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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【はじまりの1週間】
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第二十九幕:先々を見据えた布石(3)

「あと、これはついでなんだが、マイの事もちょっと気になっててな」


 話の流れ上、あまり関係はなかったが、ついでだからレイにも話しておこうと口を開く。


「マイが?何故かしら?」

「普段から先輩に囲まれて戦闘中めっちゃ緊張してるからさ。スタミナが続かないのはそのせいもあると思うんだよな。だから歳もキャリアも近いハルやサキと組ませたら、少しはリラックスして戦えるんじゃないか、って思ってね」

「えっその、私なんか全然まだまだで……」


 あ、マイがやっと復活した。


「マイさ、自分で気付いてないだろうけど、ユウやリンに毎日しごかれてるせいで戦闘時のポテンシャルめっちゃ上がってるからな?午前中、ユウだって驚いてただろ?」

「でっでも、結局バテたことを怒られたし……」

「それでも、よく頑張ってるとも言われたじゃないか」


 ユウは普段はおっとりしていて怒ることもほぼ無い優しい子だが、戦闘のことだけは厳しくなる。だけどそれは最初のfiguraとして、アフェクトスもろくに収集できなかったような頃から戦い続けてきた彼女なりの“後輩たち”への優しさだと思っている。何しろ命をかけて戦うのだから、甘いばかりじゃダメなのだ。

 だけど、彼女と知り合ってまだ間がない若いマイには、そう思えなかったとしても不思議はない。


「そうね。私も貴女はとても頑張っていると思うわ」


 レイも俺の言葉を肯定して、それでマイも少しだけ安心したような、ホッとした顔になった。

 んー、マイにはもう少し自信つけさせた方が良さそうだな。


「それに貴女、ダンスでもかなりレベルアップしてるわ。この間、私が見違えたって褒めたの憶えてるかしら?」

「はっはい!すごく嬉しかったです!」

「私はね、『今のレベルでは絶対クリア出来ないであろう課題』を出したのよ。でも貴女はそれを全てクリアしてみせた。どこまでやれるかさえ見られれば良かったのに、貴女は私の想定を超えてみせた。

だから誇りなさい。貴女はもう一人前よ」

「~~~~~~!」


「あーレイ。それ以上褒めたらマイが泣くから」

「ふふ。たまにはいいんじゃないかしら」

「ふえ、ふえええ~ん!」


 ほーら泣いちゃっただろ。


「ほらほら泣き止め。こんな街中で泣いたらみんな何事かと思うだろ?」

「だって、だって~!」

「でも、そうなると私も貴女の戦いを見てみたくなったわね。オルクスが出たら、スケーナはサキに任せて戦ってみない?」

「俺としてはマイのスケーナの規模や持続時間を見たいんだが。まあそれでもいいよ」


ピピッ。


『いいタイミング、と言っては何ですが、“マザー”が検知しました。そこから南に300m、3体います!』

「早速お出ましね!みんな行くわよ!」



「では、私がスケーナを。マスター、指示は任せました」

「……私、やります!」

「ハル参上!」


 サキがけだるそうに、手の中の『鍵』を指に引っ掛けてクルクル回しつつ、パッと跳ね上げて落ちてきたそれを掴み、そのまま自分の胸の『霊核(コア)』へと挿し込む。虹色の光がパッと拡がり、あたりはサキの“舞台(スケーナ)”の世界へと変貌する。

 サキのスケーナはしっかり3体とも捉えている。ハルはいつも通り軽やかなステップで楽しそう。マイはまだ目に涙を浮かべているが、それでも午前中とは見違えるほど自信に満ちあふれている。

 やっぱり思った通り、この子は誉められたら伸びる子だ。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 で、まあ。結論から言えば。

 マイは悪い意味で見違えるほどグダグダな戦いぶりだった。上手かったのはガードだけで、ハルと全く合わない動きでチグハグな攻めに終始した。

 ハルはハルで引っかき回すだけ引っかき回してトドメを相方に任せるスタイルだし、マイはマイで相方の動きを邪魔しないように他の敵に向かってしまうため、1体倒せるタイミングでふたりとも手を出さずに余計なガードを増やしたり、不必要な手数を増やしただけだった。


「…………マスター。これはどういう事かしら?」


 うっすらと怒りすら浮かべて、レイが難詰してくる。聞いた話と違うじゃない、とでも言いたげだ。


「あー、うん。こいつは多分アレだな。ユウやリンとばっかりシミュレーションやってたから、かな」


 基本的にユウもリンも世話焼きだから、シミュレーションバトルではあのふたりがよくマイに構ってるんだよね。

 そしてマイはシミュレーションでは、彼女たちのサポートありき(・・・)で動いている。先ほどの戦闘もまさにそういう動きだった。

 でもこの場には、ユウもリンも居なかった。つまりはそういう事だろう。


「ご、ごめんなさい……私、なんにも考えてなくて……普段通りに……」

「ユウさんやリンさんは前衛後衛ともにこなせる万能型、それに対してハルさんもマイさんも前衛特化型でサポートは不得手。マイさんがいつも通り(・・・・・)に戦ってたらハルさんと合うわけがありませんね」

「はうう……」


 あーあ。さっきの自信満々さが嘘みたいに小さくなってら。


「マイにはまだまだ経験が必要ね。もっと多くのメンバーと組んで、誰と一緒でも上手く戦えるようにならないと」

「はい、ごめんなさい……」

「そうしょげんなって。ユウやリンに合わせる事が出来てるんだから、すぐに他のメンツとも合わせられるようになるさ」

「じ、自信ないですぅ……」

「言うてもfiguraになってまだ2週間経ってねえんだし、上手くやれる方がおかしいだろそもそも」

「……マイは最初から感情が戻っていたせいもあるかしらね。みんな最初は感情がほとんどないから、極めて効率的に戦闘を覚えるもの」

「うっ。それは、まあ、申し訳ない……」

「あ、謝らないで下さい!それにはすごく感謝してるんです!」


ピピッ。


『戦闘、お疲れ様でした。まだゲートは検知出来てませんので、引き続き巡回をお願いします』

「ほらマイ、しゃんとなさい。失敗は次で取り返せばいいのよ」

「はい、がんばります……」



 だが、その日は結局それ以上の出現は確認されなかった。ゲートを討伐出来なかったのは残念だが、ナユタさんによるとそういう日もよくあるらしいから、それ以上気にしても仕方がない。

 マイは挽回の機会を失ってしょげたままだが、まあ、それは帰ってからにしてもらおう。

 それよりも。


「で、どうだったレイ。感想は?」

「……マネージャーの言っていたこと、マネージャーが見せたかったもの。少しは掴めたような気がするわ」


 レイの目が、戦闘を見せる前とはガラリと変わっていた。それだけでも見せた甲斐があったというものだ。


「そうか。具体的には?」

「そうね、あんなにマイとハルがバラバラに動いてるなんて、スケーナに集中していたらきっと見えなかったと思うわ」

「ううううう……」


 ナチュラルにマイが抉られて悶えているけど、とりあえずそれは後回しだ。ごめんマイ。


「それにああしてバラバラに動かれたら、スケーナを展開しながらだとサポートするにも限界がありそうだわ」

「そうですね、私も正直ちょっと困りました」


 サキにまで言われてマイが涙目になっている。


「うーん、ハル、いつも通りにやっちゃっただけなんだけど……なんか、ゴメンね?」

「周りを気遣って合わせるハルさんはもうハルさんじゃないと思います」

「まあさっきのことは、マイのせいでもハルのせいでも、ましてやサキのせいでもないよ。戦闘中に効果的に修正の指示を出せなかった俺の責任だから。

⸺俺ももっと経験積まないとなあ」


 そう、戦闘での失敗はマスターの責任。

 何かあったら、怒られるのは俺だ。

 それを肝に銘じないと。


 横で聞いてたレイが何やら考え込んでいる。今の言葉も、ちゃんと受け取ってくれたようだ。






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