフトサイドのコメント動画と写真撮影をする事になってしまった。

 ナユタさん、そういうのも全部忘れてたってんだから恐ろしい。

 ホント、今日の午前中にレフトサイドに収録の仕事とか入ってなくて良かったよ。入ってたら完全アウトだったわマジで。


「先輩は時々そういうポカやらかしますから。まあ今回は当日の朝に思い出しただけ、まだマシな方です」


…いや冷静に分析しないでモロズミさん!

っていうか、それ知ってたんなら教えといてよ!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「はわわ……き、緊張します……」

「マイちゃん、大丈夫だよー!いつも通りやればへーきへーき!」

「緊張するのは仕方ないですが、落ち着いて、冷静に努めて下さいねマイさん。でないとライブなんて出来ないですよ」


…そりゃあ君らは乗り越えられた道かも知れないけどさあ、マイのあがり症知ってるでしょ!?


「じ、じゃあとりあえず、ユウからコメント撮ろうか……」

「はい。よろしくお願いします」


…とは言え、コメントも全然作ってないよ!ユウとハルはその場で自分で考えて喋れるからいいとして、マイの分どうしよう……

よりにもよって、ナユタさん今日から正式にマネージャー外れちゃったしなあ……。

やっぱり、僕が考えるの……?


「あ、あの、マネージャーさん……私、やっぱり無理ですぅ~!」

「だだだ、大丈夫だから。落ち着いて!」

「あらあら。まずはマネージャーさんが落ち着かないと、ですね」


 他人事みたいに言わないでユウ!



 そんなこんなで、ユウとハルは無難にコメント動画の収録を終えた。

 でもマイは。


「と、とりあえず落ち着いて深呼吸して。拙くても自分の言葉でいいから、自己紹介して、んで『よろしくお願いします』って。言えるよね?」

「は、はい、がんばりましゅ……」


 噛んでる。噛んでるよマイ……!



 結局、30秒のミニ動画に収めるのに30回以上リテイク使っちゃって。

 リテイク繰り返すうちに文言の整理とか色々して原稿みたいなものも作って。カメラマンさんからもアドバイスをもらいながら、どうにかこうにか撮りあげた。

 撮影中、ユウが、その様子も撮っておけばあとで公式HPに上げられるから、と入れ知恵してくれたのでそれも撮って。

 ちょっと隠し撮りみたいになっちゃったけど、これはこれでマイの魅力を見せられる1コマにはなるかも。


 それから3人の個別の写真と、3ショットの写真とをそれぞれ数パターン撮って。さらに3ショットの動画も複数撮って、それらを逐一ナユタさんに転送して確認してもらう。

 マネージャーを外れたとは言っても、そのぐらいはしてもらわないと。こんなにバタバタになったのはナユタさんのせいなんだし。


 で、最終的に全部OKが出た時にはもう11時過ぎになっていた。


 やっべ。

 マネージャー交代の告知してねえぞ!


…あれ?ってことは僕の写真も必要なんじゃ?


『あ、そうですね。一応あった方がいいので撮ってもらって下さい』


…そんな事言われたって、僕こそ何にも用意できてないってば!


 スタジオのスタイリストさんに最低限整えてもらって、数パターン撮ってもらう。でもこれ、公式HPで使うだけで告知に出すのは止めとこう……。

 マネージャーが目立ったって仕方ないし、何より俺が恥ずかしい。



 結局、11時半すぎにマネージャー交代とアカウント管理の引き継ぎを発表。同時に「13時に重大発表」という事にして、そこでマイの正式加入と今夜の生出演を発表する事に。

 ちょっと言われた予定より遅いけど、それはもう文句は言わせない。そもそも悪いのナユタさんだし。


「ほ、ホントにあれで良かったんでしょうか……」

「……今さらどうしようもないよ。もう諦めて覚悟決めな」

「ふえぇ……!」

「それより今夜は1時間番組の生出演だから。こっちはあらかじめ聞いてたと思うんだけど、大丈夫か?」

「き、聞いてましたけど。や、やっぱり無理ですぅ!」


 今さらそういう事言わないで!頼むから!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 いやもうビックリしたのなんのって。

 マネージャー交代の告知だけで瞬く間に拡散されて。コメントも各アカウントで爆発的に寄せられた。


 通知はそもそも切ってあるからアラートが鳴りっぱなし……なんて事にはならないが、ここのところ巡回でも同行してるのを目撃されてるからか、

“あの従者か……”

“副隊長だな”

“執事殿もついにお披露目か”

“噂に聞いていた副総統のことか!”


 いやもう誰のファンか分かるっつうの!


 いや待って。副総統って何?


「私のファンの方ですね。人呼んで『全日本自ユウ連合』の皆さんです♪

私が“総統”なので、マネージャーさんは副総統と呼ばれてるみたいです」


 全日本自ユウ連合……

 ユウが総統……

 それで副総統か……なるほど……


 って納得してる場合か!なんだその昭和の暴走族みたいなファンクラブ名!?

 ああもう、もうすぐ13時じゃねーか!

 ええと、同時発表なら投稿予約しといた方がいいな!って、使った事ないSNSのはどうやるか分かんねえ!


「“フォトスタ”には予約投稿の機能はありませんよ?」

「……えっマジで?」

「はい、でも外部アプリを通せば大丈夫です♪私やりましょうか?」

「わああ助かる!ユウお願い!」

「はい♪お任せ下さい♪」


 てな感じで最後までバタバタで。

 食事する暇もなく。


「ねーねーマスター。もうやることないよね?戻ってお昼にしようよー」

「お、おう、そうだなハル」




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「そろそろ13時ですね」


 寮棟のダイニングですっかり遅くなってしまった昼食を4人分並べながら、ユウが言う。


…わざと気にしないようにしてるんだから言わないで!

ほらぁ、マイが梅干し食べたみたいな顔になってんじゃん!


「ま、まあ、とりあえず食べよう。全てはそれからだよ」


 もう渇いた笑いしか出ないが、それでも無理やり笑う。あーもうほんとマジで、マネージャーの仕事始めてから一番緊張しとるわ。


「ご飯……ノド通りません……」

「き、気にしてたって仕方ないんだから、無理やりでも食べな」

「そうですよマイさん。お昼食べたら夜に向けて歌とダンスの最終確認なんですから、しっかり食べておかないと倒れちゃいますよ」


 んん?歌とダンスの最終確認?


…あ!


 そうだ!音楽番組なんだから生歌披露があるじゃねーか!しかも人気アイドルMuse!の、新生レフトサイドの新規加入の、正式発表直後のサプライズ出演なんだから歌わないで済むわけねーぞ!


「わあ大変だ!マイ、食べ……」


 白眼剥いて気絶してるーーーー!!






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