第二十一幕:七人七色の鍵(2)
結局今日の巡回は、午前中はリンとユウとハル、午後はユウとアキとハルで、ユウとハルが午前も午後も出る、という事で落ち着いた。ちょっとふたりには負担にはなるけど、俺がついて行けないんだから三人組のほうが安心だろう。
うーん、もうふたりくらい欲しいとこだけどな。あとふたり増えて9人になれば、三人組3チームでバランスがいいんだけど。figuraって増えたりしないんだろうか。……まあ、それは霊核の数次第、ってことになるんだろうな。でもそういや、何個あるのか知らないな。
朝食のあと、リンとユウとハルが出かけていく。今日も渋谷駅周辺だろう。
アキは朝食にだけ出てきて、食べ終えたらそそくさと自室に戻ってしまった。レイとサキは食後の運動がてら、仕事に行くまでにシミュレーターを回すそうだ。そしてマイは手持ち無沙汰で、リビングの掃除を始める。となると俺の居場所がなくなるわけで。
…ふと、あることを思いついた。
ちょっとナユタさんに相談してみよう。
「ナユタさん、ちょっと」
事務所に降りて、他の職員さん達に気付かれないよう手元でバツ印を作りつつナユタさんに声をかける。 MUSE関連の話をしたい時の秘密の合図だ。
目でコンタクトを交わし、ふたりで時間差で応接室に入る。
「どうしました?巡回の随行ならダメですよ?」
「いや、そうじゃなくて。
ちょっと思いついたんですけど……」
シミュレーターでもアフェクトスを得られることは事前に確認していた。原理はよく分からないけど、シミュレーターのデータは実際の戦闘でのデータを元に構築しているので、部分的にせよ本物の性質をも反映しているのかも知れない、という話をナユタさんとした事があった。
だとするなら、『アフェクトスを得る目的でシミュレーターの敵編成を組む』ことも可能なんじゃないか。
まあこれもまた思いつきなんだけど。
「なるほど。確かにそれが出来れば、アフェクトスの調達もさらに捗りますね」
「ですよね。ライブや実戦で集めるアフェクトスは地域浄化や戦闘衣装開発に必要だから、figuraの強化に使えるアフェクトスを別に集める必要があると思いますし」
「確かにそうですね。それに、それが可能なら、いつ発生するかも分からない危険な実戦を待つ必要もなくなる……」
そう。現状では実戦で生き残るためにfiguraたちを強化したいのに、その強化に必要なアフェクトスを得るために実戦をこなさなければならないという矛盾した状況になってしまっているのだ。
「分かりました。所長に提案してみますね」
「よろしくお願いします」
「……まあ、提案が通った所で調整するのは私ですけどね……」
「あっ、それはその、すいません……」
「ふふっ、冗談ですよ。私も桝田さんの提案に賛成です。おそらく通ると思いますから、頑張って調整させてもらいますね♪」
「はい、その、仕事増やしてしまって申し訳ないです……」
「気にしないで下さい、って何度も言ってるじゃないですか。みんなのためになる改善案は、積極的に進めていくべきですよ。だから、これからも思いついたらどんどん相談して下さいね」
うっ。ナユタさんの笑顔が天使の微笑みに見えてしまう。苦労かけてマジすいません。
せめて彼女以外に誰かひとりでもシミュレーターの調整出来る人がいればいいんだけどな。セッティングや立ち上げ程度なら俺を含めて全員出来るけど、内部のデータ更新や変更、バランスの調整といった作業はナユタさんだけしか出来ないもんなあ。
「では、事務所に戻りますね」
そう言って、ナユタさんは応接室を出て行った。
仕方ないのでリビングに戻るとするか。
「マスター!入らないで!」
「えっマイ!?なんで!?」
「今ちょうど燻蒸殺虫剤をセットした所なんで、これから1時間はリビング使用禁止!です!」
ちょっと待てマイ。なんか年末大掃除並みに大掛かりになってねえか?
なんでダイニングの椅子が全部テーブルに上がってんの?
なんでキッチンの調味料棚が全部出されてんの?
シンクに張った薬液の、その中に漬け込んであるのってまな板だよな?
「やるなら徹底的に!です!」
…いやいやいやいや!君なんか目つきがちょっと怖いよ!?その目で燃えてんのってヤル気!?ヤル気の炎なの!?
⸺あ。そうだ。
「ところでマイ、ちょっと『霊核』の鍵を見せてもらってもいい?」
「えっ?は、はい、いいですけど……」
マイの鍵は白い色だった。白と言っても俺が作った純白じゃなくて、透き通るような抜ける白さ。クリスタルカラーというか、かすかに青みがかかった透青というのかな。
何というか、マイがまだ何色にも染まってないからこその色だと感じた。まあ多分だけど。
でもこれで、今までに見せてもらった四人は全員色が違うということになる。こうなると他の子の鍵の色も、一応全員分確かめないとな。
「ありがとう、もういいよ」
「これが、どうかしたんですか?」
昨日の実験のことを少し詳しく話して聞かせる。そして全員の鍵を一度見ておきたかった事も伝えた。
「私のなんかでお役に立てるのなら、いつでも言って下さいね!」
「チーッス」
「あっアキさん!今リビングはダメですっ!」
「んあ?なんでだよ?」
頭を掻きながら階段を降りてきたアキがリビングに入ろうとして、慌てたマイに止められた。これは午前中一杯はドタバタしそうだな。
…ていうか、マイも休養日だってこと忘れてない?
「ところでマイさあ。徹底的に、はいいけど、昼食の準備までには全部使えるようにしておきなよ?」
「えっ!?そ、それは……その……」
やっぱりこの子何も考えてなかったああああ!!




