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プロローグ第三幕:夕闇色の暗雲

本日投稿の三話目です。

本日の更新は以上になります。

 ふと気付けば、〖MUSE〗の6人全員が再び集まってきていた。殲滅、とやらはどうやら終わったようで、周りには先ほどのバケモノたちの姿は見えなくなっている。


「で?所長、ソイツは何?」


 彼女を可愛い、と言った小柄な子が口を開く。


「訳あって保護する。このまま連れ帰るぞ」

「へ?大丈夫なのそれ!?一般人でしょ!?」

「訳あって、と言っただろう。彼はどうも他の人間とは少々違うらしくてね。それに、現場を(・・・)見られた(・・・・)事でもあるしな」


「いやいやいや!隠す素振りもなかったでしょうがアンタ!」


 彼の物言いに、さっきツッコもうとしていたのを思い出して思わず声を上げた。すると途端に少女たちから『またか』といった感情が吹き出す。

 どうやら所長(この人)は、普段からこんな(・・・)感じ(・・)のようだ。いやそれどう考えても組織の長としてはダメなタイプなんじゃね?


「まあそう心配するな。何も取って食おうという訳じゃない。ただちょっと、色々調べるだけだ」

「いや不安しかないですけどね!?」


「では、貴方は私達と一緒に来たくはないの?」


 だがレイにそう言われてしまうと返答に困る。

 なにしろこの子たち全員、アイドルやってるくらいだから美少女揃いだ。中でもリーダーのレイは年齢も高めで、すでに大人の女性として心身ともに完成されつつあるのが、少しの会話や仕草からだけでも伝わってくる。

 そんな美少女の誘いを断れようか。

 いや無理だ、と五体満足で心身壮健な成人男子としては声を大にして主張したい。


「えっ、いや、そういう意味ではない事もない訳ではないというか何というか……」

「貴方、二階席中央の最前列でライブを見てくれていたわよね?だったら私達のファンなのではなくて?」


 いやなんで気付いてんですかレイさん!?

 そりゃ確かにいい席でしたよ!?ステージもよく見えたしステージからもよく見えたでしょうけど!


「ほえ!?レイちゃんもしかして会場のお客さん全部憶えてるの!?すっごーい!」

「ハル、そういう訳ではないわ。ただ何となく、目に留まったのを憶えていただけよ」

「いや、こんなどこにでもいそうなただのオッサンを憶えている事自体が奇跡というか」


 おい待て小娘おっさんて言うなや。俺まだ20代やぞ。

 いや、まあ、あんまりノれてなかったから、それで目立ってたのかも知れんけど。


「まあまあ皆さん。お話は帰ってからにしませんか?」

「あーだりー。とっとと帰ろうぜ〜」

「アンタはただゲームしたいだけでしょ!」


 いや全員キャラ立ちすぎじゃない?

 ていうか瞳、いつの間にかみんな虹色じゃなくなってるな。


 あ、でも隣のこの子はまだ虹色のままなのか。

 そんな彼女は、憧れのMuse!のメンバーが当たり前のように目の前にいて話していることに、まず驚きそして慌て、どうしたらいいのかオロオロしていた。 


「え、えっと、皆さん。あの、よ、よろしくお願いしますっ!」


「ふふ。はい♪よろしくお願いしますね」

「ええ、改めて歓迎するわ」

「うん、まあ、せいぜい頑張りなさい?」

「はっ、はい!頑張ります!」


 いや君、何を頑張るのか絶対解ってないだろ。


「そうそう。ちょっと目を閉じて頂けますか?」


 そう言うと、物腰の柔らかそうなグラマーな少女が彼女に歩み寄り、その肩に左手を置いて彼女の閉じた瞼に右手をかざす。


「はい、もういいですよ。目を開けて下さい」


「え、えっと、これは……」


 言われるままに目を閉じ、そして恐る恐る開けた時には、彼女の瞳はすっかり元の色に戻っていた。


「ふふ。まだ戦闘モードの切り替えも上手く出来ないみたいですね。でも大丈夫、すぐ出来るようになりますよ」

「……はあ。また基礎から教えなきゃだわ……」

「リンさん。可愛い後輩のためですよ?」

「分かってるわよ。やればいいんでしょ?」

「オレぁタッチしねーかんな」

「多分アキちゃんには誰も期待してないと思うよ?」

「うっせーハル、余計なお世話だ!」


「ほらいい加減にしろ。さっさと撤収するよ」


 好き勝手に喋りだす少女たちに、苦虫を噛み潰したような顔で所長さんが割って入る。

 あー、この人、さては普段からこの子たちに振り回されて苦労してんな。なんか最初は悪役っぽいコワモテなのかと思ったけど、案外悪い人ではないのかも。

 つうかまあ、一応、彼女を助けてくれたしなあ。



 一台の小型のマイクロバスが寄ってきた。

 皆が次々に駆け寄っていく所を見ると、おそらく迎えの車なんだろう。


 あ、ということは俺たちもこれに乗せられるってことか。


「そういう事だね。さっさと乗りたまえ」


 いやだから人の心を読まないで下さい所長さん。


「別に読んでなどいないさ。

読んでいるとすれば、君の表情かな」


 あ、顔に出てたわけね。

 って、そんなに出したつもりもないんだが。


「あ、あの。

……一緒に来て、くれるんですよね?」


 隣の彼女が、少し不安そうに声をかけてくる。


「……まあ、こうなれば乗りかかった船だしな。拒否権はないとか言われたし、俺も行くよ」

「⸺良かったあ。私、ちょっと不安で」


 うん、不安の感情出てたもんな。

 んで、それがいっぺんに安堵の感情に変わったよね今。

 本当、分かりやすいなこの子も。



 まあ本当に、乗りかかった船なんだろうな、これは。本当は乗りたくなんかなかったんだが。一度乗ってしまえば、もう元には戻れないだろうし。

 そんな事を思いながら、俺は一番最後にバスへと乗り込んだ。



 バスはゆっくりと走り出した。

 行く手には、ライブ前とはうって変わったどんよりとした夕焼けの曇り空。何だかこの先を暗示してる気がしないでもない。


 いや、悪く考えるのは止めておこう。何事も、諦めなければ何とかなるもんだ。

 そう、一度は間違いなく死んでしまったはずのこの子が、諦めなかった結果こうして隣に座っているように。


 たぶん何とかなるはず。多分。

 きっと大丈夫。


 そんな事を考えながら、ただ無言でバスに揺られていた。







ここまでお読みいただきありがとうございます。

明日からは1日1話更新、時間は19時を予定しています。



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